SNSで商品を紹介し、報酬を得る「企業案件」と呼ばれる投稿に関わっていたインフルエンサーの女性9人が、東京国税局から計約3億円の申告漏れを指摘された、というニュースがありました。このように、個人による所得税などの高額な申告漏れの発覚するケースが、後を絶ちません。ところで、業種別にはどんな人たちの「不正」が目立つのでしょうか?
新型コロナが落ち着きをみせたことから、今年は件数が増加する公算大の税務調査で、標的になりやすい人とは?
国税庁の発表資料を基に考えてみます。
時代を反映するランキング
1位は経営コンサルタント
国税庁は毎年、個人の所得税の税務調査(※)の結果を公表しています。2021事務年度(2021年7月~22年6月)分の発表から、最初に業種別のランキングを見てみましょう。「調査1件当たりの申告漏れ所得金額」が最も高額だったのは、経営コンサルタントでした。
TOP10は、以下の通りです。
順位 | 業種 | 1件当たりの申告漏れ所得金額 | 1件当たりの追微税額(含加算税) | 前年の順位 |
---|---|---|---|---|
1位 | 経営コンサルタント | 2,266万円 | 611万円 | 7位 |
2位 | システムエンジニア | 2,150万円 | 519万円 | 11位 |
3位 | ブリーダー | 2,136万円 | 518万円 | 8位 |
4位 | 商工業デザイナー | 1,752万円 | 410万円 | 10位 |
5位 | 不動産代理仲介 | 1,656万円 | 453万円 | 9位 |
6位 | 外構工事 | 1,517万円 | 254万円 | - |
7位 | 型枠工事 | 1,507万円 | 239万円 | - |
8位 | 機械部品受託加工 | 1,507万円 | 319万円 | - |
9位 | 一般貨物自動車運送 | 1,493万円 | 195万円 | 14位 |
10位 | 司法書士、行政書士 | 1,440万円 | 358万円 | - |
引用:令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況【国税庁】
コロナ禍も影響
表を見てもらえばわかるように、1位の経営コンサルタントから3位のブリーダー(犬や猫の繁殖・流通業)まで、1件当たりの申告漏れの金額は、2,100万円~2,200万円台でほぼ変わりません。
経営コンサルタントと2位のシステムエンジニアは、以前からたびたび申告漏れ金額の上位に顔を出しています。申告についての一部の不明朗な実態に対して、国税当局から継続的に「目をつけられている」ことがうかがえます。わかりやすく言えば、当局から「申告漏れの多い業種」だと認識されているということでしょう。
また、昨年も8位に顔を出していたブリーダーは、コロナ禍の「巣ごもり需要」によりペット市場が拡大する中で、やはり当局が重点的に調査対象とした可能性があります。
あえて注目すれば、10位に司法書士、行政書士という士業がランクインしています。弁護士や司法書士に関しては、「過払い金請求」などの債務整理業務で得た報酬の一部を隠した、といったニュースを時々目にします。それらに加えて、新型コロナ関連の助成金などの申請業務が増加した(関連する所得が増えた)ことが、背景にあるのかもしれません。
一方で、2019事務年度まで1位の座を分け合ってきた、風俗業、キャバクラは、TPO10から消えました(前年度はキャバクラが4位)。こちらは、コロナによる外出制限、店舗の営業自粛などにより、そもそも所得が激減したためと考えられます。
税務調査の「重点ターゲット」とは?
