日本で進む少子高齢化が深刻であることは以前から指摘されています。政府は女性や高齢者を含めた「一億総活躍社会」の推進や、AIを使った業務の省力化などを提唱していますが、一方で他国はどのような対策をとっているのでしょうか?今回は少子高齢化に対する他国の取り組みについて紹介していきます。
※記事の内容は2023年9月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。
少子化が進む我が国の現状
人口ピラミッドが示す日本の少子高齢化
年代別・男女別に人口分布を表す資料に「人口ピラミッド」があります。表をみれば、その国が発展途上期なのか成長期なのか等を読み解くことができることから少子高齢化問題ではよく利用されます。我が国における最新の「人口ピラミッド」をみてみましょう。
日本の総人口は約1億2,000万人ですが、40歳以上の年齢層に人口の分布がシフトしているのが読み取れます。一般的に、人口が低年齢層に集中している国は「発展途上国型(ピラミッド型)」、20〜60歳の労働人口に集中している国は「成長国型(釣鐘型)」であるといわれています。日本の場合、45〜54歳層の人口が一番多くなっていますので一見「成長国型」のように思われます。しかし、20〜44歳といった若年労働者層が少ないこと、その下の低年齢層が下にいくほど減少していることなどから、少子高齢化が危惧される「壺型」に移行しつつあります。出生率の低下や医療技術の進化などでさらに少子高齢化が進めば、労働人口より高齢者の方が多い「衰退国型(逆ピラミッド型)」になる可能性も考えられるでしょう。
次世代に向けた少子化対策は急務
少子高齢化社会では、少数の労働者が多数の高齢者の社会保障を支えなければならないため、労働者層の負担額が大きくなることが確実です。内閣府が出している「高齢社会白書」でもそのことが読み取れます。2022年の「令和4年度版高齢社会白書(全体版)」によると、2020年現在、高齢者1人に対して現役労働者2.1人で社会保障を支えている状態ですが、2065年になると支える現役労働者は1.3人にまで減少するものと予想されています。戦後まもなく、高度経済成長期を迎える前の1950年に12.1人であったことを考えると、急激な減少であるといえます。極端な話ですが、現役労働者1人が何の収入保障もないまま、1人の高齢者の生活を全て支えなければならないとイメージすれば理解しやすいかもしれません。
弊害としては、現役労働者の負担が増加することで、労働者自身の消費にお金を回せなくなるという問題が生じます。住宅や自動車の購入といった消費に影響が出れば、経済の停滞を招くでしょう。また、子育てにお金を割く余裕がなければ出生率にも関わってきますので、更なる少子高齢化を招く要因にもなります。現在の日本は社会保障制度が破綻する前に、早急に少子化対策をとらなければならない状況にあるのが現実です。
他国ではどのような少子化対策を行っているのか
先進国で進む少子高齢化社会
発展途上期の「ピラミッド型」から成長期の「釣鐘型」を経て少子高齢化が進む「壺型」に移行する構造は、日本に限らず先進国ではよく見られるものです。特に先進国では、環境衛生の向上や医療技術の進化により、高齢者の死亡率が下がり平均余命が上がる傾向にあります。かつて先進国といわれた海外の国でも少子高齢化が進んでいることを示す資料に「令和2年度高齢社会白書(全体版)」があります。世界全体で進む高齢化のなかでも、先進地域に限れば65歳以上の高齢者の割合が、2060年には1950年の4倍近くになると予想されているのです。少子高齢化社会はやがて国家の破綻を招く恐れがある深刻な問題であることから、少子高齢化をストップしようと先進国はそれぞれ独自の対策を講じているのが現状です。
ユニークな対策をとるハンガリーの少子化対策
では、現在の日本と同じく少子高齢化問題を抱えている国がとっている少子化対策の事例を紹介しましょう。今回紹介するのは2011年から少子化対策に取り組み、10年後には出生率を向上させることに成功したハンガリーです。ハンガリーはヨーロッパの中央に位置する国であり、ユーロ諸国のなかでも比較的物価が安いといわれています。税制面では「世界一消費税率が高い国」として有名であり税率27%は日本の消費税10%の約3倍となっています。もしハンガリーで1万円の物を買った場合、2,700円の消費税が徴収されることになりますので、決して安い税率ではありません。参考ですが、消費税率が高いのはハンガリーに限ったことではなく、EUに参加しているヨーロッパ各国は軒並み消費税率を高く設定しています。ハンガリーは高い消費税率により徴収された財源を利用して、世界でも類を見ない大胆な少子化対策を講じたことにより劇的な出生率の回復を果たします。
ハンガリーの少子化対策を解説
消費税率は世界一でも少子化対策は手厚い
前章で紹介した通り、ハンガリーの消費税率は27%と非常に高く設定されています。2022年時点における日本の消費税税収は約21.6兆円です。単純な比較は難しいかもしれませんが、これをハンガリーの税率に置き換えると約58兆円となり、国家予算に占める租税収入の全てを消費税だけで賄える規模になります。ハンガリーではこの豊富な財源を使って少子化対策、特に子育て世代に対する支援策を大胆に行い出生率を回復させました。
1.住宅取得に対する補助事業
子供が3人以上いる世帯が一定要件を満たす住宅を取得する際、3万2,260ユーロの補助金が受けられる制度です。円ユーロの為替レートや物価格差を考慮すると日本円で約450万円の給付を受けられることになります。補助金の他に、使途の縛りがなく約350万円を無利子で借りることが出来る「無利子ローン」があり、こちらも子供を3人以上作れば返済額が全額免除されますので、両方合わせて約800万円を住宅取得資金に充てることができます。ただし「無利子ローン」には「最低3年以上の就労社会保険料の納付」「借入後5年以内に出産しなければ利子付きで全額返済」という条件があります。
2.所得税の免除
ハンガリーの少子化対策の目的は、子供を作ることが家計の負担にならないよう支援することです。特に子育て世代の負担を軽減するため、25歳未満の若者については既婚・未婚・男女を問わず所得税が免除されます。また30歳未満で出産した女性は、30歳到達後の12月31日まで所得税が免除される特典があります。12週以降の胎児も対象となるため、出産前に所得税の免除を受けることも可能です。
3.学生ローンの減免
子供が将来進学し、学生ローンを組んだ場合、子供の人数に応じて学生ローンの猶予や免除を受けられる制度です。子供1人で「返済が3年猶予」、子供2人で「返済額の50%を免除」、子供3人で「返済額の全額免除」という特筆すべきものです。一般的に、子供は成長するにつれ学費をはじめとしたお金がかかるものです。子育て世代にとって、将来の学費免除制度があれば、安心して子供を作ることができるでしょう。
少子化対策による人口ピラミッドの変化
最後に、これらの少子化対策を講じた結果、ハンガリーの人口ピラミッドがどのように変化したかを見てみましょう。
少子化対策を講じた結果、日本と比較して僅かですが10歳未満の人口が多いことが分かります。更に理解しやすいのが人口の増加です。
2020年から現在まで、急激に人口が増加していることが読み取れます。世界に類をみない驚異的な少子化対策が一因であるといえるかもしれません。
まとめ
少子高齢化が進む一番の要因は、やはり「安心して子供を生み育てることができない社会構造」であると考えられます。国家として、出産から成人まで手厚くサポートするという意志が若年層に伝われば、日本もハンガリーのように驚異的な回復を遂げることもできるかもしれません。