中小企業も令和4年から義務化! ハラスメント対策について解説 | MONEYIZM
 

中小企業も令和4年から義務化!
ハラスメント対策について解説

大企業は令和2年6月から、中小企業でも令和4年4月から、職場におけるハラスメント防止対策が義務化されます。ハラスメント防止法に基づき、必要な対策を講じることが事業主に求められます。ハラスメント防止法の内容、中小企業のとるべき対応について、解説します。

ハラスメントの実態と対策の必要性

企業におけるハラスメントの実態

厚生労働省は職場のパワーハラスメントの実態把握を目的に、平成24年度と平成28年度の2回、実態調査を実施しています。初回の平成24年度調査は職場でのいじめや嫌がらせが社会問題になっていることを受けて、平成23年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が設けられたことにより実施したもので、平成28年度調査は初回の平成24年度調査から4年経過後の実態を明らかにする目的で行ったものです。

 

過去3年間のパワーハラスメントの経験
注:数値はそれぞれ四捨五入しているため、内訳と計が一致しない場合がある。
注:平成24年度実態調査と平成28年度実態調査では選択肢を変更している(平成24年度実態調査の「経験あり」は、平成28年度実態調査では「何度も繰り返し経験した」、「時々経験した」、「一度だけ経験した」に分けて回答を求めた。)。
引用:厚生労働省ホームページ

 

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」を職場のパワハラとしてアンケートを実施した結果、従業員に向けてパワハラの有無を問う質問に対して平成24年度調査では25.3%、平成28年度調査では32.5%が「過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある」と答えています。

中小企業におけるハラスメント対策の必要性

実態調査では大企業に比べて中小企業でのパワハラ対策の遅れも示されています。平成28年度実態調査で企業へのパワハラ予防・解決のための取組状況を質問したところ、「実施している」との回答は52.2%で、半数を超える企業で取り組みが行われている結果になりました。しかし企業規模別内訳を見ると従業員数1,000人以上の企業の「実施している」回答比率は88.4%であるのに対して従業員数300~999人では68.1%、100~299人では53.3%と低下し、99人以下では26.0%まで落ち込む結果になっています。

 

パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況(従業員規模別)
注:数値はそれぞれ四捨五入しているため、内訳と計が一致しない場合がある。
引用:厚生労働省ホームぺージ

 

一方で平成24年度調査での従業員への過去3年間のパワハラを受けた経験の有無についての質問に「ある」と回答した人の割合は全体で25.3%、従業員数1,000人以上の企業がもっとも高い26.9%、従業員数300~999人が25.5%、100~299人が27.4%、従業員数99人以下が25.0%という結果になり、企業規模で大きな開きはありません。パワハラは大企業だけに限って起きる問題ではなく、中小企業は予防・解決のための取り組みが遅れているぶん早急に必要な取り組みを開始する必要があります。

 

(従業員調査)過去3年間にパワーハラスメントを受けた
引用:厚生労働省ホームページ

 

ハラスメント防止法とは?

ハラスメント対策が法整備された背景

令和2年6月1日より労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)、いわゆるハラスメント防止法が施行され、事業主はハラスメント防止のための措置を講じる必要があります。これは都道府県労働局や労働基準監督署に対する職場のパワハラに関する相談数、パワハラによる精神障害等での労災認定件数ともに増加し、職場でのいじめ・嫌がらせが社会問題にまで発展したことによるものです。

 

これまでパワハラをはじめとする職場でのハラスメントは線引きが難しく一律の取扱いができないこと、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントはとくにデリケートな問題であることといった理由から、対策についても企業ごとで行うこととされてきました。事業主にハラスメント対策を課すことで職場でのいじめ・嫌がらせを減少させることが、今回の法整備の目的です。

ハラスメント防止法の内容

パワハラ防止法は曖昧であった職場におけるパワハラを定義し、事業者・労働者の責務や事業主のとるべき措置等を定めた法律です。「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」を要件とし、3点の要件を全て満たすものをパワハラとしています。

 

相応の範囲で行われる業務上必要な指示や指導はパワハラに該当しないとされ、個々の判断はさまざまな要素の総合的考慮に基づいて行われます。例えば人格を否定するような言動、必要以上の激しい叱責を長時間にわたって繰り返し行う行為、他の労働者の前での威圧的な叱責はパワハラに該当すると考えられますが、注意しても改善されない遅刻や重大な問題行動に対する強めの注意はパワハラに該当しないと考えられます。

 

事業主には防止に向けて必要な措置を講じることが義務化され、違反した場合は行政による是正指導が行われることが規定されています。罰金などの罰則はないものの企業名が公表される場合があることに注意しなければなりません。またハラスメント対策法にはハラスメント相談を行った労働者への不利益取扱いの禁止も規定されています。事業主は職場におけるパワハラについて相談を行ったり事実確認に協力したりした労働者に対し、解雇などを行うことが禁止されています。

中小企業が行うべきハラスメント対策

就業規則変更や相談窓口設置が必要

事業主がハラスメント防止のためにしなければならないことの1点目は、就業規則などの変更です。事業主はハラスメント防止についての方針等を明らかにし、労働者に対しての周知・徹底を図る必要があります。就業規則にはハラスメントを行った労働者の取扱いについての定めが必要で、解雇や懲戒、減給など処分の内容を定めて記載しておかなければなりません。

 

2点目は相談窓口の設置です。事業主は労働者がハラスメントの相談を受け付けるための窓口を設ける必要があります。担当者を配置し、迅速で適切な対応を行えるようにすることも求められています。平成28年度実態調査結果で従業員数1,000人以上の企業は98.0%が「窓口を設置している」としているのに対し、従業員数300~999人では93.7%、100~299人は80.3%、従業員数99人以下では44.0%となっています。ハラスメント対策法への対応として多くの中小企業が、これから相談窓口を設置する必要があります。

 

従業員向けの相談窓口の設置状況(従業員規模別)
注:数値はそれぞれ四捨五入しているため、内訳と計が一致しない場合がある。
引用:厚生労働省ホームぺージ

意識の徹底が最善のハラスメント対策

ハラスメント防止法は事業主にハラスメント防止のための措置を講じることを定めるとともに、事業主と労働者の双方に対してハラスメント行為を行わないよう規定しています。事業主の責務とされている内容は職場におけるパワハラを行ってはならないこと、労働者の他の労働者に対する言動に注意を払うこと、ハラスメント問題に理解を払うことの3点です。労働者にはハラスメント問題に理解を深めて他の労働者に対する言動に注意を払うこと、事業主が講じる雇用管理上の措置に協力することの2点が責務とされています。

 

ハラスメント対策法への対応として事業主は労働者に対し、意識の徹底を図る必要があります。自らメッセージを発信したり労働者を研修や講習会に参加させたりすることが、ハラスメントのない職場づくりにつながります。厚生労働省による「ハラスメント裁判事例、他社の取り組みなどハラスメント対策の総合サイト『あかるい職場応援団』」などからの積極的な情報収集も有用です。

まとめ

ハラスメント防止のため、事業主には就業規則や相談窓口の設置が求められるようになります。中小企業がハラスメント防止法の適用対象となるのは令和4年からですが早めに準備するとともに、ハラスメントのない、快適な職場環境の整備に努めましょう。

矢萩あき
複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。
「労務」カテゴリの最新記事