重加算税は従業員の不正によって課されてしまうこともあります。今回はなぜ従業員の不正で重加算税が課されるのかと実際の事例について解説します。
そもそも重加算税とは
重加算税の概要と賦課要件
重加算税とは、過少申告などにより行政上の制裁を受けた際に加算される附帯税です。4種類が規定されていて、それらの中で重加算税は対応が悪質である場合に適用されます。状況により35%あるいは40%の税率で課される税金です。
また、国税通則法第68条を参考にまとめると、重加算税の賦課要件は以下のように定められています。
「過少申告加算税、不納付加算税または不納付加算税の規定に該当する場合で、納税者がその国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠蔽あるいは仮装し、その内容に基づき申告した際に課される」
この内容からわかるとおり、重加算税は過少申告、無申告または不納付となっている場合に課される行政処分です。そのような状況に陥っているという事実が重要となり、その事実と認識していたかどうかは問われません。ただ「隠蔽・仮装」との文言が含まれるため、基本的には故意に納税額を減らした場合に適用されます。悪意のない理由によって過少申告となっていた場合は、重加算税が課されません。
不正における従業員の範囲
従業員が何かしらの不正を働き、結果的に過少申告となっていた場合は重加算税が課される可能性があります。ただ、従業員の範囲については適切な理解が必要です。
従業員の不正によって重加算税が課される条件は「納税者自身の行為と同視できる場合」です。つまり、従業員の不正が個人ではなく会社ぐるみであると判断された場合に課されます。なお、原則として従業員の不正は会社としての不正です。会社が指示していない場合でも、会社には監督責任があるため会社として不正を指示したようにみなされます。
ただ、状況によっては会社としての不正ではなく、従業員の個人的な不正とも判断されます。
従業員等の不正があった場合の税務申告
基本的には所得計算を修正する
従業員の不正によって確定申告の内容に誤りが生じているならば、基本的には所得計算の修正が必要です。不正の内容を考慮して修正申告しなければなりません。
例えば、従業員の不正によって架空の発注費が計上されていたとします。これは会社の損金として計上されているはずです。しかし、架空の発注であり実際には計上できない金額であるため、これらについて差し引きます。それと同時に不正による損失を計上しなければなりません。
所得計算を修正すると、基本的には納めるべき税額が増えるはずです。これの納税が遅延していることになり、追徴課税や重加算税が課されてしまいます。
重加算税が課されない場合もある
従業員の不正によって正しく納税できていないならば、重加算税が課されることが多くあります。ただ、必ず重加算税が課されるとは限らず、状況によっては重加算税が課されません。
例えば、国税不服審判所の「平成23年7月6日裁決」では従業員の不正に対して税務署が重加算税を課しましたが、最終的にそれは認められなかったものです。税務署の解釈と国税不服審判所の解釈が異なり、最終的に「従業員の不正は個人的なものであり、会社ぐるみでおこなったとは認められない」との理由から、重加算税が課されませんでした。
損害賠償請求を考慮する
上記で説明した損金の修正と同時に不正をおこなった従業員に対しての損害賠償請求権とそれに関連する利益も計上します。所得計算においては損金だけではなく益金を考慮した修正もしなければなりません。これを同時両建説と呼びます。
なお、損害賠償請求権は必ずしも回収できるとは限りません。例えば、従業員の不正による損失が莫大な金額であると、回収することはほぼ不可能でしょう。この場合、損害賠償請求権は一度計上されますが、最終的には回収を諦め、貸倒損失として損金に計上します。
従業員等の不正で重加算税が課された3つの事例
従業員や役員が横領した例
法人において、形式上の監査役に報酬を支払い、その法人の創業者である取締役会長が私的に利用したものです。本来、監査役への報酬は損金として計上できますが、これが認められず重加算税が課されています。会長による私的な利用は横領に該当すると判断されました。
従業員や役員が売上などを圧縮した例
遊技場などを運営する法人において、経理担当者が収入の圧縮や経費の架空計上をおこなっていたものです。圧縮していた金額は大きく、上司や役員は従業員の不正にすぐ気づけるはずでしたが、チェックなどを怠っていました。
この事例は「従業員の不正は会社としての不正」との原則に基づいています。従業員の不正を容易に把握できる状況でありながら、これを怠ったために重加算税が課されました。
税理士などが隠蔽や仮装した例
会社が顧問契約を結ぶ税理士が所得を適切に申告せず、納税もしなかったものです。従業員の不正とは異なりますが、従業員の不正と同様に顧問税理士の不正も重加算税が課されました。
一般的に顧問税理士は会社経営において必要な専門知識を補う存在です。つまり、会社側が顧問税理士の業務内容を正確に評価することは難しいでしょう。しかし、知らないところで不正を働かれてしまうと、会社として重加算税を負担することになってしまいます。
従業員の不正で重加算税が課されるか判断する2つのポイント
会社の重要なポジションに就いていたかどうか
従業員が以下のように重要なポジションに就いていたかどうかが重要です。
- 経理課長や経理部長のような管理職
- 会計帳簿の作成を担当する役割
- 会計帳簿に反映するデータを修正できる権限
このようなポジションに位置する従業員は、不正を働くことも防ぐことも可能です。不正を防げるポジションにありながら不正を働いていたならば、これは会社として不正を働いていたとみなされます。そのため、このようなポジションの従業員による不正は重加算税の対象です。
申告書の内容が他者に指摘される立場かどうか
従業員が作成した決算書などを、他者が確認して指摘できたかがポイントです。複数人で確認できる環境でありながら不正を指摘できていなければ、これは会社として不正を容認したとみなされ重加算税が課されます。
逆に、担当者が1人しかいない状況で、他者による指摘が難しい場合は個人的な不正と判断されるかもしれません。個人の判断で不正を働き、会社に損失を与えていると判断されれば重加算税は課されません。
ただ、このような場合でも会社の管理責任や監督責任は問われます。税務署の判断によっては、会社は指摘できる立場であり、それを怠ったことが問題と判断されかねません。