暗号資産など「新たなデジタル資産」の法整備、規制の現状を解説 | MONEYIZM
 

暗号資産など「新たなデジタル資産」の法整備、規制の現状を解説

ビットコインなどいわゆる暗号資産(仮想通貨)の利用が広がり、周辺に新たなサービスも登場しています。ところで、こうしたデジタルの資産をめぐっては、マネーロンダリングへの悪用、事業者の破綻などに伴う利用者の被害が、たびたび問題になりました。法による規制は、現在どうなっているのでしょうか? NFTなどの新しい仕組みへの対応も含め、現状を解説します。

暗号資産とは

暗号資産(仮想通貨)は、インターネット上でやり取りができる財産的価値で、資金決済に関する法律(「資金決済法」)で、次の性質を持つものと定義されています。
 
①不特定の者に対して、代金の支払いなどに使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドルなど)と相互に交換できる
②電子的に記録され、移転できる
③法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカードなど)ではない
 

代表的な暗号資産には、ビットコインやイーサ(イーサリアム)などがあり、銀行などの第三者を介することなく、価値をやり取りすることが可能な仕組みとして、利用が広がりました。

段階的に行われた暗号資産に関する法制度の整備

デジタル技術の進歩に伴って、世の中にさまざまな新しい仕組みが誕生し、生活の利便性向上などに貢献しています。半面、それらに法整備などが追いつかず、問題を起こすことも珍しくありません。マネーの世界も例外ではなく、2010年頃から徐々に普及し始めたビットコインなどの仮想通貨も、市場が拡大する一方で、法規制が存在しない状況が生まれました。
 

そうしたなかで、2014年、日本を拠点とし、世界最大級の暗号資産交換業者だったマウントゴックス(Mt.GOX)社のサーバーがハッキングされ、同社のビットコインと預かり金の大半が流出して、10万人を超える顧客が被害を受ける、という事件が発生しました。一方、犯罪組織によるマネーロンダリングやテロ資金の供与の手段になっている実情を受け、15年のG7(主要国首脳会議)首脳宣言には、「仮想通貨及びその他の新たな支払い手段の適切な規制」が盛り込まれました。
 

暗号資産(仮想通貨)に対する法の整備が議論されるようになったのには、こうした背景がありました。
 

事業者を登録制に⇒資金決済法による規制(2017年)

最初に実施されたのが、2017年の資金決済法による規制でした。「仮想通貨」を同法の規制対象とすることで、「支払い・決済ツール」としての安全性を担保し、利用者保護を図るもので、具体的には以下のような施策が実行されました。
 

登録制の導入

国内で仮想通貨交換サービスを行うためには、金融庁・財務局の登録を受けることが必須になりました。事業者は、資本金1,000万円以上の株式会社であること、などの要件を満たす必要があります。
 

利用者への適切な説明

事業者には、取り扱う仮想通貨の名称や仕組み、その特性(価格変動があることなど)、手数料などの契約内容などについての情報提供が義務付けられました。
 

顧客財産と業者財産の分別管理

利用者から預かった金銭・仮想通貨と、事業者自身の金銭・仮想通貨を明確に区分して管理することが義務付けられました。
 

「証拠金取引」なども規制対象に⇒資金決済法+金融商品取引法などによる規制(2019年)

さらに、その2年後の19年には、セキュリティ上の懸念材料の増加、仮想通貨の投機対象化といった環境変化を踏まえ、あらためて主として次のような制度の整備が行われました。17年の法改正が「決済ツール」としての安全性に重点を置いたものだったのに対し、徐々に「金融商品」としての性格を強めた流れに対応した制度整備でもありました。
 

法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

国際的な動向なども踏まえて資金決済法を改正し、上記のように名称変更が行われました。
 

暗号資産の流出リスクへの対応

ホットウォレット(オンライン上にある暗号資産のウォレット)で管理していた暗号資産の流出を防ぐため、暗号資産交換業者に対し、原則として、顧客の暗号資産をネットから遮断されたコールドウォレットなどで管理することを義務付ました。
 

過剰な広告・勧誘への対応

広告・勧誘規制を整備し、交換業者による虚偽表示・誇大広告の禁止、投機を助長するような広告・勧誘の禁止などが定められました。
 

暗号資産を用いた不公正な行為への対応

暗号資産取引において、例えば「同日、同時刻に一斉に買って、価格を釣り上げよう」という呼びかけが行われるなど、不当な価格操作が散見されるようになりました。こうしたことから、風説の流布、価格操作などの不公正な行為の禁止が、法に盛り込まれました。
 

暗号資産交換業者の倒産時の対応

暗号資産交換業者の法的な倒産手続きが開始された場合に、預かっていた暗号資産を顧客に優先的に返還するためのルール(暗号資産交換業者に対する利用者の暗号資産返還請求権に関する優先弁済権)が設けられました。
 

