メタバース(仮想空間)で金融サービスを提供する又は参入を公表する金融機関が増加しています。2022年11月には、三菱UFJ銀行など3社がメタバースにおける金融サービス提供に向けて協業することを発表しました。メタバースの市場予測や金融機関のメタバース参入事例3つ、今後の可能性などについて解説していきます。
メタバース市場に大手金融機関が続々と参入!市場が急成長との予測
メタバースとは
メタバースとは「超越した(Meta)」と「宇宙・世界(Universe)」を組み合わせた造語です。主に「インターネット上の仮想空間」という意味で使用されています。
メタバースでは自分の分身(アバター)として過ごす、装飾品を買う、イベントに参加する、不動産を購入するなどの行為が可能です。
総務省の「2022年版情報通信白書」では、市場規模の急拡大が予測されています。
同白書には「技術の進展とサービス開発によって、メタバースの世界市場は2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予想されている」と記載されています。
「総務省 2022年版情報通信白書」より
メタバースはエンターテインメントだけではなく、教育・小売りなどさまざまな分野での活用が期待されています。金融分野でも大手金融機関がメタバース参入を発表しました。
三菱UFJ銀行など3社協業のメタバースプラットフォームで金融サービス提供へ
2022年11月にANA NEO株式会社・損害保険ジャパン株式会社・株式会社三菱UFJ銀行の3社はメタバースプラットフォーム「ANA GranWhale」を通して、新たな金融サービスの提供に向けて協業することを発表しました。
ANAのグループ企業・ANA NEO株式会社はバーチャルトラベルプラットフォームの開発・運営を展開しています。ANA NEO株式会社のメタバースプラットフォーム「ANA GranWhale」で金融サービスの提供に向け、今後は3社で検証を実施する予定です。
三菱UFJ銀行は「ANA GranWhale」への出店を予定しています。
同行は現在「Money Canvas」というプラットフォームを提供しています。
Money Canvasは資産形成の情報提供を始め、株式・投資信託の売買、保険の加入などが可能です。
「ANA GranWhale」ではMoney Canvasの機能を活用し、金融に関する情報発信やメタバースの特性を活かしたコンテンツを提供する予定です。
金融機関のメタバースへの参入は、バーチャルマーケットとして出店する方法の他にもさまざまなアプローチがあります。
金融機関のメタバース参入事例3つ
メガバンク・地方銀行・資産運用会社のメタバース参入事例をお伝えしていきます。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ「トークンビジネスラボ」
三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行は7月22日、HashPortグループとトークンビジネスでの協業に合意しました。
同社は「トークンビジネスラボ」を設置し、トークンビジネス推進に向けた調査・研究・実証実験に取り組む予定です。NFTなどトークンビジネスを検討する顧客に対して、事業化の支援やコンサルティングを提供します。自社のトークンビジネスを展開する可能性もあります。
トークンは「しるし・証拠」という意味で一般的には「NFT」の認知度が高いと言われています。NFT(Non-Fungible Token)は非代替性トークンとも呼ばれ、コピーや改ざんが出来ない仕組みになっています。
他には分散型で運営しているプロジェクトの統治・運営に関する意思決定に参加するための「ガバナンストークン」などがあります。
トークンビジネスラボは、NFTの発行・売却といったトークンビジネスを検討するかたを対象としたプロジェクトです。
島根銀行がメタバースに出店。アバター同士で商談
松江商工会議所・出雲商工会議所・一般社団法人島根城下町食文化研究会は2022年5月にメタバースで買い物を楽しめる「しまね縁結び商店街」をオープンしました。
メタバース「しまね縁結び商店街」はパソコンで所定のソフトをインストールし、自分のアバター(分身)を作ることで利用できます。
アバターはメタバース上に表示される自分のキャラクターで、パソコンで作成します。
しまね縁結び商店街にはパソコンから参加できます。VRゴーグルが無くても商談や買い物が可能です。
島根銀行は「しまね縁結び商店街」に10月末までブース出店しました。
メタバースへの出店はみずほ銀行やSMBC日興証券がイベント開催時に参加しました。
東京スター銀行はバーチャル商業施設に「VRラウンジ」を出店し、ATMの利用・オンライン相談などのサービスを提供しています。
メタバース関連企業に投資できる「グローバル・メタバース株式ファンド」
日興アセットマネジメントでは、2022年3月に投資信託「グローバル・メタバース株式ファンド」をリリースしました。
同ファンドは日本を含む世界の金融商品取引所に上場されているメタバースに関連するビジネスを展開する企業に投資し、利益を目指します。
2022年9月30日時点では、アメリカの「ROBLOX」「UNITY」などの企業の銘柄で構成されています。
ROBLOXは、ユーザーがゲームを作成・共有できるシステム・プラットフォームを提供する企業です。
UNITYはゲーム・アニメーションなどリアルタイム 3D プロジェクトを作成できるシステムの開発・販売をしています。
同ファンドは、日本よりメタバースが普及しているアメリカの株式の割合が73.8%となっています。
今後日本でメタバース事業が活性化することで、日本企業への投資が増える可能性もあります。
金融機関がメタバースに参入するのはなぜ?
金融機関のメタバース参入は、イベント参加など現在試験的段階の企業が多い状況です。
アメリカの大手金融ニュースサイト「Bloomberg」ではメタバース市場が「2020 年に13.1% の成長率を示し4,787 億ドルの市場規模となり、2024 年には 7,833 億ドルに達する可能性がある」と報じています。
日本でもメタバースが普及・浸透することで、若年層を中心に新たな顧客を獲得できるチャンスが広がります。よって現在は、大手を中心に実験的にメタバース市場に参画する金融機関が増えています。
内閣府では2022年11月に「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」を開きました。
同会議の資料によるとメタバースの系統等タイプとビジネスモデルには、VR-SNS系・ゲーム系・NFT型などがあります。NFT型は株式会社三井住友フィナンシャルグループの「トークンビジネスラボ」、バーチャル出店はVR-SNS系を利用したサービスに分類されます。
メタバースの現状と今後の課題
メタバース市場はアメリカを中心に急激に拡大したことから、法整備が追い付かず課題が存在します。
主にメタバース上のコンテンツをめぐる著作権・意匠権・商標権、アバターの肖像などに関する取り扱いなどが問題視されています。
金融面ではメタバース空間内でのデジタル資産の取引について、金融庁やデジタル庁で数回に渡り会議が開かれています。
現在のメタバースでは主に暗号資産(ビットコイン・イーサリアムなど)が通貨として利用されています。
暗号資産はボラティリティ(変動)が大きく、仮想通貨取引所FTXが経営破綻したことも問題になりました。
2017年から国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行う際には、暗号資産交換業の登録が必要です。金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」では暗号資産に関する留意事項として「移転記録が公開されず、取引の追跡困難な暗号資産が存在する等、テロ資金供与やマネー・ローンダリングに利用されるリスクが高いものも存在」と指摘されています。
「銀行グループによる暗号資産の取得は必要最小限度の範囲とする必要があり」という記載もあります。
よって、金融機関とメタバースは関わりが難しいという現状があります。
しかし、信託会社・銀行では一部の業務を引き受けられる旨のパブリックコメントを金融庁が公表しています。
まとめ
メタバースの市場規模は急成長が見込まれ、金融機関がメタバースに参入する事例が増えています。しかし暗号資産の取り扱いなど法的課題も存在します。今後の動向を注視していきましょう。