攻めの経営!コーポレートガバナンス税制について解説 | MONEYIZM
 

攻めの経営!コーポレートガバナンス税制について解説

平成29年度の税制改正では、株主総会期日の分散化を促進し、企業と株主・投資家との充実した対話を促すような税制措置をはじめとする、企業の積極的な経営を後押しするような整備が進みました。アジア・コーポレート・ガバナンス・アソシエーション(2014)での意見書では「日本における議決権行使の時間的猶予は相対的に短く日本のコーポレートガバナンスに関する認識にネガティブな影響を与えている」と言われていた日本も、ようやく世界基準に近づいてきたと言えるでしょう。
ぜひともこの改正を活かして事業を充実させ、さらなる事業活性化につなげてみてはいかがでしょうか。

コーポレートガバナンス税制改正概要

今年度の税制改革大綱には、「我が国の経済を好循環させ加速させていくためには企業のコーポレートガバナンスを強化し経営陣がより中長期的な企業価値の向上に資する投資などの攻めの経営を促進することが重要である」と記載されております。つまり目の前の利益のみならず中長期的な視点で、企業がより積極的に投資等の企業活動を行うことができるような環境づくりが重要であるということです。
そういった環境を整えることを目的とした税制改革の主な改正点は以下の3点となっています。
・株主総会期日設定の柔軟化に対応する法人税の申告期限の見直し
・「攻めの経営」を促す役員給与等に係る税制の整備
・組織再編成税制等の見直し
今回はこれらの改正のポイントを解説していきます。改正内容を大まかにでも把握しておけば、新たな事業を始める際などにスムーズに利用することができます。

株主総会期日設定の柔軟化に対応する法人税の申告期限の見直し

現行制度

現行制度において、法人は決算日の翌日から2ヶ月以内に当該事業年度の確定した決算に基づく申告書を提出しなければならないと決められています。

また、現行制度上、これに対する特例として、会計監査人の監査を受けなければならないなどの理由により決算が確定しないため、提出期限までに決算申告書を提出できない状況にあると認められる場合には、提出期限を1ヶ月(連結納税の場合は2ヶ月)延長することができるとされています。

改正内容

つまり、株主総会を決算日から3ヶ月以上たった後に開催したい企業に対して、事業年度終了後、3ヶ月以内に決算申告書を提出しなければならなかったところ、今回の改正により最大で6ヶ月まで延長できるようになります。これまで決算後の3ヶ月間は忙しかった経理部門の担当者も、これによって負担が軽減されると考えられます。

「攻めの経営」を促す役員給与等に係る税制の整備

また、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを与えるために、今回の改定では従来の利益に連動した役員給与の体系から業績に連動した役員給与の体系へと移行しました。この改定によって、経営陣がこれまでよりもさらに活発な事業活動を行うことが見込まれています。具体的には以下の2点を新たに損金算入可能にすることで、経営陣の所得税負担が減少することにつながるのです。

事前確定届出給与(ボーナス)について

事前確定届出給与の中に所定の時期に確定した数の株式・ストックオプションを含めることが可能となりました。

業績連動給与について

これまでは利益連動給与と定義されていましたが、算定指標に新たに株価を導入したり複数年度の指標を用いることを可能にしたりすることでさらに損金算入額を増やすことが可能となりました。

また譲渡制限付株式ストックオプション報酬の付与対象を自社役員限定から子会社の役員にまで拡大し、より多くの役員にインセンティブを付与することが可能となったのです。
これらはすなわち、役員報酬を固定報酬中心ではなく、株式などを用いた業績連動型報酬に移行するための改正であるといえるでしょう。これは欧米諸国の傾向に沿わせたものとなっていて、国内の企業が国外においても成長・発展していくことができることを目的としています。

組織再編成税制等の見直し

特定事業を当該企業から切り出して独立会社とすることをスピンオフといいます。スピンオフを行う際に譲渡損益や株の配当に税金がかかるのですが、これらの税率が一般的に高いといわれてきました。独立させるだけでもかなり費用がかかってしまうのに加えて課税も発生するため、経営陣からするとリスクマネジメントの観点からあまり思い切った判断をくだすことができないのが現実でした。

しかし今回の改定では一定要件のもとでこれらに係る税金を非課税にするといった内容の見直しがなされました。例えば事業部門のスピンオフ(単独新設分割型分割)の場合、適格要件を満たしていれば会社分割と同時に元の企業が新規企業の株を現物分配した際の、一般株主のみなし配当課税や新規企業に移転する資産に対する譲渡損益課税が対象外となります。また完全子会社の場合でも、適格要件を満たしていれば一般株主の配当課税や新規企業の株式に対する譲渡損益課税が対象外となります。
この改定により、経営戦略に基づいた事業再編等を円滑に行うことが可能となるでしょう。

☆ヒント
組織再編成に関する税制の見直しも上手に利用し適格要件を満たすように工夫すれば、これまでにはなかった経営上の選択肢を持つことが可能になるかもしれません。しかし、実際のところでは適格要件をみたすところまで手が回らず、見逃してしまっている企業も多いのではないでしょうか。適切なタイミングで主体的にアドバイスをくれるような税理士などのパートナーを予め見つけておくと良いでしょう。

まとめ

以上見てきたように平成29年度税制改正では、企業が積極的な経営を行うことができるように様々な改正が定められています。該当する改正箇所を正確に把握することで、経営の姿勢をより一層積極的なものへと転換していくチャンスといえるのではないでしょうか。
とはいえ様々な変更点をその都度経営者の方々がチェックし完璧な改善策を講じるのは難しいものです。どの項目に該当するのかなど、定期的に税務のプロである税理士に相談しておくことを強くおすすめします。

細井山豊
東京大学卒。現、同大学院所属。
ベンチャー企業の経営やビジネスを学んでおり、経営に役立つ様々な知識やノウハウを習得中。
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