日本には、派遣などの非正規雇用から、正社員と呼ばれる正規雇用まで、さまざまな雇用形態があります。
そして、「多様な正社員」という、新たな正社員のあり方が生まれています。
この記事では、多様な正社員と、正社員への無期転換ルール、および正社員化で受給できるキャリアアップ助成金について解説します。
多様な正社員制度とは
多様な正社員制度とはどのようなものか
「多様な正社員」とは、以前からある「正社員」の制度とは、異なる雇用のあり方です。
従来の正社員とは、下記のすべてに該当する労働者について、便宜上用いられる呼称です。
- 労働契約期間の定めがない
- 所定労働時間がフルタイムである
- 直接雇用されている
さらに、従来の正社員は、職務内容や勤務地が限定されていない場合がほとんどです。また、時間外労働(残業)が当たり前にあることも、めずらしくありません。
これに対して、多様な正社員とは、職務内容や勤務地、所定労働時間などを限定し、選択できる正社員を指します。
とはいえ、多様な正社員については、明確な定義や法の定めがあるわけではありません。
業種や職種などを踏まえて、企業がそれぞれに多様な正社員制度を設けることができます。逆に、従来の正社員と多様な正社員を、区別しないままにすることも可能です。
多様な正社員制度には、企業はもちろん、労働者にもメリットがあります。たとえば、以下のような点です。
- ワーク・ライフ・バランスが実現できる
- 雇用の安定や処遇が改善される
- キャリア形成・キャリアアップができる
多様な正社員とは具体的にはどのような例があるのか
この項では、多様な正社員の具体例をご紹介しましょう。
前述したとおり、多様な正社員制度は、法で義務づけられているわけではありません。ですから、多様な正社員として以下にあげる3つの例は、あくまでも代表的なものです。
●勤務地限定正社員
転勤するエリアが限定されていたり、転勤が一切なかったりする
・育児や介護の事情から転勤が難しい労働者などの離職を防ぎ、定着を促す
・地元密着型の人材採用を行うことで、地域のニーズに合ったサービスの提供や顧客の確保につなげるために活用する
●職務限定正社員
担当する職務内容や仕事の範囲が、他の業務と明確に区別され、限定されている
・資格が必要な職務や、同じ企業内で他の職務と明確に区別できる職務で活用する
・高度に専門的な職務で、プロフェッショナルとしてキャリア展開していくために活用する
●勤務時間限定正社員
所定労働時間がフルタイムではなかったり、時間外労働が免除されていたりする
・育児や介護の事情から長時間労働が難しい労働者などの離職を防ぎ、定着を促す
・労働者がキャリアアップに必要な、自己啓発の時間を確保するために活用する
また、このごろは、「週休3日」の多様な正社員も注目を集めています。
正社員への無期転換ルールとは
無期転換ルールとはどのようなものか
多様な正社員制度は、「無期転換ルール」に基づいて、労働契約期間の定めがある労働者(契約社員・アルバイトなどの有期契約労働者)を労働契約期間の定めがない労働者へと転換する際の、いわば受け皿としての役割も担っています。
「無期転換ルール」とは、有期労働契約が更新されて契約期間が通算5年を超えるときに、労働者が希望すれば、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)へ転換できるというものです。
労働契約法第18条の「有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換」を根拠としています。
ただし、無期労働契約に転換されても、正社員(従来の正社員または多様な正社員)になれるとは限りません。無期転換された後の雇用形態をどうするかに関しては、企業に一任されているからです。
基本的には、給与などの労働条件は、それまでの有期労働契約の労働条件をそのまま引き継ぐこととされています。
有期契約労働者に無期転換を申し込む権利が発生し、会社に無期転換の希望を出したときは、会社は断ることができません。
無期転換ルールは、原則として、有期労働契約が通算5年を超える有期契約労働者の全員が対象となります。ですから、企業内での呼び方がパートタイマーであれ、アルバイトであれ、契約社員であれ、同じように権利が発生します。
従来の正社員から多様な正社員への転換はあるのか
多様な正社員への転換は、有期契約労働者に限定されているわけではありません。従来の正社員が、多様な正社員になることもありえます。
従来の正社員と多様な正社員とのあいだの転換制度も、法で明記されていたり義務づけられていたりするわけではありません。
ただ、労働契約法第3条第3項の「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」には、従来の正社員から多様な正社員への転換制度も含むとされています。
そのため、厚生労働省は事業主に対して、多様な正社員制度の導入が望ましいとしています。
また、労働者が多様な正社員という働き方を選びやすくなるように、従来の正社員の働き方を見直すことも推奨しています。具体的に言うと、所定外労働や転勤、配置転換の必要性の見直しなどです。
従来の正社員と多様な正社員とのあいだの転換については、たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- ワーク・ライフ・バランスの実現のために、従来の正社員が多様な正社員へ転換する
- キャリアアップを目指して、多様な正社員が従来の正社員へ再転換する
正社員化で受給できるキャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とはどのようなものか
「キャリアアップ助成金」とは、雇用保険の助成金の一種です。
有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者に対して、正社員化や処遇改善の取り組みをした事業主に支給されます。
令和4年度現在、正社員化支援の助成金として、下記の2つのコースが設けられています。
●正社員化コース
有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換あるいは直接雇用したときに支給される
●障害者正社員化コース
障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者などに転換したときに支給される
雇用保険の助成金を受給するには、さまざまな要件を満たしていなくてはなりません。
そのため、その企業が定める多様な正社員が、助成金の支給対象として認められない恐れもあります。この点、くれぐれもご留意ください。
雇用保険の助成金は、新たなコースが設けられることもあれば、既存のコースが廃止されることもあります。また、受給要件が変わる場合もあります。
上記2つのコースも、年度が変わるタイミングで、何かしらの変更が加えられる可能性もあります。
そのため、最新の情報をチェックしておくことをおすすめします。
キャリアアップ助成金を受給するにはどうするか
正社員化支援の助成金を受給するには、定められた申請の手順を守らなければいけません。
支給申請までの流れは、おおむね以下のようなものです。
1、キャリアアップ計画の作成・提出
正規雇用労働者に転換する前日までに、キャリアアップ計画を作成し、労働局あるいはハローワークに提出する
2、転換制度の規則化
正規雇用労働者への転換制度に関する規定がない場合は、就業規則を改定するなどして、規定を設ける
3、正社員化
就業規則などに規定した転換制度に則り、正社員化する
4、転換後6カ月の賃金の支払い
正社員化コース:転換前6カ月間と比較して、転換後6カ月間の賃金が3%以上増額していることが必要
障害者正社員化コース:転換前と比較して、賃金を減額させていないことが必要
5、支給申請
転換後6カ月の賃金を支払った日の翌日から起算して、2カ月以内に申請する
「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」では、手順に若干の相違点があります。
支給を検討する際には、厚生労働省のパンフレットなどをご確認ください。
まとめ
ワーク・ライフ・バランスの重視やテレワークの普及など、労働者の働き方あるいは企業の雇用のあり方は、時代とともに変化しています。
今回ご紹介した多様な正社員制度も、今後ますます導入する企業が増えるかもしれません。
自分がどんな生き方をしたいのかも考慮して、多様な正社員を選ぶことを一考してみてはいかがでしょうか。