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「新型コロナ」の影響で、「相続放棄」の判断が 困難に そんな時には「熟慮期間」の延長ができます
2020年5月19日
相続の際、被相続人(亡くなった人)に多額の借金があった場合などに、相続そのものを放棄することができることは、ご存知だと思います。ただし、それをするためには、決められた期間内に家庭裁判所への「申述」を行わなくてはなりません。「平時」でも大変なのに、今は新型コロナウイルス感染症の影響で、外出、移動の自粛が呼び掛けられるなど、手続きや判断そのものがしづらい状況が生まれています。こうした環境の中で、焦って間違った判断をすることだけは避けたいもの。実は、別途手続きを行えば、申述までの期間を延長することができます。今回は、その「熟慮期間」の延長について説明します。
あらためて、「相続放棄」とは?
ある人が亡くなると、その相続人は、被相続人の財産とともに債務もすべて相続することになっています。そのため、借金などの債務が財産よりも大きい場合には、何もしなければ、結果的にそのマイナス分を引き継ぐことになります。
そうした事態を避けるために設けられているのが、「相続放棄」(民法第938条)の仕組みです。相続人が被相続人の債務を引き継ぎたくない場合には、定められた手続きを行うことにより、その名の通り「相続を断る」ことができるわけです。ただし、この相続放棄を行った場合には、債務だけでなくプラスの財産も引き継ぐことはできません。相続放棄の結果、相続人の受け取る財産も債務もゼロということになります。
また、民法は、これとは別に相続の「限定承認」(同922条)という制度を定めています。これは、被相続人の借金などがどの程度あるのかが不明な場合や、とにかく手元に被相続人の財産を残したい場合などに「使える」方法で、「相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を引き継ぐ」ことができます。この場合、仮に被相続人の遺産が2000万円、債務が3000万円だとしたら、遺産2000万円と債務2000万円を引き継ぎます。債務超過分の1000万円は、支払う必要はありません。
とりあえずは「プラマイゼロ」なのですが、例えば不動産や美術品といった現物を相続したい場合には、それらを手放さなくてすみます。また、手続き後に被相続人の新たな借金などが発覚したとしても、それらの弁済義務は負わなくてOK。反対に、最終的に財産が債務を上回っても、そのまま相続することができるのです。ただし、相続放棄が相続人1人でも可能なのに対して、この限定承認の場合には、共同相続人全員の同意が必要ですから、そのぶんハードルは高くなると考えるべきでしょう。
相続放棄ができるのは、原則「相続開始から3ヵ月」
ところで、今説明した相続放棄も限定承認も、原則として「自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったこと、それにより自分が相続人となったこと)を知った時」から3ヵ月以内に、家庭裁判所に対して「申述」という手続きを取る必要があります。この3ヵ月を「熟慮期間」と言います。逆に言うと、この熟慮期間内に申述を行わなければ、原則として自動的に財産も債務もすべて引き継ぐことになるわけです。
親などの被相続人が亡くなって3ヵ月の間には、葬儀も行わなくてはなりません。精神的なショックも抱えながら、被相続人の財産や債務を確定させ、相続に対する方針を固めるのに、3ヵ月というのは、決して余裕のある時間ではないはずです。
さらに細かな話をすれば、「家庭裁判所に申述」と言いましたが、どこの裁判所でもいいわけではありません。「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」という定めがありますので、それを証明するための被相続人の住民票の除票といった書類も用意する必要があります。もちろん、他に相続人があれば、お互いの意思の確認、話し合いも必須でしょう。
通常でも、相当エネルギーの要る作業になりますが、今はさらに新型コロナウイルスを意識せざるを得ない厳しい環境にあります。全国的に緊急事態宣言が解除される方向にはあるものの、今後もウイルスを気にせず、外出や交通機関を使った移動などが自由に行えるようになるまでには、かなり時間がかかるでしょう。
「熟慮期間」は延長できる
そんな状況の中、相続放棄などを検討すべきなのか迷うような相続が発生した時には、熟慮期間の延長を考えるのも1つの方法です。これを認めてもらうためには、やはり被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てを行います。ただし、申し立てできるのは、熟慮期間が終わる前となっていますから、注意してください。
申し立てに必要な書類など、詳細は以下から確認することができます。
まとめ
被相続人に、生前借金があり、財産を上回る可能性がある場合には、相続放棄や限定承認を検討すべきかもしれません。相続開始を知った日から3ヵ月という熟慮期間内には判断が困難だと感じたら、家庭裁判所に申し立てを行うことによって、その期限を延長することもできます。不明な点があったり、サポートが必要だと感じたりしたら、相続に強い税理士に相談してみましょう。