臨時国会会期末の2022年12月10日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による「霊感商法」問題を受けた「被害者救済法」が参院本会議で可決され、成立しました。23年1月5日に施行されます。新しい法律には、個人から法人、団体への寄付の規制などが盛り込まれました。具体的にどのような行為が問題となるのでしょうか? 分かりやすく解説します。
そもそも「統一教会」とは?
初めに旧統一教会とはどんな団体なのか、おさらいしておきます。
1954年、韓国で創設
同教団は1954年、韓国ソウルで文鮮明氏という韓国人によって創立されました。日本に「上陸」したのは、64年。宗教法人「世界基督教統一神霊協会」(略称「統一教会」)として認証されました。
ところが、80年代以降、不安を煽って壺などの高額商品を売りつける「霊感商法」が社会問題化し、対策弁護士連絡会が結成されます。一方、92年には、ソウルで行われた「合同結婚式」に、歌手の桜田淳子さんや元オリンピック選手の山崎浩子さんらが参加して、大きな注目を浴びました(山崎さんは、その後脱会)。
司法の場では、たびたび「敗訴」
教団が勢力を拡大させる中、霊感商法被害の告発のほか、「洗脳」されて入会した家族を「取り戻す」運動も活発化し、統一教会に対する訴訟も提起されました。97年には、最高裁が同教団の上告を棄却し、その手による霊感商法の違法性を認める判決が確定しています。また、2001年には、元信者が精神的自由を奪われたと訴えた裁判で、やはり最高裁まで争った末に、統一教会側の敗訴が確定しました。さらに、09年には、教団の信者を増やすことを目的に違法な印鑑販売を行ったとして、東京地裁で印鑑販売会社社長に有罪判決が言い渡されています。
今回、「統一教会」に「旧」が付けられているのは、15年に文部科学大臣が「世界平和統一家庭連合」への名称変更を認証したため。そして、22年7月8日、奈良県で安倍晋三元首相に対する銃撃事件が起こります。山上徹也容疑者(23年2月まで鑑定留置の予定)の犯行動機が、母親が入会し多額の献金を行っていた旧統一教会に恨みを募らせていたため、とされたことから、あらためてその存在がクローズアップされることになりました。
「被害者救済法」の中身とは?
「霊感」で不安を煽る寄付などを禁止
教団名を変更した後も旧統一教会による不当な寄付勧誘行為が続けられ、多くの被害の発生が明らかになったことから、団体に対する規制の機運が高まり、銃撃事件から半年たたず新法の制定にこぎつけました。成立した「被害者救済法」(正式名称「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」)では、これまで十分対応できなかった悪質な行為に規制がかけられます。
なお、言わずもがなのことですが、この法律は旧統一教会のみを“狙い撃ち”にしたものではありません。宗教法人以外の「法人等」も含め、違反すれば罰則などの対象となります。「霊感商法」以外の悪質な寄付の勧誘も同様です。では、その概要をみていくことにしましょう。
新法の目的は、「法人などから不当な寄付の勧誘を受ける人たちの保護」で、法人や任意の団体などが寄付を勧誘する際に「不当な勧誘行為によって個人を困惑させてはならない」と定めています。禁止される「不当な勧誘行為」については、次の6類型が示されています。
- ①帰ってほしいと伝えても退去しない「不退去」
- ②帰りたいのに帰してくれない「退去妨害」
- ③勧誘をすることを告げず、退去困難な場所へ同行する
- ④威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害する
- ⑤恋愛感情などに乗じ、関係の破綻を告知する
- ⑥霊感などの特別な能力により、そのままでは重大な不利益が起こることを示して不安を煽り、契約が必要不可欠と告げる「霊感商法など」
旧統一教会の問題で特に焦点になったのは、⑥の勧誘です。
このほか、「寄付のために個人に借金させたり、自宅や土地などを売らせたりすることで、寄付の資金を調達すること」を要求するのも、禁止行為とされました。
こうした禁止行為に違反した場合は、行政措置の対象となることが規定されています。行政の勧告・命令にも従わなかった場合は、罰則として1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科されることになります。
法人などに「配慮義務」を課す
さらに、新法では、寄付の勧誘を行う法人などが、寄付の勧誘を受ける人に対して「十分に尊重するよう求めた行為」(「配慮義務」)が盛り込まれました。以下の3点です。
- ①自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状況に陥ることができないようにする
- ②寄付者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にすることがないようにする
- ③勧誘をする法人などを明らかにし、寄付される財産の使途を誤認させる恐れがないようにする
①は、旧統一教会の勧誘でも問題になった、いわゆる「マインドコントロール」を念頭に置いた規定です。
新法では、これらの規定について、勧誘する側が「十分に配慮」することを求めていて、これを怠った場合は、行政が勧告を行い、従わなければ法人名の公表を行える、としています。
不当な勧誘に基づく寄付に「取消権」
説明したような不当な行為によって、寄付の勧誘を受けた人が「困惑」し、そのまま寄付をした場合は、その寄付を取り消す「取消権」を行使することができます。なお、「被害者救済法」の対象となるのは、遺言による贈与や債務免除といった「契約に当たらない寄付」で、「契約に当たる寄付」については、同法と同時に成立した「改正消費者契約法」の対象になります。
新法では、この取消権が行使できる期間(時効)について、不当な勧誘⑥の「霊感商法など」の場合は、被害にあったと気付いた時から3年(従来の消費者契約法では1年)、または寄付した時から10年(同じく5年)に延長されました。それ以外の勧誘(①~⑤)では、気付いた時から1年、寄付時から5年となっています。
これは、例えば「宗教二世」のような、寄付した本人の「家族」も対象です。寄付者本人が寄付の取り消しを求めない場合でも、扶養されている子どもや配偶者に一定の範囲内で取消権を認め、本来受け取れるはずだった養育費などを取り戻すことができます。
問われる実効性
新法には、施行から2年を目途に見直しを行う規定が設けられました。また、可決時の付帯決議には、速やかに行政措置の基準を示す、「配慮義務」の具体例を示す――など16項目が盛り込まれています。
報道では、元信者などから、「正直、こんなに早く法律ができるとは思わなかった」「被害者救済に向けた第一歩だ」と評価する声が紹介されています。一方で、「禁止要件が厳しいなど、実効性に疑問がある」という見方も根強いようです。実態に合った柔軟な見直しなども行いつつ、真の被害者救済となるよう期待したいと思います。
まとめ
旧統一教会による不当な寄付勧誘問題を受けた「被害者救済法」が、国会でスピード成立しました。同法には、法人などが霊感の知見を使って不安を煽るなど、個人を困惑させる勧誘行為の禁止が初めて明文化されています。ただし、高額の寄付などが本当になくなるのか、実効性が問われるのはこれからで、今後も問題の行方を注視する必要があるでしょう。