納税者が生命保険等の保険に係る料金を支払った場合、一定の金額の所得控除が受けられる「生命保険料控除」という制度があります。平成22年の税制改正により、締結日が平成24年1月1日以前か以後かによって生命保険は新契約と旧契約へと分けられ、それぞれの保険料に対する控除額やその上限も異なっています。
生命保険料控除を有効に活用できるよう、生命保険料控除の制度を解説していきます。
生命保険料控除の概要
控除可能な保険の種類
生命保険料控除の対象となる保険契約は次の三つに大きく分けることができます。
・生命保険契約
生死によって一定額の保険金が支払われるような生命保険の契約で、保険金の受取人の全てをその保険料等の払込みをする人又はその配偶者その他の親族とするものをいいます。旧簡易生命保険契約を始め、民間会社や農業協同組合と締結した保険契約、確定給付企業年金に係る適格退職年金契約なども含まれます。また旧契約に限ってはこれらに加えて、身体の疾病や傷害に対して保険金が支払われる保険のうち、医療費支払事由に起因して保険金が下りるものも含まれます。
なお、これらの条件を満たすものでも、保険期間が5年未満の貯蓄型の保険契約や外国企業と国外で結んだ保険契約等は生命保険料控除の対象にはならないため、注意しなくてはいけません。
・介護医療保険契約
介護医療保険契約は、平成22年の税制改正によって新たに対象として組み込まれました。疾病や傷害に起因する通院又は入院に係る医療費の支払いが保険金の対象になっている保険契約や、疾病や傷害自体に保険金が支払われる旧簡易生命保険契約がこれに当てはまります。
生命保険料控除の対象となるのは、新契約すなわち締結日が平成24年1月1日以降であって、保険金等の受取人の全てをその保険料等の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするものに限られる点に留意しましょう。介護医療保険契約についても生命保険契約の場合と同様に、保険期間が5年未満の貯蓄型保険や外国企業との国外契約は含まれません。
・個人年金保険契約
年金(退職金を除く)が給付される保険契約が対象となります。適用には以下の3つの条件を満たしている必要があります。
①年金の受取人が保険料の支払い者又はその配偶者であること
②保険料の支払いが年金給付まで10年以上継続するという契約であること
③年金の支払いが受取人の年齢が満60歳になった以降と定められていて、10年以上の定期又は終身の年金であること
新契約と旧契約
平成22年度の税制改正により、平成24年1月1日以降に締結した保険契約が「新契約」、平成23年12月31日以前に締結した保険契約が「旧契約」と区別されました。新契約には生命保険契約と個人年金保険契約のほか、旧契約には含まれていなかった介護医療保険契約も含まれています。これによって、通院や入院に係る費用に保険金が支払われるような保険契約に対しても生命保険料控除が適用されるようになりました。
一般的な保険契約は一定期間ごとに更新されます。また、突然に旧契約が契約内容変更によって新契約とみなされる場合もあります。こうした場合は更新・変更の時点までは年度途中であっても旧契約の控除額が計算され、以降は新契約の控除額として計算されます。
控除額の金額
平成24年1月1日以降に締結した新契約と平成23年12月31日以前に締結した旧契約では、控除額の計算方法が異なります。
新契約の場合
新生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料の控除額は所得税と住民税でそれぞれ以下の式によって計算することができます。
・所得税
年間の支払い保険料 | 控除額 |
---|---|
20,000円以下 | 支払い保険料の全額 |
20,000円超で40,000円以下 | 支払い保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超で80,000円以下 | 支払い保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
新生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料を合わせて最大で120,000円の控除が受けられます。
・住民税
年間の支払い保険料 | 控除額 |
---|---|
12,000円以下 | 支払い保険料の全額 |
12,000円超で32,000円以下 | 支払い保険料等×1/2+6,000円 |
32,000円超で56,000円以下 | 支払い保険料等×1/4+14,000円 |
56,000円超 | 一律28,000円 |
新生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料を合わせて最大で70,000円の控除が受けられます。
この場合の支払い保険料とは、対象年に支払った金額から受け取った剰余金や割戻金を差し引いたものになるので注意してください。