暗号資産を用いた証拠金取引への対応

国内の暗号資産取引の8割を占める一方、規制の対象外に置かれていた証拠金取引(※)について、投機を助長しているという指摘なども踏まえ、次のような法整備が行われました。

※証拠金(レバレッジ)取引 証拠金を差し入れて暗号資産を売買するデリバティブ取引。レバレッジ倍率に従い、証拠金を上回る取引可能額の暗号資産を購入できるが、その分リスクも大きい。

 

・暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を金融商品取引法(金商法)の規制対象に追加
店頭デリバティブ取引を業として行う場合には、第一種金融商品取引業登録が必要になりました。
 

・外国為替証拠金取引(FX取引)と同様に、金商法上の規制(販売・勧誘規制など)を整備
証拠金の上限倍率(レバレッジ倍率)について、個人向け取引の場合、暗号資産の種類によらず2倍とされました。また、法人向け取引については、時々の価格変動に基づく必要な証拠金率を、暗号資産のペア毎に週次で算出する、とされました。

「新たなデジタル資産」への対応は

暗号資産などの、貨幣ではなくトークン(電子的価値)による資金決済は、その種類や活用シーンも多様化しています。それらに対する法整備についてもみておきましょう。
 

ICO

ICO(Initial Coin Offering)は、株式の代わりにトークンを発行し、投資家に購入してもらうことで資金を得る仕組みの総称です。発行コストや管理コストが低下する、といったメリットが指摘されている一方、詐欺的な事案が多発して問題になりました。
 

ICOのうち、収益分配を受ける権利が付与されたトークンをSTO(Security Token Offering)といいます。このSTOに関しては、19年に以下のような法整備が行われました。

・投資家に暗号資産を対価としてトークンを発行する行為に、金商法が適用されることを明確化
・発行者による投資家への情報開示の制度やトークンの売買の仲介業者に対する販売・勧誘規制などを整備
 

この結果、STOに関しては金商法に則って普及が進んでいる一方、他のICOの利用は減少傾向にある、とされます。
 

ステーブルコイン

ステーブルコインとは、ひとことでいえば、価格の安定性を実現するように設計された暗号資産のことをいいます。裏付け資産がないため価格変動の激しいことが決済手段としての活用のネックになっている暗号資産の普及を促し、実用性を高めるために設計されました。ただし、このステーブルコインに関しても、法律上の位置付けは不明確なままでした。
 

しかし、23年6月施行の改正資金決済法により、「暗号資産とは異なる電子決済手段」として定義付けが行われ、発行業者、仲介業者などに対する規制も整備されました。実は、諸外国ではステーブルコインの定義や法規制の整備について足並みが揃っておらず、それらを具体的に明記した日本の法改正は、世界でも先駆け的な取り組みとなりました。
 

内容について、ここでは詳述は避けますが、法改正によりステーブルコインが電子決済手段として明確に定義され、業規制が課されたことにより、利用者が安心してサービスを利用できる土壌が整備されたといえます。デジタルトークンでの決済サービスの発展への寄与が期待されています。
 

中央銀行デジタル通貨(CBDC)

ステーブルコインは、民間企業がなどが発行して価値を保全するものであるのに対して、各国の中央銀行(日本では日本銀行)が発行して価値を保全するのがCBDC(Central Bank Digital Currency)です。CBDCは、デジタル化されていること、法定通貨建てであること、中央銀行の債務として発行されること――の3点を満たすものである、とされます。
 

このCBDCについて、日本銀行は、概要次のような「基本的な考え方」を明らかにしています(「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み」2023年11月14日、日本銀行決済機構局)。
 

・技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。
・現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要。
・このため、内外関係者と連携しながら、実証実験と制度設計面の検討を進めていく。
 

NFT

NFT(Non-Fungible Token)は、「非代替的な価値を表章するトークン」を総称するもの、とされます。暗号資産に用いられるブロックチェーン(※)技術を活用して、例えばアートや、画像・動画といったデジタル情報など、そのままではコピーされてしまうようなコンテンツに、「唯一無二である証明」を与えることを可能にしました。

※ブロックチェーン:ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、鎖(チェーン)のように連結して保管する技術。管理されるデータの改ざんが難しいため、金融取引履歴などに用いられている。

 

このNFTに関しては、その普及に従って、法的枠組みなどに関する論点整理が行われていくステージにあります。国は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(24年6月21日閣議決定)で、以下のような方針を示しています。
 

ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)等のイノベーションにより、中小・小規模企業や個人であっても、グローバル市場と直結することで、グローバル水準の高い価格設定ができる可能性がある。こうしたイノベーションが到来していることを踏まえ、web3の推進に向けた環境整備を進める。

まとめ

暗号資産(仮想通貨)については、その活用の広がりに対応して、法律、制度の整備が実行されてきました。購入を考える際には、そうした規制の動向にも気を配る必要があるでしょう。

マネーイズム編集部
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