迫るアメリカ大統領選挙 ハリスvs.トランプの行方が経済に与える影響をおさらい | MONEYIZM
 

迫るアメリカ大統領選挙 ハリスvs.トランプの行方が経済に与える影響をおさらい

いよいよアメリカ大統領選挙の投票日が目前に迫ってきました。バイデン大統領の撤退に伴い指名を受けた民主党ハリス副大統領と共和党トランプ前大統領の一騎打ちは、まれにみる接戦となっており、いぜんとして勝者が読めません。結果の判明自体、11月5日の一般投票から数日、票の数え直しなどの混乱が長引けば、翌月以降に持ち越される可能性も指摘されています。ともあれ、その結果が今後のアメリカや世界の経済に少なからぬ影響を与えるのは、間違いないでしょう。現時点で考えられるポイントを、あらためてまとめました。

「ほぼトラ」→バイデン大統領撤退で逆転→ハリス候補失速

最初に選挙戦の最新情勢をみておきましょう。序盤から健闘していたトランプ氏は7月13日、演説中の襲撃事件を機に一気に支持率を高め、「ほぼトラ」を手中にしたかに思われました。ところが、バイデン大統領が撤退を表明し、ハリス副大統領が民主党候補として指名を受けると、形勢は逆転。8月以降は、各種世論調査で「ハリス優勢」が伝えられました。
 
ところが、最終盤になって、その状況にも変化の兆しが明確になっています。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、全米を対象にした各種世論調査の支持率の平均値は、10月25日時点で、両候補48.5%と、まったくの互角に。さらに、大統領選挙の結果を左右するとされるアリゾナ、ミシガンなど7つの激戦州では、トランプ氏が僅差でリードしていることが明らかになりました。ただし、その差は誤差の範囲で、結果は文字通り蓋を開けてみないとわからない状況になっているのです。
 
来年1月20日の大統領就任式の日に、どちらがそこにいるのか、現状でもまったく予想がつきません。

ハリスvs.トランプの政策を分野ごとに比較

では、それぞれの候補者の政策の違いと、それが実行された場合に米国や世界経済にどのような影響があるのでしょうか? 「通商」「経済・財政」「環境」「外交」の4分野についてみていきたいと思います。

通商(貿易)政策

ハリス候補 VS トランプ候補
  • 対中国関税措置を継続
  • 他国に対する追加関税の導入
    (トランプ氏の公約)には反対
・全輸入品に10%~20%の関税を導入
・対中国関税をさらに引き上げ

トランプ氏が返り咲いた場合、世界経済に対する直接的なインパクトが最も大きいのは、その通商政策だと思われます。同氏が、国内経済保護を目的に、「対中国関税を60%に引き上げ、他国からの輸入品に対しても原則10~20%の関税を課す」という方針を示しているからです。
 
トランプ前政権下でも追加関税措置が導入され、その結果、対中平均関税率は10%強、その他の国については1%程度になっています。もし「新方針」が実行されれば、平均関税率が現在の数十倍にも高まることになり、米国への輸出に頼る国や企業(もちろん日本も含まれます)が受ける打撃は、相当大きなものになりそうです。米国にとっても、国内産業は守られるかもしれませんが、輸入品は値上がりするため、インフレが加速する可能性があります。
 
実は民主党バイデン政権も、トランプ前政権の追加関税措置を踏襲しました。前政権時代に離脱したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にも復帰していません。民主党も国内の雇用を守るなどの観点から、「反保護主義的な政策」を明確に打ち出しているわけではないのです。
 
しかし、ハリス氏は、「生活コストの上昇」などを理由に、トランプ候補の掲げるさらなる関税措置には、反対の立場をとっています。その通商政策は、「現状維持」になりそうです。

経済・財政政策

ハリス候補 VS トランプ候補
  • 企業による不当な値上げを禁止
  • 法人税率引き上げ、
    金融取引などを増税
  • 不法移民強制送還の拡大
  • 「トランプ減税」の延長、
    法人税率引き下げ

ハリス氏は、「食品企業の“便乗値上げ”を禁止する連邦法の成立」「初めて持ち家を購入する人に2万5,000ドルを支給」「子どもが生まれた家庭に6,000ドルの税額控除」などの政策を掲げています。いずれも「庶民」を念頭に置いた施策といえますが、歳出拡大の懸念は拭えません。
 

トランプ氏は、前政権時の化石燃料産業を中心とした規制緩和や法人税減税などの政策を踏襲するとともに、看板である不法移民対策の一層の強化を打ち出しています。
 

そうした政策とも関連する税制については、ハリス氏が低所得者、中間層の支援を重視する一方で、トランプ氏は引き続き法人税の引き下げや富裕層減税を主張しており、立場の違いが鮮明になっています。
 

ハリス氏はかつて、2017年の前トランプ大統領時代に成立した、法人税の35%から21%への引き下げを柱とする「トランプ減税」を撤廃し、税率を35%に戻すことなどを主張しました。こうした法人税率の引き上げ、富裕層への課税強化が基本姿勢で、それにより税収の増加が見込める、としています。
 

他方、トランプ氏は、「トランプ減税」のうち25年末までの時限立法である富裕層向けの所得税、贈与税の優遇措置を延長し、法人税についてはさらに引き下げる方針を掲げています。ただ、その場合は、歳入減少による財政赤字の拡大が問題になりそうです。

