与党は、このほど「2023年度税制改正大綱」をまとめ、公表しました。岸田内閣が掲げる「貯蓄から投資へ」の具体化に向けた少額投資非課税制度(NISA)の抜本的な拡充、「エコカー減税」の23年度末までの据え置き、23年10月の消費税インボイス制度導入に伴う小規模事業者への負担軽減措置などが盛り込まれています。焦点の防衛費増額のための増税については、法人税、所得税などを対象とすることが決まりましたが、施行時期は24年以降とされました。主な改正点を中心に解説します。
「税制改正大綱」とは?
私たちが様々な形で納めている税金は、社会情勢などに合わせて、毎年その制度が見直されます。各省庁から出された要望などを元に、与党の税制調査会が中心となって翌年度以降の税制改正の方針をまとめたものが「税制改正大綱」で、毎年12月中に翌年度分の大綱が閣議決定されることになっています。
政府はこの大綱に従って税制改正法案をつくり、翌年1月召集の通常国会に提出します。この法案が成立すると、4月スタートの新年度から、新しい税制が施行されることになるのです。
2023年度の主な改正点
自民、公明両党が22年12月16日に公表した23年度の税制改正大綱には、次のような施策が盛り込まれました。
24年1月からNISAを拡充
NISAは個人の資産運用を促すために作られた税制の優遇制度です。購入した株式や投資信託などの売却益や配当金が一定の範囲内で非課税となり、現在は、株式や投資信託が幅広く購入できる「一般NISA」と、投資対象を一定の投資信託に限定した「つみたてNISA」があります。この制度は、どちらか一方の利用に限られています。
〈現行の仕組み〉
- 「一般NISA」:投資期限が2028年までで、非課税で保有できる期間は最長5年間。年間の購入額の上限は120万円で、非課税で保有できる投資総額は最大600万円。
- 「つみたてNISA」:投資期限が2042年までで、非課税で保有できる期間は最長20年間。年間の購入額の上限は40万円で、非課税で保有できる投資総額は最大800万円。
大綱には、この制度を改め、投資期限を無期限とした上で、投資枠の拡充を図ることが盛り込まれました。新制度は2024年1月からスタートします。
新たな制度には、長期の積み立てを目的に投資信託だけを購入対象とする「つみたて投資枠」と、上場企業の株式などを購入できる「成長投資枠」(「一般NISA」の衣替え)が設けられます。これらは両方合わせて利用することが可能です。
年間の投資の上限額は、「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」は240万円、合計で360万円となります。さらに、非課税で保有できる資産の限度額は、2つの枠の合計で最大1,800万円に拡大されます(株式などの枠はこのうち1,200万円以内)。
今回の見直しにより、NISAの制度は恒久化され、非課税で保有できる期間も無期限となりました。また、従来の「一般NISA」や「つみたてNISA」で投資をしている人も、新たなNISAは、それに“上乗せ”して1,800万円の上限額まで利用することができます。
一方、やはり税制優遇のある個人型確定拠出年金(iDeCo)は、65歳未満となっている加入可能な年齢が70歳未満に引き上げられることになりました。
「エコカー減税」は現行基準を23年末まで据え置き
自動車重量税の「エコカー減税」も見直されます。ガソリン車を優遇の対象外などとする一方、電気自動車(EV)の「2回免税優遇」を維持して普及を促進します。ただ、半導体不足による新車の納入遅れで減税を受けられない事態を防ぐため、23年4月末が期限だった現行基準を23年末まで延長し、新たな基準は24年1月から段階的に適用することになりました。
車検のたびに払う自動車重量税は、燃費基準の達成度合いに応じて減免されますが、24年1月以降は、「30年度燃費基準」を80%達成(現行基準では75%)すれば50%の減税、70%達成(同60%)なら25%減税へと、ハードルが引き上げられることになります。25年5月から26年4月末までは、90%達成すれば50%、80%達成なら25%に、さらに適用基準が厳格化されます。
インボイス制度導入に伴う負担軽減措置を明記
23年10月から始まる消費税のインボイス(取引した商品やサービスごとに消費税額と税率を記載した請求書)制度に関しては、売上高1,000万円以下の小規模・零細事業者、フリーランスなど消費税免税事業者から反発の声が出ています。課税事業者にならなければインボイスが発行できず、買い手側が仕入時の消費税を控除できなくなるため、結果的に取引打ち切りにつながる、などの懸念があるからです。売上高にかかわらず課税事業者になることは可能ですが、そうすると従来は手元に残った「益税」はなくなります。
収支が厳しい小規模事業者に配慮するために、大綱には税負担の負担軽減措置が盛り込まれました。具体的には、23年10月から3年間、消費税の納税額を売上時の税額の2割に抑える特例を設けます。これにより、免税事業者の課税事業者への転換を促進する方針です。
インボイスの導入に当たっては、それに伴う事務作業の増加も心配されています。そのため、大綱には、「買い手」となる小規模事業者の事務負担の軽減策も盛り込まれました。売上高1億円以下の事業者が1万円未満の商品を買う際には、インボイスがなくても仕入れ時の税額控除を受けられるようにするというもので、6年間の激変緩和措置とされています。
相続税、贈与税を「中立的な制度」に
議論になっていた「相続税と贈与税の一体化」についても、23年度の大綱で1つの方向が示されました。
