固定資産といえば、土地・建物や設備など「形あるもの」がイメージされますが、「目に見えない」ものもあり、有形固定資産と同様、基本的に減価償却の対象になります。そのような無形固定資産には、具体的にどのような資産が該当するいのでしょうか。固定資産の会計処理について解説します。
固定資産とは
事業に関連する資産のうち、継続的な使用などの目的で長期間保有するものを「固定資産」といいます。これに対して、現預金、商品在庫、売掛金などは、出入りの激しい「流動資産」です。会計上の資産には、このほか「繰延資産」があります。
今回のテーマである固定資産は、その資産の性質などによって、「有形固定資産」「無形固定資産」に分けられ、それぞれ会計処理が多少異なります。
有形固定資産=形あるもの
簡単にいえば、「形がある」固定資産が有形固定資産です。具体的には、次のようなものを指します。
- 土地
- 建物
- 器具・備品
- 機械・装置
- 車両
これらは、さらに「減価償却資産」と「非減価償却資産」とに分類されます。減価償却資産には、建物や機械設備などのように経年劣化(時間の経過とともに価値が減少)するものが該当し、会計上、減価償却を行うことになります。この減価償却については、後ほど説明します。
一方、土地などの経年劣化しない固定資産が非減価償却資産で、減価償却は行わず、取得原価で貸借対照表に記載します。
無形固定資産=形のないもの
これに対して、「形がない」固定資産が無形固定資産です。目には見えないものの、有形固定資産同様、長期に渡って収益を生み出す資産で、以下のようなものがあります。
- 特許権
- 実用新案権
- ソフトウェア
- 営業権(のれん)
- 借地権
この無形固定資産も、「減価償却資産」と「非減価償却資産」とに分類され、前者には特許権やソフトウェア、営業権などさまざまな理由で年々価値が下落していくものが該当し、後者には借地権など、時間が経過しても価値の下がらないものが該当します。
固定資産の減価償却
固定資産の会計処理でポイントになるのが、今の減価償却です。どういうものなのか、みていきましょう。
減価償却の考え方
長期に渡って事業に使用する10万円以上の固定資産を購入した場合、原則としてその費用は取得段階で全額(一括)計上するのではなく、何年かに分けて計上していきます。そうした会計処理が減価償却です。何年に分けるのかは、資産の種類やその用途などごとに税法で決められていて、その期間を「法定耐用年数」といいます(実際の耐用年数とは、必ずしも一致しません)。
法人税や所得税を計算する際に、各事業年度に費用計上できる減価償却費は、「資産の取得価額を法定耐用年数で割った金額(償却限度額)」までと決められています。所得の大きかった年などに、この限度を超えて費用を計上することはできません。一方、正しく減価償却を行っていくことで、その期間は、毎年利益を減らして、節税することができるのです。
それぞれの資産の耐用年数は
減価償却の処理に当たっては、購入した資産の耐用年数を正確に把握しておかなくてはなりません。ちなみに、上に例示した減価償却資産の法定耐用年数は、次のようになっています。
〈有形固定資産〉
- 建物⇒木造事務所用24年、鉄筋コンクリート造事務所用50年 など
- 器具・備品⇒事務机15年、パソコン4年 など
- 機械・装置⇒総合工事業用設備6年、飲食店業用設備10年 など
- 車両⇒一般用小型自動車4年、運送業用小型自動車5年 など
〈無形固定資産〉
- 特許権⇒8年
- 実用新案権⇒5年
- ソフトウェア⇒複写して販売するための原本など3年、その他のもの5年
- 営業権(のれん)⇒5年
法定耐用年数について、詳しくは:主な減価償却資産の耐用年数表(2100_01.pdf)
なお、中には耐用年数についての税法の定めのないケースもあります。判断に迷う場合などには、税理士のアドバイスを仰ぐのがいいでしょう。
減価償却の2つの方法
固定資産の減価償却は、その購入費用を耐用年数で分けて費用計上していくことだと説明しました。ただ、この「分け方」には、次の2つの方法があるのです。
定額法
毎年「一定額」の減価償却費を計上していく方法です。
- 定額法の減価償却費=取得価額×定額法の償却率
定率法
毎年「一定割合」の減価償却費を計上していく方法です。毎年、固定資産の購入額からその年までの償却額を引いた金額を基準に計算されるため、定額法とは異なり、費用の計上金額は年ごとに変わります。減価償却費の金額は最初が大きく、年々小さくなっていくのです。
- 定率法の減価償却費=未償却残高×定率法の償却率
つまり、定率法だと、固定資産を購入した直後の利益を大きく下げることができます。一方、長い期間一定の費用計上したい場合には定額法が有利で、償却額の計算も簡単です。なお、減価償却の総額は、どちらも変わりません。
それぞれの償却率については:減価償却資産の償却率等表(2100_02.pdf)
無形固定資産は「定額法」のみ
ただし、どちらかの償却方法を自由に選べるわけではなく、法人か個人事業か、有形固定資産か無形固定資産かによって、一定の決まりがあります。
まず、ソフトウェアなどの無形固定資産については、法人、個人とも定額法による処理しか認められていません。
有形固定資産の場合、建物やその付属設備、構築物については、やはり両者とも定額法です。それ以外の資産については、法人は定率法(税務署への届け出により定額法の選択可能)、個人は定額法(税務署への届け出により定率法の選択可能)が原則となっています。
つまり
無形固定資産と、 建物・建物附属設備・構築物 |
⇒ | 定額法 |
その他の固定資産 | ⇒ | 個人事業主は定額法、法人は定率法が原則だが、 変更も可能 |
ということになるわけです。
減価償却には「特別ルール」「特例」がある
減価償却は、10万円以上の固定資産を購入したときに適用される、と説明しましたが、要件を満たせば、異なる処理が認められる場合があります。
一括償却資産
固定資産の購入価額が10万円以上20万円未満の場合は、「一括償却資産」とすることが認められています。一括償却資産は、3年で償却が可能で、通常の減価償却を行うかを選択することができます。
少額減価償却資産の特例
青色申告をしている中小事業者(法人、個人)に限り、購入価額が30万円未満の減価償却資産については、全額を購入した年の費用として計上できる「少額減価償却資産の特例」があります(合計300万円まで)。2024年3月末までの制度でしたが、24年度税制改正で26年3月末まで延長されました。
例えば、青色申告をしている中小企業などが15万円の減価償却資産を購入した場合には、
- 通常の減価償却を行う
- 一括償却資産として3年間で減価償却を行う
- 少額減価償却資産の特例の適用を受け、全額を購入した年の費用として計上する
という3つの選択肢があることになります。
減価償却の期間が短くなれば、それだけ早く減税効果を享受することができ、会計処理も楽になる、というメリットがあります。該当する場合には、収支の見通しなどを踏まえて、有利な方法を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
固定資産には、有形固定資産と無形固定資産があり、会計処理が異なる部分もあります。確実に計上することで、節税に心がけましょう。