近年では「FIRE」という言葉をよく耳にするようになり、その自由なライフスタイルが注目されるようになりました。
FIREするためには元手となる資産を形成する必要がありますが、本記事では必ずしもすべての人にFIREを推奨するものではありません。必要な金額は家族構成や生活スタイルによっても大きく異なります。
この記事では30~40代の独身者や夫婦世帯、子どものいる家族世帯がFIREするために必要な具体的な金額を解説します。
そもそもFIREとは
FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字から作られた言葉で、Financial Independenceは「経済的な自立」、Retire Earlyは「早期リタイア」を意味しています。
これは若いうちに節約や貯蓄、投資などによって資産形成をした上で、早期に会社を退職(リタイア)し、その後の生活費を投資の運用益から得られる不労所得によって確保するというものです。
株式の配当金や投資信託の分配金、不動産の家賃収入などによる不労所得によって、働かなくても自由に生活を送るライフスタイルに魅力を感じ、FIREを目指す人も増えています。
FIREに必要な額は4%ルールを基準に算出
FIREするために必要な資産額は「4%ルール」をもとに算出することができます。
これは米国の大学で発表された理論 で、「投資元本に対して毎年4%未満の額を取り崩せば、30年後も資産が尽きる可能性が低い」というものです。
4%は米国の一般的な株価の成長率(7%)と物価上昇率(3%)の差分で、毎年4%を取り崩して生活費に充てることを前提とすると、元本となる資産は年間の生活費の25年分が必要となります。
これは例えば年間の生活費が300万円の人であれば、FIREするためには7,500万円の資産が必要ということです。
FIREのメリットとデメリット
FIREの最大のメリットは、時間や場所に縛られず自由に生活できることです。
会社員としてフルタイムで働いていると、一般的には1日8時間、週に40時間の勤務時間に加えて数十分~数時間の通勤時間が必要で、勤務先のオフィスなど場所も決められています。しかしFIREを実現すれば、労働時間や勤務場所から解放され、1日の過ごし方や生活拠点も自由に選ぶことが可能です。また、仕事でのストレスや人間関係に悩まされることなく、趣味やボランティア活動など、自分の好きなことに時間を費やすことができます。
一方、FIREにはメリットばかりではなく、デメリットも存在します。会社を退職すれば社会との関わりが減少することから、外出しなくなったり、人と関わる機会が少なくなったりして、孤独を感じてしまう可能性があります。仕事以外に注力する趣味や活動がない人の場合、生きがいを失ってしまうことも考えられるため、資産形成と並行して趣味を探したり、サークルやボランティア活動に参加したりしておくといいでしょう。
さらに、FIREは投資による資産運用を前提としているため、年間の支出をまかなうだけの運用益が確保できない可能性や、場合によっては損失を出してしまうリスクも想定されます。予定外の大きな出費に対応しきれないことも考えられますが、以前と同等の仕事に復帰しようとしても、退職してからブランクがあると再就職が難しくなる可能性もあります。FIREを目指す人はメリットだけでなく、デメリットにも目を向けておくことも必要です。
サイドFIREという選択肢も
生活費をすべて資産運用からの不労所得でまかなう完全なFIREは、リスクを完全に排除することは不可能です。また、数千万円の大きな資産を準備する必要があり、目標額を達成するまでにもある程度の時間がかかります。そこで早期にFIREを達成するための選択肢のひとつとなるのが「サイドFIRE」です。
これは、資産からの運用益に月数万円程度の労働収入を組み合わせる方法で、必要な資産の額が完全なFIREよりも少なくて済むため、より短い期間でFIREを達成することができます。必要となる資産の額は、労働による収入をどの程度確保できるかによっても違いがありますが、FIREが可能なほどの資産が用意できない人であっても、早期リタイアを達成できる可能性があります。
また、資産運用で十分な運用益が確保できない場合や、損失を出してしまった場合でも、働き方を工夫して補填しやすいでしょう。加えて、アルバイトやフリーランスとして一定の収入を得るため、社会との関わりを維持できることもメリットのひとつです。
独身(30代前半)がFIREするために必要な金額
30代前半の独身者がFIREするために必要な額は、月17万円×12か月×25=5,100万円です。総務省統計局が実施した家計調査によると、30代前半の消費支出の平均は1月あたり約17万円で、年間では204万円となります。4%ルールに基づけば、この25倍となる5,100万円がFIREに必要な金額だと言えます。
人によって毎月の生活費は異なり、現実には将来の支出額の変動やライフプランの変化を考慮する必要があります。そのため、より具体的な金額を算出するためには、家計簿から自分の実際の生活費を計算し、生活費以外に想定される大型の出費を加えることが必要です。
子どもなし夫婦(30代後半)がFIREするために必要な金額
30代後半で子どもなしの夫婦世帯がFIREするために必要な金額は、月28万円×12か月×25=8,400万円です。家計調査での二人以上世帯における30代後半の平均の消費支出は、1月あたり約28万円となっています。この額を基準とすると、年間約336万円となり、FIREのためにはその25倍の8,400万円が必要となる計算です。
子どもがいない夫婦の場合、子どもの教育費などの大きな支出が不要で経済的にも余裕を持ちやすいことから、資産形成も比較的容易でFIREを実現しやすいかもしれません。ただし、経済的に余裕があるからこそ月々の生活費が高めになっていることも考えられます。
貯蓄や投資による資産形成に加えて、節約や固定費の削減による生活費の見直しが必要となったり、FIREに必要な金額が8,400万円を大幅に上回ったりすることもあるでしょう。
子どもあり夫婦(40代前半)がFIREするために必要な金額
子どものいる40代前半の夫婦がFIREするために必要な金額は、月30万円×12か月×25=9,000万円です。先の2例と同様に家計調査から二人以上世帯における40代前半の月平均の消費支出を確認すると、約30万円となっており、年間の支出合計は約360万円です。ここからFIREに必要な資産は9,000万円がひとつの目安と算出されます。
ただし、これはあくまでも平均の消費支出に基づいた計算であり、年間の生活費以外に発生する大きな支出は個別に考慮することも必要です。子どものいる家庭では、教育費や結婚時の支援などが子どもの人数に応じて大きく変動します。
例えば教育費は、大学卒業まですべて国公立でも約800万円、すべて私立だと約2,200万円かかるとされています。 そのため、将来の希望や可能性を考慮して、4%ルールに固執することなく自分の家庭に合わせた計算をすることが大切です。
FIREするために重要なこと
FIREするためには、若いうちからの節約や貯蓄、資産運用が重要となります。しかし、そのために無理をして体を壊したり、現在の楽しみを犠牲にしたりするのは本末転倒です。
また、物価の上昇や株価や為替の変動などの事態も当然ながら考えられるため、事前の計画や理論の通りには行かないことを想定しておく必要があります。さらに、イレギュラーな高額の支出が発生したり、ライフプランが当初の計画より大きく変化したりすることも考えられます。そのため、アルバイトやフリーランスで仕事を受けるなどサイドFIREに切り替える、臨時的に労働収入を確保するなど、柔軟に対応していくことがリスク対策としても有効です。
FIREするためには単身者でも5,000万円以上、子どものいる家庭では9,000万円~1億円以上の資産形成が必要です。FIREを目指して資産形成していくことは大切ですが、実際にFIREしてからも何十年と生活は続いていきます。
資金が尽きてしまうリスク以外にも、ライフプランの変化やイレギュラーな大型支出の発生などが想定されます。そのため、FIREを目指すのであればFIREした後のことを事前によく考えておき、FIREという形にこだわりすぎることなく、その時々の状況に応じて柔軟に対応していくことが大切です。