日本の経済もようやく回り始めたものの、事業者の中には事業継続のための取り組みをしたくてもその費用が捻出できないという方も多いでしょう。
今回紹介する「小規模事業者持続化補助金」がその手助けになるかもしれません。是非制度の情報をチェックし、利用の検討に役立ててください。
※記事の内容は記載当時の情報であり、現在の内容と異なる場合があります。
小規模事業者持続化補助金の概要
最初に小規模事業者持続化補助金制度(以下「持続化補助金」)の目的や対象事業者などの制度概要を簡単に説明します。
2014年に始まった国からの補助制度
持続化補助金は、日本の事業者数において圧倒的多数を占める「小規模事業者(個人事業主含む)」が持続的発展を目指して行う販路開拓を支援することを目的とし、2014年に始まった制度です。
当初は販売促進や販路開拓に関する補助のみでしたが、現在では小規模事業者が作成した経営計画に基づき、自ら行う生産性向上のための販路開拓、あるいは販路開拓と併せて行う業務効率化への取り組みに対し、国が取り組みにかかる経費の一部を補助するという制度内容となっています。大企業に比べ、事業発展のためのコストを捻出しにくい小規模事業者を支援することで、社会経済や地域雇用の安定に繋ぐことも目的といえるでしょう。
持続化補助金は、2020年度からコロナ禍により加わった「低感染リスク型ビジネス枠」により、予算額が引き上げられ、申請数も増えて広く知られるようになりました。
「低感染リスク型ビジネス枠」は2021年度で終了しましたが、販路開拓を支援する通常枠に加え、一定の業務効率化に取り組む事業者を支援する特別枠が新たに創設され、引き続き募集を行うことになっています。
対象となる「小規模事業者」とは?
持続化補助金の対象となる「小規模事業者」とは、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、特例有限会社、企業組合、協業組合および個人事業主(商工会に所属する者)です。特定非営利活動法人(NPO法人)も収益事業を行っていれば対象となります。
ただし業種により要件が異なるので注意が必要です。以下の図をご参考ください。
(引用「小規模事業者持続化補助金ガイドブック」3ページ)
他に、直近3年間の課税所得の年平均額が15億円以下であることや、受付締切日前10カ月以内に持続化補助金を受け取っていないことなども要件となっています。
さらに、経営計画の作成や取り組みの実施について、商工会や商工会議所と共に取り組むことが求められています。
小規模事業者持続化補助金の申請枠について
持続化補助金には制度開始以来募集されている「通常枠」と、新設された「特別枠」の二つの申請枠があり、上限額や要件が異なります。特に「特別枠」については今後の採択例が待たれるところです。
まずは生産性向上を目指すなら通常枠
通常枠にあたるのは、「小規模事業者が経営計画を作成し、その計画に沿って行う販路開拓の取り組み」のうち、後述する特別枠に該当しないものをいいます。と書くとまるで禅問答のようですが、要は現在行っている事業の販路の拡大に直接的な効果が期待される取り組みだと考えてください。
具体的には、
- 購買者を全国拡大するため、オンラインショッピングができるホームページを新たに立ち上げる
- 新聞折込や直接配布のためのチラシを作成する
- 店舗をリノベーションして購買層を広げる
- 自社の商品をアピールできるイベントを開催する
などの例が挙げられます。
比較的地道な取り組みであることが多く、補助金の上限額は50万円となっています。また、かかった経費に対する補助率は3分の2です。
販路開拓+αで取り組むなら特別枠で
ポストコロナを踏まえた新たなビジネスやサービス、生産プロセスの導入等に関する取り組みへの支援を目的とした「低感染リスク型ビジネス枠」に替わり、新たに設置された特別枠は以下の5項目です。
- 賃金引上げ枠…申請事業書における最低賃金が、地域別最低賃金より30円以上高い小規模事業者が対象です。
- 卒業枠…「小規模事業者」とされる従業員数を超えて雇用を増やすことで事業規模を拡大する事業者。つまり「小規模」であることを卒業することになります。
- 後継者支援枠…「アトツギ甲子園」においてファイナリストに選ばれた小規模事業者。
- 創業枠…過去3年以内に、産業競争力強化法に基づく「特定創業支援等事業の支援」を受け、開業した小規模事業者への補助枠です。
