厚生労働省は、3歳までの子どもを持つ従業員が、テレワークで在宅勤務できる仕組みを省令で企業の努力義務とする方向で検討していることを明らかにしました。併せて、現在は3歳までとする残業の免除権も法改正により就学前までに拡大するようです。
そもそも残業免除権とは
労働基準法には、育児休業法に基づく育児休業取得者に対して、3歳までの子どもを養育するための残業免除権が定められています。この免除権は、子どもの健康や成長を考慮し、親が労働時間を制限することで家庭と仕事の両立を支援することを目的としています。
具体的には、育児休業取得者が3歳までの子どもを養育するために必要な時間外労働(残業)について、原則として免除されます。免除される時間外労働の上限は1日1時間、1カ月10時間までとなっています。これは、子どもを養育するために必要な時間外労働があっても、過剰な負担をかけずに仕事と家庭を両立できるようにするための措置です。
なお、育児休業取得者に対しては、残業免除権のほかに、育児時間短縮制度や時差出勤制度など、仕事と家庭の両立を支援する制度があります。これらの制度を活用することで、より柔軟な働き方が可能となります。
最近では、女性が社会進出することが当たり前になりつつある一方で、家庭や子育てにも積極的に関わりたいという男性も増えています。そうした中で、育児休業取得者に対する残業免除権は、男女を問わず、家庭と仕事を両立させるための重要な制度として注目されています。企業側も、この制度を適切に運用することで、従業員のモチベーション向上や生産性向上につながるとされています。
ただし、残業免除権を利用することで、仕事の負担を他の従業員に押し付けることや、企業運営に支障をきたすことがあるため、適切な運用が求められます。従業員側も、家庭と仕事のバランスを考えながら、適切に残業免除権を利用することが大切です。
育児休業後も柔軟な働き方を実現へ
今回の施策は、育児休業後も、柔軟に働ける環境を整えるのが狙いで、厚生労働省は、2024年にも育児・介護休業法など、関連省令の改正を目指すとしています。
現在は子どもが3歳になるまでの両立支援策として、原則として1日6時間の短時間勤務の採用が義務付けられています。テレワークによる在宅勤務が広がれば、特に都市部で働く人々は通勤時間を節約し、育児時間を増やすことができます。
保育所の整備や育児休業など従来の支援策に対して、今回のテレワークの推進は、職場復帰後の育児と仕事の両立を後押しする補強策と言えます。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークは急速に普及しました。国土交通省の調査によると、テレワーク制度が導入されている就業者の割合は、2019年度の19.6%から2022年度には37.6%まで増加したそうです。
テレワークを導入していない企業で働く人のうち、67%がテレワークを希望するというデータもあるほどです。企業が制度を整えられれば、テレワークの普及はさらに進む可能性が高いとされています。
しかし、テレワークの導入は中小企業にとって必ずしも簡単なものではないようです。物価高騰の影響もあり、必要な設備のコストは高まり、対面での業務が必要な業種では生産性の低下が避けられません。厚生労働省の意図するような新しい制度の進展は保証されていませんが、企業だけに任せるのではなく、社会全体で仕組みの改革を進める必要があるとされています。
国土交通省の調査では、企業規模が小さいほどテレワークを導入している企業の割合が少ないとの結果が出ています。例えば、2022年度のデータでは、従業員数が1,000人以上の企業では36.7%、100〜299人の企業では22.7%、20〜99人の企業では17.5%と、企業規模による差が確認されました。厚生労働省は、テレワークが難しい場合にはフレックスタイム制度の利用などを推奨しています。
育児と仕事の両立をサポートする政策は、少子化対策の重要な一部となっています。2022年10月には、「産後パパ育休」制度がスタートし、これにより出産後8週間まで育児休業と就労を組み合わせることが可能になりました。2023年3月までに、約14,000人がこの制度を利用したことも分かりました。
さらに、2023年4月からは、従業員数が1,000人を超える企業に対して、育休の取得率の公表が義務付けられました。さらに、厚生労働省は2023年度から、男性の育休取得率が顕著に向上した企業に対する助成金制度も拡大しました。
在宅勤務や育児休業の取得は個々の従業員の自由な選択に任されていますが、制度の導入が遅れる企業は、柔軟な働き方を求める労働者から選ばれにくくなる可能性があります。
2023年3月末には、政府は所得制限を撤廃することなどを盛り込んだ少子化対策の「たたき台」を発表しました。子育て支援や保育所の利用拡大などには財源が必要となりますが、子育て時間を確保するための制度改正は財源を必要としません。子育て環境の改善を優先すべき政策との声もあります。これらの施策は、社会全体で子育てを支え、少子化問題に取り組むための重要な一歩となるでしょう。