生前贈与のうち、年110万円まで非課税(基礎控除)の「暦年課税」に関しては、現在、被相続人(財産を渡す人)の死亡前の3年間の贈与については相続財産に加算され、相続税の課税対象とされます。新たな制度では、相続財産に加算される期間が、7年間に延長されます。ただし、延長された4年間に受けた贈与に関しては、総額100万円までは相続財産に加算されません。期間は27年以降の相続から順次延長され、31年から7年間となる予定です。
暦年課税をめぐっては、長期間生前贈与を行い相続財産を減らすことで、大幅な相続税の減額も可能な富裕層に有利な仕組みだ、という批判がありました。相続財産への加算期間が延びることで、このスキームによる節税効果が以前よりも小さくなるのは確かでしょう。より多く節税するためには、早くから贈与を行う必要があり、それを通じて結婚、子育て世代への資金の移転を活発化させる狙いもあるようです。
贈与にはもう1つ、相続時に一括して納税する「相続時精算課税」があり、こちらには、従来なかった基礎控除額(年110万円)が新設されます。現行の制度では、父母・祖父母から子・孫への贈与が合計2,500万円以内なら、何回贈与しても贈与税は課税されません(2,500万円を超える部分に一律20%課税)。その代わり、被相続人の死亡時に、合計贈与額を相続財産に加算して課税されるのですが、その際に過去の基礎控除額が差し引けることになりました。
現行制度では、過度な「相続財産減らし」を防ぐため、相続税に比べ贈与税の負担が高い仕組みになっていますが、今回、親などがいつ財産を渡しても(生前贈与でも相続でも)税負担に差が出ない方向に、改正が行われました。
教育資金贈与の特例措置などを延長
30歳未満の子や孫に、入学金や塾代などの教育資金を一括で贈与した場合に、1,500万円まで非課税とする特例措置は、23年3月までの期限を3年間延長します。また、結婚・子育て資金の贈与を1,000万円まで非課税にする特別措置についても、2年間延長されることになりました。
マンション修繕に優遇措置
マンションの老朽化が問題になっていますが、大綱には、大規模修繕を実施したマンションの固定資産税の軽減が盛り込まれました。工事が完了した物件の翌年度の建物部分にかかる固定資産税が、最大で1/2軽減されます。ただし、23~24年度の特例措置となっています。
電子帳簿等保存制度の要件が一部緩和される
電子帳簿保存法による国税関係書類のスキャナー保存について、スキャナーで読み取った際の解像度、階調などの情報保存要件が廃止されます。また、記録事項の入力者などに関する情報の確認要件も廃止されます。帳簿、記録データ間などの「相互関連性要件」については、契約書・領収書などの重要書類に限定されることになりました。24年1月1日以後の保存に適用されます。
電子取引のデータの保存は、売上高1,000万円以下の保存義務者の場合、国税庁職員などの求めに応じデータをダウンロードできるようにしていれば、検索要件の全てが不要とされていますが、この対象者が「売上高5,000万円以下」に拡大されます。保存要件に従ってデータ保存できない場合でも、相当の理由があると税務署長が認め、データのダウンロードやプリントアウトした書類の提示・提出が可能になっていれば、保存要件にかかわらずデータを保存できる猶予措置が設けられます。
「1億円の壁」是正策を盛り込む
「1億円の壁」とは、年間の所得が1億円を超えると、所得税などの負担率が下がる現象を指します。会社員や個人事業主の所得は、高額になるほど税率が上がる「累進課税」で、最高税率は55%(所得税45%、住民税10%)となっています。一方、株式や不動産の売却益にかかる税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)のため、こうした利益が所得に占める割合の高い富裕層ほど、税負担率が低くなりやすいのです。岸田文雄首相は、21年の自民党総裁選で「金融所得課税の強化」を掲げ、この問題の是正を訴えていました。
「一億円の壁」の詳細については、「議論が始まる所得税負担「1億円の壁」 ところで、どんな「壁」? わかりやすく解説します。 」をご覧ください。
大綱で示されたのは、合計所得金額から3.3億円を差し引いた上で、22.5%の税率を掛け、この金額が通常の税額よりも大きい場合には、その差額を徴収する、という内容でした。25年分の所得から適用されます。
防衛費の税財源は、法人税、所得税、たばこ税に
23年度の税制改正大綱議論でにわかに注目され、増税反対論も渦巻いた防衛費の財源については、法人税、所得税、たばこ税を対象とすることが盛り込まれました。ただ、以下の措置の施行時期は、「24年以降の適切な時期とする」とされ、23年度の増税は見送られています。
法人税は、税額に対し税率4~4.5%の新たな付加税が課されます。中小法人については、課税標準の法人税額から500万円を控除する、としています。年間所得2,400万円以下の中小法人は課税対象から除外されるため、約96%の中小企業は対象外となります。
所得税については、所得税額に当分の間、税率1%の新たな付加税を課します。これに合わせて、現在課税されている復興特別所得税の税率を1%引き下げ、37年までとされていた課税期間が延長されます。
また、たばこ税は、1本当たり3円相当の引き上げが、段階的に実施される予定です。
まとめ
2023年度税制改正大綱に盛り込まれた主な改正点について、説明しました。私たちの暮らしや仕事に直接影響しそうなものも、多くあります。国会審議などを通じて修正が加えられたり、施策がより明確になったりすることもありますから、引き続きフォローしていきたいと思います。