- インボイス枠…2023年に開始予定のインボイス制度につき、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者となる登録をしたことが要件となる枠です。
「アトツギ甲子園」とは、中小企業庁が開催する、全国各地のアトツギが新規事業プランを競うピッチイベント(「アトツギ甲子園」Facebookより)です。現事業所が抱える課題を解決し新たなビジネスプランに取り組む小規模事業者の後継予定者を対象としています。
これら特別枠への応募については、各要件を充たした上で、通常枠同様販路開拓の取り組みを行う必要があります。
補助額は最大200万円と、通常枠よりかなり大きくなります。(ただしインボイス枠は上限100万円です。インボイス発行事業者登録は他の枠の要件に比べれば容易であるからと考えられます。)
なお、補助率は通常枠同様3分の2ですが、「賃金引上げ枠」については赤字事業者の場合4分の3に引き上げられます。
小規模事業者持続化補助金申請時のポイント
持続化補助金は有識者などに依る審査を経て採択の有無が決定されます。
「こうすれば必ず採択される」というメソッドはありませんが、書類を不備不足なく、補助金の趣旨に沿った内容で作成するために注意すべきポイントは以下の通りです。
対象となる経費を理解しておこう
持続化補助金は販路開拓事業にかかるすべての経費が対象となるわけではありません。公募ガイドブックには以下の11項目を対象経費として記載しています。
(引用「小規模事業者持続化補助金ガイドブック」12ページ)
- ①機械装置等費とは、新たな開発製品を作るための機械購入費などです。
- ②広報費は、チラシやパンフレットの作成や発送のための費用です。
- ③ウェブサイト関連費は、サイト作成、既成のサイトにオンラインショップを組み込む費用などが挙げられます。
- ④展示会等出展費は、新作の展示会などにかかる費用です。
- ⑤旅費は、例えば①~④のためにかかる交通費、宿泊費などです。
- ⑥開発費は、新たに開発する商品にかかる材料費や製造費などです。
- ⑦資料購入費は、主に販路開拓に必要な図書の購入費です。
- ⑧雑役務費は、開発事業遂行のため臨時に雇用した人員にかかる賃金等です。
- ⑨借料は、購入せずリースする機械や設備などの費用です。
- ⑩設備処分費は、販路開拓のために不要となった機械や設備を処分するのにかかる費用です。
- ⑪委託・外注費は店舗の改装工事費や専門家のアドバイス代などです。
ただし、上記経費は補助事業を遂行するためのものでなければなりません。
例えば②のチラシの場合、新サービスや店舗改装を謳い集客をするためであれば経費にあたりますが、新サービスのための求人のみを目的としたチラシは認められません。
⑧では販路開拓に関わらない通常業務の雇用は対象外ですし、汎用的に使用可能な文房具購入費は⑥、⑦に含まれません。
また、当然ながら経費を裏付ける見積書や領収書がないものは認められません。
過去の採択例などを参考に書類を作成しよう
どのような取り組みをすれば補助金を受けられるか、どうアピールすれば採択されやすいかについては、過去にどのような事業が採択されたかをリサーチし、自身の事業に当てはめて考えるのも一案です。
持続化補助金のサイトでは、過去の採択者一覧を確認できます。一覧には採択者名と補助事業の事業名称しか載っていませんが、自社サイトで補助事業につき詳細を紹介している場合もあるので、興味を惹かれる名称があればチェックしてみてはいかがでしょう。
また、持続化補助金の要項には審査ポイントが記載されています。各項目に該当すれば加点され、総合評価の高い事業から順に採択されるため、要項を読み込み、制度趣旨に沿った計画書類作成を心がけることが重要です。
書類作成が不安な事業者は、まずは補助金申請業務を専門とする行政書士などに相談してみてもよいでしょう。
まとめ
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓にかける費用を捻出しづらい中小の事業者をサポートし、雇用の拡大や地域の活性化にも役立てることを目的とした制度です。採択後は計画に沿った事業を実施し、実績報告書を提出して初めて支払いがされるため、実現可能な事業計画を作成し、申請するようにしましょう。