8月31日から9月1日にかけて放送された『24時間テレビ』(日本テレビ系)。
毎年恒例の夏の終わりの風物詩になっていると言ってもいい当番組は今年で47回目を迎えた。
しかしながら、今年の放送、ひいてはその存続が大きく揺れたことは、視聴者の記憶にも新しいだろう。
そう、集められた寄付金が関係者によって着服されていたのである。
事件の概要をおさらいしながら、着服された寄付金が適切に使われていたならば、どの程度のことができていたのか、紹介していく。
事件概要と報道の経緯
事の経緯は次の通りだ。
2023年11月に、鳥取市に本社を構える「日本海テレビ」(日本テレビ系列)の経営戦略局長・田村昌宏容疑者が、チャリティ番組『24時間テレビ』の寄付金を含む計1118万円あまりを着服していたことが発覚した。
「日本海テレビ」は、田村容疑者が2014年から2023年にかけ『24時間テレビ』の寄付金264万6020円、2014~2021年には会社の売上金など計853万6555円の合計1,118万円あまりを着服していたことを発表。
田村容疑者は同月27日に懲戒解雇処分となっている。
これを受け、チャリティ番組という1978年から続いてきた『24時間テレビ』の根幹を揺るがす事件を受け、準備が進められていた『24時間テレビ』の製作は一時ストップ。
2024年の放送、ひいては番組そのものの存続すら危ぶまれていた。
その後、2024年6月に2024年の番組放送決定が発表されるや、8か月のあいだに沈静化していた批判が再燃。
総合司会を務める同局の水卜麻美アナウンサーが『ZIP!』などの番組内で謝罪するなどしたが、7月に鳥取警察署が田村容疑者を業務上横領の疑いで鳥取地検に書類送検したことも影響し、視聴者からこれまでのような信頼を取り戻すことは到底叶わず、Xでは非難が殺到する事態となっていた。
264万円でできること
物議を醸した放送の是非はさておき、2014年からの10年間で着服されていた募金、264万6020円というのが一体どれだけの人に対してどんなことができた金額なのだろうかという素朴な疑問が脳裏をよぎる。
そこで、様々なかたちの寄付や支援のなかからいくつかを事例に上げつつ、264万6,020円という金額で何ができるのかを紹介していきたい。
ワクチンの場合
NPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」によれば、DPT三種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日咳)は1人当たり30円。
264万6,020円で、88,200人分ものワクチンを提供することができる計算になる。
WHOの発表によれば、世界の百日咳患者数は年間約1,600万人で、そのおよそ95%は発展途上国の小児とされている。死亡者の大半を占めるのも1 歳未満の乳児。
同発表では、小児の死亡数は19万5,000人にのぼるとされていることから、仮に264万6020円が適切に寄付されていたならば、百日咳で苦しむ世界中の小児のおよそ45%の命を救えた可能性がある。
綺麗な水の場合
WHOとUNICEFの2023年の発表によれば、世界中で7億300万人もの人々が清潔な水を利用することができずにいる。
世界24カ国で水・衛星プロジェクトに取り組む国際NGO「ウォーターエイド」によれば、1万円の寄付で清潔な水を利用できる手押しポンプ1基を設置することができる。
264基もの手押しポンプが設置できたのなら、多くの人が“飲めば体調を崩すと分かっている不衛生な水”を飲まずに済んだかもしれない。
また、同団体の発表によれば、5,000円で家庭用トイレを2基設置することができる。
264万6,020円あれば、およそ1,058基の家庭用トイレを設置することができ、貧困層の人々が直面する衛生問題解決への一助となった可能性がある。
環境問題の場合
森林の砂漠化や海洋汚染などの環境問題は、SDGsの取り組みを中心に企業・個人を問わず身近なものになりつつある。
もちろん、チャリティによる支援も例外ではなく、様々な団体が世界中で起きている問題解決に向けて取り組みを続けている。
たとえば、NGO団体「緑のサヘル」によれば、薪材調達などの生活林を作るために必要な苗木を1本30円で植樹できる。
着服された264万6,020円ならば、およそ88,200本もの苗木を植えることができた。
炊き出しの場合
日本赤十字団が発行している『赤十字奉仕団 災害時炊き出しレシピ集』によれば、「洋風炊き込みご飯」の1人当たりに必要となる材料費は90円。
264万6,020円があれば、29,400人分の「洋風炊き込みご飯」を作ることができる。
2024年の1月に発生した能登半島地震の避難者数は最大で40,688人。全員に行き渡らせるには数が足りないが、それでも7割以上の避難者に食事を提供することができる金額だ。
動物保護の場合
もちろん、チャリティによって救われるのは人間だけではない。動物もまた、
豊かな海との共存を目指して活動するNPO法人「エバー・ラスティング・ネイチャー」によれば、町などの明かりに吸い寄せられて浜から海へと戻ることができなくなってしまうアオウミガメの卵を5,000円につき100個、守ることができるそうだ。
264万6,020円ならば、52,920匹ものアオウミガメを無事に海へと還すことができる計算になる。
まとめ
ここで上げた寄付の使用例はあくまでも一例であり、実際に『24時間テレビ』が寄付や支援を行っていた(あるいは行う予定だった)わけではない。
しかしながら、264万6,020円というどこか抽象的な寄付金額も、その先にある人や物を明確にすることで、失われたものの大きさとともに、今回の着服事件についても事の重大さがよりはっきりと見えてくる。
着服問題については、キャッシュレス募金を導入し、寄付金の取り扱いを専門業者に委託する(今までしていなかったことが驚き)など、再発防止に向けた対策を講じていた。
しかしながら起きてしまったことは取り返しがつかないことであり、対策を講じたとしても視聴者からこれまでのように理解を得るのは簡単ではない。
たしかに過去は変えられない。だがそれは犯してしまった罪だけではなく、この番組がこれまで積み上げてきた功績にも当てはまることだ。
『24時間テレビ』は1978年の放送開始から46年間で、総額433億2,769万3,640円もの募金を集め、様々な支援を行ってきた。
2024年も4億3801万4800円もの寄付金を集めている。
今回、1人の愚かな行動により積み上げてきた努力や想いに泥が塗られるかたちとなってしまったが、約半世紀のあいだに築き上げてきたものの大きさは疑いようがないことが証明されたと言っていい。
人の思いが生み出す変わらない尊さは確かにあった。
だがしかし、今回の騒動を機に、よりクリーンで透明性のある運営への転換を迫られていることは疑いようがないだろう。