全国的に大きな波紋を広げている岡山県備前市の「マイナンバーカード普及政策」。備前市が「マイナンバーカードを取得する世帯に限り、小中学校の給食費の免除などを受けられる」とした条例案が、3月23日に可決されました。
給食費無料の条件は世帯全員がマイナンバーカードを取得
岡山県備前市では、子育て支援の一環として、国の新型コロナウイルス給付金を財源に、法律で保護者負担と記されている給食費をはじめ、保育料、学用品費を一律免除していましたが、今回可決された条例案では、これらの免除を「マイナンバーカード取得世帯に限って減免する」としています。
備前市では、2015年度に4〜5歳児の保育料を無償とし、2017年度までに対象を0歳児まで拡充、2022年度には小中学校の給食費の無償化を実現していました。
しかし2022年12月、これまで行っていた「小中学校の給食費や保育園・こども園の保育料免除の対象」を「マイナンバーカードを取得した世帯に限る」との通達をしていました。
これに対し、取得は任意とされるカードの有無で行政サービスに差をつける手法に、市内の保護者らが反発。「義務ではないマイナンバーカードの取得が、半強制的に促されている」などとして、市の人口(3万2000人)を上回る約4万6000件の反対署名が市に提出されたそうです。
同条例には、市議会議員からも反対意見が出るなど、全国的な物議を醸していましたが、3月23日に可決されたことで条例は2023年4月1日から施行されることになるようです。
2023/4/5追記
備前市の吉村武司市長は、4月5日に会見を行い、3月23日に可決した「マイナンバーカードを取得する世帯に限り、小中学校の給食費の免除などを受けられる」とした条例案を撤回することを明らかにしました。
これまでの方針を撤回し、今年度も一律で免除するとしています。
備前市が「マイナンバーカードを取得した世帯」にこだわる理由としては、国が自治体のデジタル化を支援するために創設し、住民のマイナンバーカード申請率が53.9%以上の自治体であれば申し込める「デジタル田園都市国家構想交付金」が絡んでいるようです。
現在、国はカードを「行政のデジタル化の鍵」と位置付け、カードを持つ人にポイントを還元するマイナポイント事業などで取得を促し、ほぼ全国民への普及を目指しています。
先進的な取り組みの自治体に対する「デジタル田園都市国家構想交付金」は、カード普及率が全国平均を上回っているかどうかで支給するかを決める方式としています。詳しくは、「今話題のデジタル田園都市国家構想交付金とはどんなもの?」をご覧ください。
2023年2月末時点で、備前市のマイナンバーカードの普及率は岡山県内の市町村でトップの78.2%となっています。その成果もあってか3月10日には、備前市は国から「デジタル田園都市国家構想」に関する交付金の内示を受けているようです。その額は約2億8500万円に上っています。市では交付金を「マイナンバーカードを活用したサービスの充実」や「鳥獣被害対策」などに充てたいとしています。
まとめ
マイナンバーカード普及のために、本来公平であるべき行政の住民サービスに、過度な格差が生じることへの懸念が生まれています。
全国的にも注目を集めている、備前市のマイナンバーカードに関する条例ですが、4月1日からの施行後も引き続き議論を呼びそうです。