また、1つの契約で新生命保険、介護医療保険、新個人年金保険の内の2種類以上を跨いで保障している契約の場合は、保険契約の主要な保障内容に応じて保険料控除の制度が適用されます。
旧契約の場合
旧生命保険料と旧個人年金保険料は所得税と住民税でそれぞれ以下の式によって計算されます。
・所得税
年間の支払い保険料 | 控除額 |
---|---|
25,000円以下 | 支払い保険料の全額 |
25,000円超で50,000円以下 | 支払い保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超で100,000円以下 | 支払い保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
旧生命保険料と旧個人年金保険料合わせて、最大で100,000円の控除が受けられます。
・住民税
年間の支払い保険料 | 控除額 |
---|---|
15,000円以下 | 支払い保険料の全額 |
15,000円超で40,000円以下 | 支払い保険料等×1/2+7,500円 |
40,000円超で70,000円以下 | 支払い保険料等×1/4+17,500円 |
70,000円超 | 一律35,000円 |
旧生命保険料と旧個人年金保険料合わせて最大で70,000円の控除が受けられます。
両方の場合
新契約と旧契約の両方に加入している場合は、控除の受け方は以下のように三通りあります。
①新契約にのみ生命保険料控除を適用させる
②旧契約にのみ生命保険料控除を適用させる
③新契約と旧契約の双方について生命保険料控除を適用
③の方法によって控除額を計算する際、控除額は①と②を足し合わせた額になります。ただし、この場合の適用限度額は、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険それぞれについて所得税で40,000円、住民税については28,000円となります。
上限額について
生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険を合わせた全体の控除額の上限は、所得税で120,000円、住民税で70,000円になります。
なお、複数の保険に加入している場合、計算方法の選択によって控除額が変わってきます。例えば、新契約の生命保険料の年間の支払い保険料が40,000円、旧契約の生命保険料の年間の支払い保険料が100,000円で介護保険料と個人年金保険料の支払いが無い場合の所得税について考えます。
このケースにおいて上記の①~③の控除の受け方をそれぞれ適用した場合の控除額を計算してみましょう。
①新契約にのみ生命保険料控除を適用させる
②旧契約にのみ生命保険料控除を適用させる
③新契約と旧契約の双方について生命保険料控除を適用
しかし所得税の税額控除では上限額が40,000円と定められているため40,000円
このように、今回のケースでは、旧契約にのみ生命保険料控除を適用させた場合が一番多く控除を受けられます。新契約と旧契約の双方について生命保険料控除を適用させることが必ずしも控除額を増やすことに繋がるとは言い切れません。ご自身の契約内容に応じて、適用する制度を選択しましょう。
控除を受ける方法
控除を受ける手続き手順
生命保険料控除を受ける場合には、確定申告の際に確定申告書の生命保険料控除の欄に必要事項を記入する必要があります。また、保険会社等から支払い金額や控除が受けられることを証明する生命保険料控除証明書が届くので、添付するか提出の際に提示しなくてはいけません。
ただし、年末調整の際に控除を受けているものについては、上記の手続きの必要はありません。また、旧契約の保険契約で年間の保険料が9,000円以下の場合、控除は受けられますが生命保険料控除証明書の添付は必要ありません。
上手に利用するポイント
会社員の場合
保険料の支払いが給料から天引きできない場合は、生命保険会社から毎年10月頃に送られてくる生命保険料控除証明書を保険料控除等申告書に添付して会社に提出します。そうすることで年末調整の際に控除が受けられます。給料から保険料が天引きされる場合には、生命保険料控除証明書の添付は必要ありません。
なお、給与の年間収入額が2,000万円を超える場合は確定申告になるため、上記の手続きを行います。なお、所得税で手続きをしていれば、住民税の手続きを行う必要はありません。
個人事業主の場合
確定申告をする際に、上記の方法で手続きを行います。会社員の場合同様、所得税で生命保険料控除の手続きを行っていれば住民税の生命保険料控除も自動的に行われます。
そのような場合には税理士に相談してみるというのも1つの手段です。税の専門家である税理士ならば、生命保険料控除の要件や手続きに関して役に立つ情報を提供してくれるはずです。
まとめ
旧契約と新契約では生命保険料控除額の計算方法が異なるため、旧契約が更新された際に控除額が低くなってしまうことも考えられます。そうなった際に慌てないためにも、自身の加入している対象の保険の契約内容と控除額の計算方法をあらかじめ確認しておきましょう。