政府の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とは 中小企業経営者が意識すべきポイントを解説 | MONEYIZM
 

政府の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とは 中小企業経営者が意識すべきポイントを解説

6月21日、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以下「重点計画」)を閣議決定しました。「人口減少及び労働力不足」「デジタル産業をはじめとする産業界全体の競争力の低下」などを現在の日本が抱える課題として提起したうえで、それらへの対応策を示しています。計画の概要、中小企業経営者が意識すべきポイント、支援策などについて解説します。

デジタル化で目指す世界は

閣議決定された重点計画は、「目指すべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策を明記し、各府省庁が構造改革や個別の施策に取り組み、それを世界に発信・提言する際の羅針盤となるもの」と位置づけられています。

デジタル化には、「行政(公共)」や「国民(個人)」にかかわる課題も多く、今回の重点計画でも多くの紙数が割かれています。ここでは、「法人」に関連することがらを中心に述べたいと思いますが、最初に、計画が掲げる「デジタルにより目指す社会の姿」をみておきましょう。以下の6つが示されています。

1.デジタル化による成長戦略

社会全体の生産性・デジタル競争力を底上げし、成長していく持続可能な社会を目指す。

2.医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化

データ連携基盤の構築等を進め、安全・安心が確保された社会の実現を目指す。

3.デジタル化による地域の活性化

地域の魅力が向上し、持続可能性が確保された社会の実現を目指す。

4.誰一人取り残されないデジタル社会

誰もが日常的にデジタル化の恩恵を享受できるデジタル社会の実現を目指す。

5.デジタル人材の育成・確保

デジタル人材が育成・確保されるデジタル社会を実現する。

DFFT(※)の推進をはじめとする国際戦略
国境を越えた信頼性ある自由なデータ流通ができる社会の実現を目指す。

※DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通) 「プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する国際的に自由なデータ流通の促進を目指す」というコンセプト。

日本の抱える「重点課題」とは

そのうえで、計画では、今の日本の抱えるデジタル化に関連する重点課題=集中対応すべき課題として、次の3点を指摘しています。

人口減少および労働力不足(リソースのひっ迫)

日本の総人口は、2070年に現在の約7割に減少し、65歳以上が人口の約4割を占めると予測されています。大都市圏への人口集中も相まって、全国で既存の公共サービスを維持できなくなることが懸念されています。同時に、生産年齢人口についても、50年には約5,300万人と、21年から3割近く減少することが見込まれており、現在の産業が維持できなくなるかもしれません。

想定されるインフラ危機に対し、デジタル技術の適用によるさらなる最適化・効率化が求められるでしょう。

デジタル産業をはじめとする産業全体の競争力の低下

医療・教育・防災などの準公共分野をはじめとして、各分野内・分野間の双方においてデータの取り扱いルールが異なるなど、データが必要な主体間で連携されていないことで、国民・事業者に対して最適なサービスが提供されていない、という現実があります。

また、生成AIなどの競争環境を一変させるような先端技術の戦略的活用が諸外国と比較して進んでおらず、産業全体の競争力低下につながっている、と重点計画は指摘します。加えて、クラウドサービス、生成AIなどの「破壊的イノベーション」を生み出すソリューションについても、海外からの供給への依存度が高く、国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むほどにデジタル収支が悪化する、いわゆる「デジタル赤字」が拡大傾向にあります。

供給側であるデジタル産業、需要側である各産業ともに、最適なデジタル化を進め、生産性向上や新たなビジネスの創出において、具体的な成果を出すことが求められています。

持続可能性への脅威

大規模な自然災害の発生、気候変動、自然資産の喪失、廃棄物処理の環境負荷の増大、感染症の世界的流行(パンデミック)をはじめ、持続可能性への脅威が増しています。これらの脅威は、企業の行動にも大きな影響を与えており、対応の遅れが個々の存立にも関わるようになっています。

重点計画では、同時に、サイバー攻撃への対処能力、情報収集・分析能力の強化などのデジタル自体における持続可能性もまた課題となっている、とい適しています。

重点的な施策について

以上のような問題意識を踏まえて、重点計画は「重点課題に対応するための重点的な取組」を示しています。その中から、産業界、法人に関連するものを挙げてみましょう。

ベース・レジストリの整備

「ベース・レジストリ」とは、「住所・所在地、法人の名称など、制度横断的に多数の手続で参照されるデータからなるデータベース」をいいます。行政手続において情報の提出は一度限りとすること(ワンスオンリー)や、民間事業者のDXの促進などに向けて、この基盤整備を進めます。

具体的には、24年通常国会で成立した「デジタル社会形成基本法等の一部改正法」に基づき、公的基礎情報データベース整備改善計画(以下「整備改善計画」)を策定し、総合的かつ計画的に整備や利用を推進する、としています。ベース・レジストリを構成するデータの品質を確保するため、関係機関の果たすべき役割や具体的な取り組みを検討し、整備改善計画で定める計画です。

商業登記・不動産登記関係データベースについては、整備改善計画で定めた国のすべての行政機関や自治体が利用できるデータベースの整備を行うとともに、同計画に基づき利用目的の特定、変更を行うなどの個人情報の適正な取扱いの観点から、必要な対応を行います。

住所・所在地関係データベースについては、地方公共団体の協力を得て、関係省庁と連携して24年度中に町字情報を整備し、地方公共団体から町字の変更について提供を受けデータの最新性を保ちます。

