日本各地でイノシシやシカなどが、農作物を食い荒らしたりする被害が目立つようになりました。そうした事態に対応して、市町村などの自治体が害獣駆除に対する報償金制度を設けるケースが増えています。国も2012年度から同様の制度を始めており、中にはトータルで1,000万円以上の年収を得る人もいるそうです。ところで、「獣害」を防ぐのが目的のこの報償金は、所得税の課税対象になるのでしょうか? 害獣駆除の報償金について解説します。
害獣駆除の報償金をもらうには
狩猟とどう違う?
「害獣駆除」とは、具体的には農作物などに被害を与える有害な鳥獣を銃などで殺処分することを指します。「獣を銃で撃つ」というと狩猟が思い浮かぶのですが、害獣駆除はどう違うのでしょうか?
大まかにいうと、狩猟にはレジャーやジビエ料理の食材とするなどの目的があるのに対し、害獣駆除は自治体の要請を受けて害獣の個体数を減らすために行うもの、ということができるでしょう。ですから、後者には報償金が出ることがあるわけです。
ただ、現実的には両者に明確な線引きは存在しません。「害獣駆除は狩猟の一部」と考えることもできます。
害獣駆除には「狩猟免許」が要る
ですから、害獣駆除を行うためにも「狩猟免許」が必要になります。狩猟免許は、「鳥獣保護管理法」に基づき、住所地の都道府県知事が発行するもので、取得すれば全国一円で有効です。
狩猟免許には、法定猟法(使用できる猟具)の種類に応じて、次の4種類があります。
- 網猟免許:網(むそう網、はり網、つき網、なげ網)
- わな猟免許:わな(くくりわな、はこわな、はこおとし、囲いわな)
- 第一種銃猟免許:装薬銃(ライフル銃・散弾銃)
- 第二種銃猟免許:空気銃
狩猟免許を取得するためには、狩猟について必要な適性、技能及び知識に関して住所地の都道府県知事が行う「狩猟免許試験」に合格しなくてはなりません。試験に合格すると、「狩猟免状」が交付されます。なお、「網猟」と「わな猟」に関しては、狩猟免許の取得のみでOKですが、「銃猟」を行う場合は、都道府県公安委員会から、「銃刀法」に基づく猟銃の「銃砲所持許可」(猟銃1本ごと)の取得も必要です。
ちなみに、免許を取らずに鳥獣を捕獲・殺傷すると、鳥獣保護法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されることになります。
報償金の対象となる有害鳥獣とは?
「有害鳥獣」に明確な定義はありませんが、一般には人、家屋、農作物、家畜、水産物などに被害を与える次のような野生の(野生化した)獣や鳥類を指します。
- イノシシ、ニホンジカ、ニホンザル
- ハクビシンなど(ハクビシン、アライグマ)
- 鳥類(カワウ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、カルガモ、ドバト、キジバト、スズメ、ヒヨドリなど)
報償金の金額はどれくらい?
そもそも害獣駆除に対する報償金制度があるか、またどんな鳥獣が対象になるのかは、自治体によって違いがあります。報償金がもらえる場合、その金額はいくらくらいになるのでしょうか? ここでは、栃木県鹿沼市の例を挙げます。
まず、国は鳥獣被害防止総合対策交付金として、1頭(1羽)当たり、イノシシ、二ホンジカ、ニホンザルなどの成獣8,000円/幼獣1,000円、ハクビシン1,000円、鳥類200円などを支給します。これに、県(捕獲強化奨励事業)と市(破格促進事業)それぞれの報償金をプラスすると、次のようになります。
- イノシシ:成獣1万6,000円/幼獣9,000円
- 二ホンジカ:成獣1万5,000円/幼獣8,000円
- ニホンザル:成獣1万8,000円/幼獣1万1,000円
- ハクビシン:1,000円(県、市の報償金はなし)
- 鳥類:200円(同)
繰り返しになりますが、金額などはその自治体にどのような有害鳥獣が出没し、それぞれがどの程度被害を与えているのかによって上下します。報償金を得たいと考える場合には、各自治体のホームページなどで確認するようにしてください。
報償金をもらう手続き
報償金を受け取るための手続きも、自治体によって異なります。これも鹿沼市の例を挙げると、次のような書類などの提出を求められます。
- ①有害鳥獣捕獲報償金交付申請書
- ②捕獲票(捕獲年月日、捕獲場所、計測値、捕獲方法などを記載)
- ③写真
- ④切断した動物の尾(対象獣:ニホンジカ、ニホンザル、ハクビシン)
以上を市に提出すれば、国や県からの報償金も受け取ることができるとされています。
報償金には課税されるのか?
