オリンピックの開催により好景気から不景気になると言われたり、あまり景気に影響しないと言われたりもしています。開催前後の動向についてこれだけ話題になるということは、オリンピック景気による影響を気にしている人が多い証拠といえます。そこで、オリンピック開催による景気の変わり目の資金繰り対策について解説します。
オリンピック景気前後の資金繰りとは
オリンピックにより景気が乱高下した場合を想定した資金繰りについて考えられるケースを見ていきましょう。
オリンピックで好景気になった年度(不景気→好景気)の資金繰り
1964年の東京オリンピックと同じく開催年度に好景気になった場合は、販売数量が増加し、売上高や利益額も前年度比より増加します。しかし、業績好調により資金繰りが前年度よりも改善されるとは限りません。むしろ、つなぎ資金という、販売代金が入金されるまでの間に一時的に不足する現金預金の穴埋めが必要になる可能性があります。しかも、一時的な現金預金の不足額が販売数量に比例するケースさえあり得ます。つなぎ資金の必要額の大小が資金繰りの明暗を分けるといえます。
つなぎ資金が必要になるかどうかは、商品やサービスを提供するまでのサイクルによって決まってきます。具体的には次の期間を比較します。
- ① 棚卸資産回転期間+売掛債権回転期間(商品を購入してから現金化されるまでの期間)
- ② 買掛債権回転期間(販売に伴う仕入代金や外注費を支払うまでの期間)
①の期間が②の期間より短ければ、支払う前に現金預金が入金されるため、つなぎ資金による穴埋めはあまり必要ないでしょう。現金商売や手付金を受け取る業種などが該当します。
しかし、①の期間のほうが②の期間よりも長い場合、入金前に支払いが発生するため、つなぎ資金による穴埋め額も多額になります。信用取引で販売している業種に多く見受けられます。
特に回収サイト(販売して入金されるまでの期間)が決められない中小零細企業や在庫の多い会社は、つなぎ資金が必要になる傾向にあります。業績好調により販売数量が伸びれば、仕入代金などの支出が多くなり、一時的に不足する現金預金も多くなります。しかも、好景気に乗じて設備投資や新規賃貸物件を借りるなどの過剰投資をすれば、さらにつなぎ資金が必要です。業績好調により売上高や利益が前年度より増加すれば、法人税や消費税などの税金が多額になり、納税資金の確保が大変になるでしょう。
オリンピック後に不景気になった年度(好景気→不景気)の資金繰り
オリンピック年度から一転して不景気となった場合、翌年度の売上高や利益額は前年度よりも大幅に減少するでしょう。法人税や消費税などの予定納税額が例年よりも多額になることを念頭に置いていない場合、予定外の支出に対応できずに資金繰りが苦しくなる可能性が出てきます。要するに例年より多額になる予定納税額の対策が施せているかどうかで資金繰りの明暗が決まってきます。
オリンピック年度と翌年度の資金繰り対策
オリンピック開催による好景気の年度と、景気の乱高下による不景気の年度の資金繰り対策の基本的な考え方について説明します。
売掛金管理を徹底する
オリンピック年度で好景気になれば売掛金の金額が増加する可能性があります。売掛金の金額が増加すれば、売掛債権回転期間も増加して、より多くのつなぎ資金が必要になります。そのため、特に新規得意先を獲得した場合には回収サイトを短く設定し早期回収に努めることがポイントになります。また、売掛金の回収もれや貸倒れの防止に注力すべきでしょう。
在庫管理は適正額を意識する
在庫管理は適正額を意識することがポイントになります。在庫が多すぎればつなぎ資金の必要額も多くなり、資金繰りの悪化につながります。反対に在庫が少なすぎれば、品揃えに悪影響を及ぼし販売するチャンスを逃し、売上高が減少するリスクを抱えてしまいます。
在庫の適正額は会社によってさまざまであるため、つなぎ資金の必要額と品揃えとのバランスを考えることが大切になってきます。
過剰投資に注意する
好景気によりオリンピック年度の売上高や利益額が前年度より増加すれば、さらに販売数量を延ばすために広告宣伝費の投入など強気の投資をしたくなるでしょう。しかも、利益額の増加に伴い法人税などの納付額が例年より多くなれば、豪華な社員旅行の費用などを経費に計上して節税対策をしようという誘惑に駆られることもあります。しかし、過剰投資や節税対策のために現金支出をすれば、節税額以上に現金預金は減ってしまいます。そのため、費用対効果を吟味し、過剰投資を警戒するのが好景気の年度の資金繰り対策には必須です。
納税額を減らす
オリンピック開催による好景気の年度に優遇税制(特別償却など)などの節税対策を施すのはもちろん、乱高下による不景気の年度にも予定納税額を減らす対策を施す必要があります。そもそも予定納税額は前年度実績をベースに計算するため、好景気の年度に多額の納税額が発生すれば、予定納税額も例年度より膨れ上がります。膨れ上がった予定納税額に対する納税資金の確保は大変なため、前年度実績に代わる方法で計算することが認められています。それが仮決算による予定納税額の計算という特例です。不景気の年度の業績をベースに計算するため、予定納税額を減らすことが可能です。
オリンピック年度にできる資金調達のポイント
オリンピック開催による好景気の年度につなぎ資金が必要になっても、一時的に不足する現金預金さえ調達できれば、企業の内部留保につながります。そのため、オリンピック年度でのつなぎ資金対策が資金繰り対策の明暗を左右します。
好景気のうちに銀行融資を受ける方法もある
つなぎ資金の調達に銀行融資を受けるという選択肢があります。融資審査は決算書の内容の良し悪しがポイントになり、もちろん好景気で業績好調のほうが借り入れに成功する確率が上がります。
一方、不景気の年度で業績が前年度より悪くなった場合、銀行融資を引き出せる確率は低下してしまいます。
予定資金繰り表を作成する
融資を受ける際、現金預金が足りなくなってから銀行に申し込むより、事前に資金繰りの苦しくなる時期を予測してからのほうが審査を通過する可能性は高くなります。資金繰りの苦しくなる時期を予測するツールが予定資金繰り表です。予測した現金収支額を記載すれば、現金預金残高がマイナスになる時期が事前に把握できます。
好景気のうちに対策を施す
好景気のうちに資金繰り対策を施すメリットは気持ちに余裕があるということです。不景気の年度になった場合、販売数量の増加や経費削減など業績回復の施策に追われ、資金繰り対策にまで頭が回らない可能性が出てきます。たとえば、新たに予定資金繰り表を作成するにしても、気持ちに余裕があるほうが着手しやすいでしょう。また前述の通り、好景気により業績の良い年度のほうが銀行融資は受けやすくなります。
不景気になり資金繰り対策が後手に回らないよう、好景気の年度のうちに先手を打つことが大切といえます。
まとめ
オリンピック開催により景気が乱高下し、年度ごとに業績の変動が大きくなるかどうかは分かりません。しかし、事業活動を行っていれば、好景気の年度や不景気の年度に遭遇するでしょう。特に不景気になってからでは気持ちにゆとりがなくなり、資金繰り対策が後手に回ってしまう可能性があります。そのため、業績の良い年度のうちに対策を施すのが資金繰りを円滑にするポイントといえるでしょう。