調査件数は低水準ながら、対象になった申告漏れ所得は上昇
21事務年度の税務調査の概要をみましょう。実地調査(特別調査・一般調査、着眼調査※)の件数は31,407件で、前年度に比べれば、31.9%増加しました。ただし、これは前年度が新型コロナの影響で大幅ダウンしていた反動で、コロナ以前に比べると依然として低水準にあります。
他方、調査の結果はどうだったのかというと、次のようになっています。
- 申告漏れなどの非違件数:26,770件(前年度比28.6%増)
- 申告漏れ所得金額:4,198億円(40.3%増)⇒1件当たり1,337万円(6.4%増)
- 追徴税額:804億円(50.8%増)⇒1件当たり256万円(14.3%増)
これを見れば一目瞭然で、コロナ禍で対面による調査が限られる中、1件当たりの申告漏れの金額は増加し、結果的に追徴税額(本税+「加算税」など)も増えているのです。これについて国税庁は、発表資料の冒頭で「高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を優先して調査した結果」だとしています。
では、どのような事案が優先して調査されたのでしょうか? 国税庁は、次のような対象を「トピックス(主な取組)」として挙げています。
【ターゲット1】富裕層
まず、「有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に行っている個人など」の「富裕層」です。「資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に積極的に調査を実施」した、としています。
2021事務年度には、2,227件(前年度比3.2%増)の実地調査(着眼調査は除く、以下同じ)が行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は、過去最高の3,767万円(72.3%増)となりました。ちなみに、これは所得税の実地調査全体の金額に比べ、2.3倍の数字です。この結果、1件当たりの追徴税額も、過去最高の1,067万円(96.5%増)に上り、全体の3.3倍となっています。
【ターゲット2】海外投資を行っている個人
次に挙げるのが、「海外投資を行っている個人や海外資産を保有している個人など」です。国税庁は近年、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度に加え、各国の国税当局と共有する「CRS情報」(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)などを活用し、積極的な調査を実施している、としています。
21事務年度は、海外関連で2,043件(前年度比5.9%減)の実地調査が行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は、やはり過去最高の3,690万円(64.8%増)に上りました。これは、所得税の実地調査全体と比べ、2.3倍です。1件当たりの追徴税額は、1,119万円(112.3%増)となり、全体の3.5倍という高額でした。
なお、2,043件の調査を取引区分別に見ると、海外投資39.5%、輸出入9.7%、役務提供6.1%、残りは「その他」となっています。
【ターゲット3】インターネット取引を行っている個人
「インターネット上のプラットフォームを介して行うシェアリングエコノミー(※)などの新たな経済活動に係る取引を行っている個人」への監視も強めています。インフルエンサーの一件も、この分野の代表的な事例といえるでしょう。
21事務年度は、839件(31.3%増)の実地調査を行った結果、1件当たりの申告漏れ所得金額は、1,382万円(6.5%減)となっています。1件当たりの追徴税額は266万円(11.3%減)でした。
取引区分別には、シェアリングビジネス(民泊、カーシェアリング、クラウドソーシングなど)32.5%、ネット通販等(ネット通販、ネットオークション、ドロップシッピングなど)30.6%、ネット広告(アフィリエイトなど)7.0%、デジタルコンテンツ(アプリ作成・配信、有料メルマガなど)6.0%、ギグワーカー(配達代行業など)4.1%などとなっています。
【ターゲット4】暗号資産(仮想通貨)取引を行っている個人
20事務年度には、【ターゲット3】に含めて集計されていましたが、今回から切り離されました。「仮想通貨で取引している人」に対して、当局が「関心」を高めた証拠です。
21事務年度においては、444件(前年度比2.8%増)の実地調査が実施され、1件当たりの申告漏れ所得金額は、3,659万円(49.0%)の大幅増となりました。1件当たりの追徴税額は1,194万円(53.1%増)に上ります。
税務調査の2つの方向性
「ターゲットを絞る」調査は続く
ここ2年ほど税務調査の件数が低迷したのは、さきほども述べたように、新型コロナに足を止められたからです。一方で、税額面で最も重いペナルティである重加算税の適用可能性が高いような事案を中心に調査対象を絞り込んだ結果、1件当たりの申告漏れの金額や追徴税額は増加する、という「成果」も得ました。
コロナは一段落しましたが、国税当局が税務調査にある程度「メリハリ」を利かせるという姿勢は、継続される可能性が高いものとみられます。具体的には、【ターゲット】に挙げた富裕層、高額の海外取引をする人、ネットビジネスをする人や、ランキングの上位にある業種で所得を得る人などは、引き続き調査対象として狙われやすいと自覚すべきでしょう。
同時に件数も増えていく
新型コロナという障害が解消されることで、実地調査の件数も「回復」するはずです。リストアップされていたものの、優先順位から外れていた人も、今後調査の対象となる可能性があります。ペンディングになっていたような人が税務調査を受けて申告漏れを指摘された場合、延滞税が高額になるかもしれません。
まとめ
国税庁が公表した税務調査の結果では、経営コンサルタントやシステムエンジニアなどの業種で、申告漏れが高額に上る実態が明らかになりました。新型コロナの影響で控えられていた税務調査ですが、今後、件数の増加が見込まれます。申告について不安などがある場合には、税理士に相談することをお勧めします。