国税局がハンターの申告漏れを指摘
では、この報償金は課税対象になるのでしょうか? 結論は、「なる」です。昨年、次のようなニュースがありました。
野生のシカやイノシシを捕獲する滋賀県長浜、米原両市内のハンター約30人が昨年、大阪国税局の税務調査を受け、捕獲に応じて国などから支給される報償金で得た所得計約1億7000万円の申告漏れを指摘されていたことがわかった。(略)関係者によると、約30人は2020年までの5年間で、長浜市などから年に数十万~500万円超の報償金を得ていたにもかかわらず、所得の申告を怠ったり、過少に申告したりしていた。無申告加算税などを含む追徴税額は計約600万円で、いずれも修正申告を済ませたとみられる。(「読売新聞オンライン」2022年11月17日)
害獣駆除の報償金については、事業所得ないし雑所得として課税対象になることに注意が必要です。
事業所得か雑所得か?
よく問題になるのが、このような収入に課税される場合、「事業所得なのか雑所得なのか?」ということです。雑所得には、特別控除などが使える青色申告を行うことができない、事業所得で可能な損益通算(赤字を他の所得と相殺すること)が認められない、などのデメリットがあります。
鳥獣を捕獲して販売する狩猟を本業とする人が受け取った報償金は、その本業に付随して得た収入ですから、問題なく事業所得になるでしょう。個人事業主で本業が狩猟とは関係ない場合や、サラリーマンが副業として報償金を得た場合などは、雑所得となる可能性が高いと思われます。
経費になるのは?
所得税が課税される「所得」とは、収入(この場合は報償金)から、必要経費(それを得るために必要な出費)などを差し引いた金額をいいます。経費を確実に計上することで、納税額を抑えることが可能です。害獣駆除(狩猟業)特有の経費としては、例えば次のようなものが考えられるでしょう。
- 狩猟用品(ベスト、作業着、長靴、手袋、わななど)の購入費
- 備品工具(ナイフ、ロープ、スコップなど)の購入費
- 銃(銃本体、弾丸、火薬、雷管など)の購入費
- 射撃のトレーニング費用
なお、10万円以上の機材(銃など)は、減価償却資産となり、購入費用を使用可能期間(例えば銃の耐用年数は10年)にわたり、分割して費用計上します。
「知らなかった」では済まされない
さきほどの滋賀県の事例では、申告漏れを指摘された多くの人が「報償金が課税対象とは知らなかった」という反応を示したそうです。害獣駆除は、免許を持つ猟友会のメンバーなどが、ボランティアに近い形で行ってきた歴史があります。被害の拡大に伴い、近年になって報償金制度が導入された経緯もあって、課税に対する意識が希薄だったという側面は、否めないようです。
ただ、報償金関連の国の支出が増えていることもあり、国税当局はさらに厳格な姿勢で調査を進める可能性があります。申告漏れが見つかれば、たとえ悪意はなかったとしても、「加算税」や「延滞税」などのペナルティが課せられることになりますから、注意が必要です。
まとめ
全国的にイノシシなどによる獣害が広がっていることを背景に、自治体で害獣駆除に対する報償金を設けるケースが増えています。ただし、対象となる鳥獣の種類や報償金の金額は、自治体ごとに違いがあります。また、もらったお金は所得税の課税対象になりますから、注意してください。
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