また民間企業に対する登記情報APIの開放について、利便性向上および個人情報の適正な取扱いの観点から、登記制度の趣旨を踏まえて検討する、としています。

全体最適を意識した事業者向けサービスのシステム整備

事業者向け行政サービスについても、個人向け同様に、「全体最適」を意識したシステム整備が重要であるという観点から、次の3点を推進する考えです。

1.事業者向けの行政サービスの利用者体験向上に向けた環境の整備

利用者体験の整備においては、事業者の目線に立って、事業者の行政サービスの体験プロセスを具体的に整理する、としています。

併せて、事業者がワンストップでさまざまな行政サービスにアクセスできる環境を整備するため、事業者が手続を行う際のポータル(事業者向けポータル)について、正式版の運用を念頭に、e-Gov(※)の機能の活用可能性を含めた検討及び実証版の構築を行っていく考えです。また、調達ポータルについては、次期システムにおいて国の調達全般にかかるポータルサイトを目指すことで、事業者への利便性向上を図ります。

※e-Gov 行政情報の総合的な検索・案内サービスを提供する、デジタル庁運営のポータルサイト。
2.事業者向け行政サービスで利用する共通機能

法人や個人事業主が、さまざまなサービスにログインできる認証機能であるGビズ(法人・個人事業主向け共通認証システム)IDを、原則すべての行政手続で採用するよう、各省庁と連携して検討を進めます。行政手続における料金支払いなどの決済、事業者向けの通知、各種行政文書の保管などについては、e-Govの電子送達機能の活用可能性などを検討した上で、今後実装計画を整備する、としています。また、官民取引や企業間取引のデジタル完結とデータ相互運用性の確保を目指し、関係府省庁や事業者との連携を進めます。

3.各省庁における事業者向け行政手続・補助金申請等のデジタル化

事業者向けの行政手続・補助金申請においては、デジタル庁が整備した調査ツールによる各省庁の状況調査を行い、各省庁でデジタル化に関する取り組みを推進する、としています。

特に年間手続件数の少ない行政手続については、デジタル庁が整備した共通機能の活用などを通じて、各省庁で効率的なサービス開発を進め、費用負担の低減を目指します。一方、各省庁において、重要度が高く、大規模な行政手続システムについては、システムのモダン化の検討を行う考えです。

事業者向け補助金申請については、Jグランツ(補助金申請システム)を改修し、対応可能な補助金の種類数を増加させます。これにより、25年度以降、各省庁において事業者向け補助金の電子申請対応を原則とすることとし、事業者による電子申請率の向上を図る、としています。

中小企業向けの重点政策

重点計画は、最後に「重点政策一覧」を掲載しています。その中から、直接中小企業にかかわるものをピックアップしてみましょう。

中小企業支援のDX推進

各支援施策に係る中小企業などの申請データに加え、支援機関の中小企業相談データなど、官民の中小企業に関するデータの連携基盤(ミラサポコネクト)を構築し、行政機関・支援機関・中小企業など様々なステークホルダーが分析・活用を行うことにより、中小企業支援の官民連携を推進します。

企業のDX推進

人材・情報が不足する中堅・中小企業などは独力のDX推進のハードルが高い中で、地方金融機関などの地域の伴走役が中小企業の「主治医」としてDX支援に本業として取り組むことが有効です。そうした地域の伴走役がDX支援を実施する際に考慮すべき事項や具体的なDX支援の事例をまとめた「DX支援ガイダンス」(24年3月)を全国規模で普及させるとともに、地域金融機関をはじめとする支援機関に向けた支援策も活用しながら、DX支援のモデルケースを創出していく、としています。

中小企業のサイバーセキュリティ

異常監視や、サイバー攻撃を受けた際の初動対応支援、保険など、中小企業に必要な対策を安価かつワンパッケージにまとめたサイバーセキュリティお助け隊サービス(※)について、IPAとともに、新たな類型が追加された当該サービスの適切な運用を実施しつつ、講演会における周知を行うなど、普及・啓発を図る、としています。

※サイバーセキュリティお助け隊サービス IPA(情報処理推進機構)が実施する中小企業向けセキュリティサービス。IT導入補助金による導入支援制度も用意されている。

また、自社のセキュリティレベルの評価や把握を行うための対策を整理するとともに、サイバーセキュリティに精通した人材の不足状況を解消するため、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の制度見直し及びユーザー企業における活用促進を図ります。さらに、産業界と連携し、中小企業を含むサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策を促進する考えです。

具体的な目標として、
・24年度までにサイバーセキュリティお助け隊サービス提供事業者数(再販事業者を含む)を200者以上にする。
・30年度までに情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の登録者数を5万人に増加させる。
・30年度までにSECURITY ACTION制度(※)の自己宣言をした事業者の数を40万者以上にする。
という数値を掲げています。

※SECURITY ACTION制度 IPAが管轄する、中小企業自らが「情報セキュリティ対策に取り組む」旨を自己宣言する制度。IT導入補助金の申請には、この宣言が必須となっている。

まとめ

重点計画推進の舵取り役であるデジタル庁は、当面1,500名規模をめどに組織体制も強化し、課題解決に取り組んでいくといいます。述べたように、DXに向けたハードルが高い中小企業に対しては、行政などのサポートも用意されています。疑問や不安を覚える経営者は、省庁の窓口や専門家などに相談してみてはいかがでしょうか。

マネーイズム編集部
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