建設業の会計処理は、一般的な会社の会計処理より複雑であるといわれています。そのため、会計処理や税務処理の間違いが起こりやすく、税務調査で修正を受けるケースも多く見られます。今回は、建設業会計を複雑にしている理由と、税務調査で指摘されやすい注意点を解説します。
建設業の会計処理や税務処理
建設業会計の特徴とは何か?
建設業特有の会計処理として挙げられるのが「仕掛工事」と「収益計上時期」の2つです。
例えば商品を仕入れて売るだけの一般的な会社であれば、売れ残った商品は仕入れた金額のまま「棚卸資産」として資産計上しておくだけですし、収益(売上)の計上時期も、実際に商品を販売した日となります。建設業の場合は、資材を仕入れて現場で加工し、建設物を完成引き渡しするという流れになります。一般的な物品販売と異なり、仕入れるのは商品ではなく資材ですから、そのままの形で残ることもあれば加工した状態で残ることもあります。
加工しなければ「原材料」、加工後であれば「仕掛品」となります。また、収益(完成工事高)の計上時期も、工事完成時に全額計上する方法(工事完成基準)と、工事の進捗度に応じて計上する方法(工事進行基準)の2つを選択適用できます。
一般企業より会計処理・税務処理が複雑に
では「仕掛工事」と「収益計上時期」について、もう少し詳しく解説していきましょう。
・仕掛工事
仕掛工事とはその名称のとおり、決算日や月末のような会計の締日現在において、仕掛かっている(完成していない)工事を指します。一般的な物品販売では、商品が売れれば「売上高」を計上し、商品が売れ残れば「棚卸資産」として計上しなければなりません。これは、建設業でも同じですが、建設業が独特なのは「未完成で売り上げが計上できない」にもかかわらず「仕入れた資材が形状を変えてしまい資材として残っていない」という状態が起こり得ることでしょう。つまり、売上にはならないが棚卸資産としても残っていない「中間物」が存在します。これが「仕掛品(未成工事支出金)」です。
・収益計上時期
建設業の収益計上時期は、税法上、2通りの処理が認められています。
1つは、工事が完成した時点で請負金額の総額を売上計上する「工事完成基準」です。
メリットとしては、完成引き渡し日を基準としますので、収益計上時期は明確でかつ金額も正確になります。
もう1つが、工事の進捗割合に応じて請負金額の一部を売上計上する「工事進行基準」です。メリットとしては、工事が進捗さえしていれば収益が必ず計上される点です。
いずれの基準も工事単位での選択が可能ですので、決算の損益の状況に応じて様々な組み合わせが可能となります。
建設業の税務調査で指摘されやすいポイント
「棚卸資産の計上漏れ」と「収益計上漏れ」
建設業では、税務調査により指摘を受け修正申告をさせられるケースが多く見受けられます。ではなぜ、建設業で会計処理の間違いが起こりやすいのかについて、前章の「仕掛工事」「収益計上時期」を踏まえながら解説します。
・棚卸資産の計上漏れ
建設業では購入した資材は現場に投入され形状を変えてしまいます。社内に滞留せず形状も変わってしまいますので、どうしても計上漏れが起こりやすくなってしまいます。
また、建設業の棚卸資産を難しくしているのは、労務費も棚卸資産として計上しなければならない点です。ストップウォッチを持って作業していれば別ですが、どこの現場で何時間作業したというのを数値化するのは難しいですし、目に見えない分、計上漏れが起こりやすい要因となります。
・収益計上時期
少数の工事を請け負っているような会社であれば、完成引き渡しによる収益計上を失念するといったケースは少ないかもしれません。しかし、電気工事や管工事のように小口工事を多数請け負っているような業種では、収益計上時期を一つひとつ正確に把握することがより難しくなり、計上漏れが起こりやすくなります。
「専属外注」と「給与」の相違
建設業の会計処理で判断に迷う項目の1つが、「専属外注」と「給与」の違いです。「専属外注」とは、1つの会社からの受注に専念し発注会社の指示に従って作業を行う個人事業主のことです。外注とは通常、複数の会社から工事を受注し、自己の責任において自らの意志で作業するような形態を指します。しかし「専属外注」のような形態では、発注会社の従業員とほぼ区別がつきません。結果として、税務調査による指摘で「専属外注」への支払いが「給与」として認定されることになります。
外注費を給与認定された場合のデメリットとしては、次のような項目があります。
・消費税の仕入税額控除が受けられない
外注費は消費税法上、課税取引ですから仕入税額控除を受けられ、納付する消費税を少なくできます。これに対して、外注費が給与認定された場合、給与は課税対象外取引ですから仕入税額控除を受けられません。
・源泉徴収の対象となる
源泉徴収義務者である会社は、支払う給与から所得税を徴収(源泉徴収)する義務を負います。外注費の支払いから源泉徴収をしているケースはほぼありませんので、仮に専属外注が給与認定されれば、過去に支払った専属外注費にかかる源泉徴収を失念していたとされます。源泉徴収して税務署に納付すべき所得税が不納付になりますので、不納付加算税や延滞税の対象となります。
税務調査で指摘を受けないためのポイントとは?
作業日報と工事台帳の作成
このように、建設業では棚卸や収益の計上漏れが他の業種よりも頻繁に発生しがちです。
このようなミスを減らすための方法として不可欠なのが「作業日報」と「工事台帳」の作成です。
「作業日報」とは、現場作業員一人ひとりが「今日どの現場で何時間作業したか」を記入するための日報です。現場の動きは実際に会計処理をする事務員の方には見えにくいですが、「作業日報」をつけることで、書類上は現場の動きが把握できます。仕掛工事を集計する際に労務費の計上漏れを防げます。
「工事台帳」とは、材料費や労務費、外注費、工事経費がどれくらい投下されているかを工事現場単位で把握するための資料です。費用が発生する都度、投入した現場の工事台帳に金額を記入していけば棚卸資産を集計する際に計上漏れを防げます。
また、工事台帳の費用の発生状況から工事が完成しているかどうかを、ある程度目視で確認することもできます。
専属外注を給与認定されないためには
専属外注と給与の違いを判断する基準として、以下の条文があります。
「事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
ポイントとしては、次のような点が挙げられます。
専属外注はその線引きが難しく、税務調査でも争点になるところです。修正申告のリスクを避けるためにも、上記のようなポイントを再度見直す必要があります。
まとめ
建設業は1件あたりの受注高も大きいため、1つの現場の会計処理のミスで大幅な修正申告により多額の追徴税額が発生する可能性があります。仕掛工事と収益計上基準について再度確認をして、ミスのない会計処理を行いましょう。