皆さんは危機対応融資制度の存在をご存知でしょうか。2017年6月9日の日本経済新聞の記事では危機対応融資の不正問題について取り上げられていました。危機対応融資制度は今回の不正を受けて見直しが行われるものの、個人事業主の方々も多く恩恵を受けている制度であり、正しく理解して利用することが大切です。今回は危機対応融資の不正問題や正しい利用方法について詳しく解説していきます。これを機に危機対応融資について改めて知識を習得するのも良いかもしれません。
危機対応融資って?
危機対応融資とは何か
危機対応融資とは、内外の金融秩序の混乱や大規模な災害などに対応するため、主務大臣(財務大臣・農林水産大臣・経済産業大臣)により危機認定がなされた場合に、指定金融機関が危機対応業務として事業者に対して必要な資金の融資を行うというものです。指定金融機関とは商工組合中央金庫(以下、商工中金)・日本政策投資銀行に加え、申請する民間金融機関のうち一定の基準を満たし主務大臣に指定された金融機関のことで、株式会社日本政策金融公庫からのリスク補完等を受けて貸付け等を実施します。
危機対応融資の流れ
主務大臣が危機認定を行うと、政府から出資・資金の貸付け・利子補給金交付などを受けた日本政策金融公庫は、危機対応円滑化業務として指定金融機関との協定締結の上、貸付け・損害担保・利子補給などのリスク補完等を実施します。そして、それらを受けた指定金融機関が事業者に対し設備資金の貸付けや長期・短期資金の貸付け、社債の買取りなどを行うという流れになっています。
具体的な融資の例
代表的な例としては、2008年のリーマンショック時の融資が挙げられます。危機対応融資の制度自体が作られたのもこのときで、リーマンショックによる経済金融危機に苦しむ多くの企業に対して融資が行われました。
また、2011年の東日本大震災時にも、大震災後の金融市場の混乱に伴い当座の資金繰りが困難となった企業に対して多額の融資が行われました。
不正問題との関連性
不正問題の概要
今回の不正問題では、商工中金が不正に融資を行なったとして行政処分を受けました。具体的な内容としては、本来ならば融資を受ける基準を満たしていなかった中小企業に対して、商工中金側が決算書などの財務諸表を書き換えて売上高を低くするなど業績が悪化しているように見せかけ、融資審査を通していたというものです。
不正を調査した第三者委員会によると商工中金は融資残高の積み増しや民間の金融機関に取られそうな融資案件の確保のために不正融資を行なっていたと見られ、本来公的な性格が強い制度であるにも関わらずこのような不正が長年にわたって行われていたことに対して批判が高まっています。
また、第三者委員会の報告書では支店長による融資ノルマ達成の圧力があった支店もあるとされ、「不正行為が営業担当者間で周知のこととされ、『みんながやっている』との意識となって規範意識の低下を招いていた」と結論づけられました。
不正問題を受けての見直し
商工中金による不正融資の問題を受けて、政府は不正の温床となった危機対応業務の制度を見直すことを決めました。以下、その内容について見ていきます。
政府内では、商工中金による不正が長年にわたって行われていたことを重く見て、危機対応業務の廃止を求める声も上がっていました。しかし、経済産業省としては将来起こりうる新たな危機への備えは必要であるとして危機対応業務自体は存続させる立場をとっており、本当は危機的状態ではない事業者に対して融資を行なっていたという状況を踏まえ、危機時に限って利用できる制度を検討するとしています。また、本来ならば一般の民間金融機関の融資を受けにくい危機的な状況に陥った事業者を国家の援助を受けて支援する制度のはずが、制度を利用しなくても民間金融機関が実行できるはずの融資まで扱っていたのは民業圧迫であるという批判もあり、今後は地域の民間金融機関が積極的に関わるよう促すとしています。
一方、商工中金側も再発防止策などを盛り込んだ業務改善計画を提出し、不正の原因になったとされる営業店のノルマを廃止して不正の全容が明らかになるまでは業績評価などに直結する過大な数値目標の設定をやめるとしています。
正しい利用の仕方とは?
不正による利用への影響
それでは、危機対応融資の正しい利用の仕方や利用するにあたっての注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。
まずは、今回の不正によって危機対応融資の利用に生じる影響について見ていきます。
今回の不正では、融資を受けた企業側としては本来であれば通らないはずの融資審査が通っていたということになります。当然といえば当然ですが、このような不正が起きた後は融資のための審査がかなり厳しくなるということが予想されます。そのため、融資を申し込んだ場合、詳細な資料の提出を求められたり何度も面談を重ねられたりする可能性がありますし、結果として融資を受けられない可能性も高くなるでしょう。従って融資を申し込む際には、自社の経営がなぜ危機的状況になったのか、今後どのように改善していく予定なのかを詳細に説明できるようにしていく必要があると思われます。
正しい利用の仕方
以上のことを考えると、危機対応融資の正しい利用の仕方としてはやはり自社の経営が本当に危機的状況になった時のみ利用するということが第一に挙げられます。
危機対応融資とは、そもそも災害や景気悪化などにより業況に影響を受け資金繰りが難しくなった事業者を救済するために設けられた制度です。まだ改善できる余地がある状態で融資を申し込むことは本来の目的には合っていませんし、不正融資が発覚した現在、そのような状況で融資を申し込んでも審査に通るのは難しいでしょう。危機対応融資は経営危機を乗り切るための最終手段として考えておくのが良いかもしれません。
また、もし融資を申し込む場合には先述したように審査基準が以前よりも厳しくなっていることが予想されます。必要な書類の記入を確実に行なったり、面談に備えて自社の経営状況や今後の改善計画についてしっかりと確認・検討したりすることが重要となります。
そのためには日々の資金繰りが重要になってきますが、資金繰りに悩んでいる事業者も多いかと思います。もし資金繰りで悩んでいるのであれば税理士に一度相談してみると良いかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。危機対応融資は公的性格の強い制度である上、今回の不正融資問題を受けてさらに融資を受けることが難しくなると思われます。そのため安易な融資の申し込みは避けるとともに、申し込む場合には事前にしっかりとした準備をしておくようにしましょう。