環境政策

ハリス候補 VS トランプ候補
  • 「グリーン・ニューディール政策」の支持
  • 化石燃料への補助金廃止
  • 「パリ協定」再離脱
  • 化石燃料生産への規制撤

この分野でも、両者の政策は正面からぶつかる形になっています。ハリス氏は、化石燃料削減など気候変動対策を重視する民主党の中でも「強硬派」として知られ、その対策に積極的な財政出動を行う「グリーン・ニューディール政策」を全面的に支持しています。
 
2019年には、「100%クリーン経済」の実現を掲げ、35年までに全新車販売をゼロエミッション車(電気自動車など走行時に温室効果ガスなどを排出しない車)にすることなどを提唱しました。財源として、炭素税の導入や化石燃料への補助金廃止などを充てる考えを示しています。
 
一方のトランプ氏は、化石燃料生産に対する規制の撤廃、「グリーン・ニューディール政策」の廃止などを公約とし、民主党バイデン政権が進めた環境政策の転換を狙います。温室効果ガスの削減目標を定めた「パリ協定」からの再離脱(17年の前政権時代に離脱、21年バイデン政権時に復帰)も掲げています。
 
ハリス氏が主張する気候変動対策の実行は、再生可能エネルギーをはじめとする関連産業への投資にとっては追い風となります。他方、トランプ氏の手で石油やガスの生産規制が撤廃されれば、化石燃料は増産され、世界のエネルギー価格は低下するものとみられます。そのことが、少なくとも短期的には世界経済に好影響をもたらす、という見方もあります。

外交

今回のアメリカ大統領選挙は、世界がウクライナ戦争、ガザ地区をめぐる紛争という2つの「熱戦」を抱えた中で戦われることになりました。「民主党政権継続」か「トランプ返り咲き」かは、それらの今後に大きく影響する可能性があります。
 
ウクライナ戦争に関してトランプ氏は、一貫して「アメリカは手を引くべき」と主張していて、大統領の座に就けば、速やかにそれを実行する公算大です。ロシアの侵攻以来、資金や武器供与などに関して、最も大きな後ろ盾となってきたのはアメリカでした。もし、その支援が大幅にカットされ、そのぶんヨーロッパ諸国の負担が増加すれば、各国の財政悪化に直結します。
 
「アメリカの撤退」は、膠着状態の戦況を動かすかもしれません。ちなみに、トランプ氏は、ウクライナ戦争の終結はエネルギー価格の引き下げにつながるとも主張し、ロシアと西側との仲介にも意欲をみせています。
 
ガザ情勢に関しては、ハリス氏は、人道的な見地から、イスラエルに対して早期の停戦を求める姿勢を示しています。
 
一方のトランプ氏は、筋金入りの「親イスラエル」で、前政権時代には、イスラエルの首都を同国の主張通り、アラブ諸国の反対するエルサレムだと認め、アメリカ大使館をテルアビブから移したほど。ガザでの戦闘が続く状況の下でトランプ氏が大統領となり、同様の姿勢を明確にした場合、周辺諸国との軋轢が高まり、中東情勢がさらに混乱する可能性は否定できません。そうしたことを背景に、同地域への依存度が高い原油の価格が高騰すれば、世界経済にマイナスに働くことになるでしょう。

日本経済への影響は

政治的、経済的にアメリカとつながりが深い日本にとって、大統領選の行方は、いっそう気になるところです。
 
トランプ氏が再選され、さきほど説明した追加関税が実行されれば、日本経済にとって大きな痛手になるのは、間違いありません。加えて注目されるのが、為替の動向です。
 
現在、日本は歴史的ともいえる円安(ドル高)状況に置かれています。そのため、輸入コストが上昇し、生活必需品などの値上がりの大きな原因になっているのです。「トランプ大統領」への政権交代となった場合、この為替はどうなるのか、最後にみておきましょう。
 
そもそもトランプ氏自身は、「ドル安論者」です。国のトップが、そうしたスタンスで中央銀行(FRB=米連邦準備制度理事会)ににらみをきかせる意味は小さくありません。また、追加関税を導入した結果、インフレ率が上昇して個人消費の悪化などが顕著になれば、金利が引き下げられ、それに連れてドル安が進む、という流れになるでしょう。トランプ氏の意に反して、追加関税による国内生産増加などのメリットをデメリットが上回る、というシナリオです。
 
理由はどうであれ、ドル安が進めば、相対的に円高になります。円安には歯止めがかかるかもしれませんが、懸念されるのは、それが「行き過ぎる」危険性です。円高は、輸出企業にとってはマイナス要因で、それが日本の株安を呼び込む可能性があります。
 
一方、逆の見方もあります。追加関税によるインフレは、直接的には、それを抑制するための金利上昇要因となります。トランプ氏の主張する減税の実行などで財政悪化が進行すれば、それも金利上昇のファクターとして働くでしょう。その結果、さらにドル高に弾みがつく可能性も指摘されているのです。10月に入って円安が進み、1ドル=155円をうかがう動きになっているのは、「トランプ勝利」に賭けた円売り(ドル買い)のため、という見方もあります。
 
ハリス氏が当選した場合には、為替に関しては、バイデン政権時代のスタンスが踏襲されるものと思われます。選挙前の円安相場がトランプ氏の勝利を織り込んでいるとすれば、反落の可能性があるかもしれません。

まとめ

アメリカ大統領選挙の一般投票が、間近に迫りました。公約を見る限り、トランプ返り咲きとなった場合、世界経済により多くの影響を与えることになりそうです。

マネーイズム編集部
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