国税の納税に対して、意に反する申告漏れを指摘されて追徴課税が決定された。滞納による差し押さえに納得がいかない――。そんなときに、処分の取り消しや変更を求めることができる「国税不服審判所」をご存知でしょうか? 具体的にどのような審査が行われるのか、実際に処分が覆る可能性はどれくらいあるのか? 詳しく解説します。
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税金の請求や処分に納得できない!そんな時に用意されている「国税不服審判所」って?【3分かんたん確定申告・税金チャンネル】
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どんな組織なのか
国税の納税について税務署長などが行った更正(※)・決定などの課税処分、差し押さえをはじめとする滞納処分などに納得がいかず、泣き寝入りしたくないという場合、裁判に訴える方法がありますが、その前に国税不服審判所の審査を仰ぐことができます。
正確には、不服の場合には、この「審査請求」か、あるいは税務署長などに対する「再調査の請求」のいずれかを選択することができ、どちらも処分の通知を受けた日の翌日から原則として3ヵ月以内に申し立てを行います。国税不服審判所への「審査請求」は、税務署などの「再調査」を経ずに可能、「再調査」を選択した場合も、それに納得できなければ「審査請求」できる、というふうに考えてください。
引用:国税不服審判所
国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行うことを目的に、1970年に設置されました。国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として位置づけられていて、「審査請求書が提出されると、審査請求人と原処分庁(税務署長や国税局長など)の双方の主張を聴き、必要があれば自ら調査を行って、公正な第三者的立場で審理をした上で、裁決を行います。」(国税不服審判所ホームページ)。
税務署に過少申告などを指摘され修正申告を求められたものの、それに応じなかった場合に、税務署から下される処分。
不服申し立ての対象となるのは?
それでは、具体的にどのような処分が不服申し立ての対象として認められているのでしょうか? 以下にまとめました。
(1)税務署長などによる処分
- 課税標準等又は税額等に関する更正又は決定
- 加算税の賦課決定
- 更正の請求に対するその一部を認める旨の更正又は更正をすべき理由がない旨の通知
- 納税の告知
- 国税の滞納処分
- 耐用年数の短縮申請を拒否する行為等税法上の各種の申請を拒否する行為
(2)税務署長など以外による処分
- 登録免許税法の規定による登記機関が行う登録免許税額等の認定処分
- 自動車重量税法の規定により国土交通大臣等が行う自動車重量税額の認定処分
また、不服申立てができるのは、「国税に関する法律に基づく処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者」です。直接処分を受けた納税者だけでなく、例えば、抵当権を設定している財産が著しく低い額で公売されることによって債権の回収ができなくなる抵当権者のように、第三者であっても、その権利または法律上の利益が害された場合には、不服申立てをすることができるのです。
なお、国税通則法第8章第1節(不服審査)の規定による処分など、不服申立ての対象とならない処分もあります。また、不服申立ては、「単に処分が存在しこれに不服があるというだけではなく、その処分によって自己の権利又は法律上の利益が侵害されている場合にできる」こととされており、侵害されていない場合にはできません。
詳しくは、こちらを参照してください。
審判官の合議で裁定を下す
国税不服審判所の審理の流れは、おおよそ以下のようになっています。
審査請求を受けると、審判所は、まずその請求が法律の規定に即しているかどうかについて、形式的な審査を行います。その結果、不適法な請求であることが明らかであるような場合には、審理を経ずに審査請求が「却下」されることもあります。
審理は、国税不服審判所長が指定する担当審判官1名及び参加審判官2名以上の合議によって進められます。調査、審理が終了すると、合議体の過半数の意見によって議決を行い、それに基づいて国税不服審判所長による裁決が行われることになります。ちなみに、原処分以上に審査請求人に不利益となるような裁決はできないことになっています。
裁決の結果は、次のどれかになります。
- ①全部取り消し
審査請求人が原処分の全部の取消しを求める場合において、その主張の全部を認める - ②一部取り消し
審査請求人が原処分の全部の取消しを求める場合において、その主張の一部を認める、または、審査請求人が原処分の一部の取消しを求める場合において、その主張の全部または一部を認める - ③変更
審査請求人が原処分の変更を求める場合において、その主張の全部または一部を認める - ④棄却
審査請求人が原処分の取消しまたは変更を求める場合において、その主張を認めない
納税者の「勝率」は、およそ1割
では、国税不服審判所では、実際にどんな「攻防」が繰り広げられているのでしょう? 2020年6月に公表された「令和元年度における審査請求の概要」(国税不服審判所)から拾ってみます。
2019年度(2019年4月1日~20年3月31日)までに発生した審査請求は、合計2,559件で、前年度(3,104件)に比べ17.6%減少しました。
内訳(前年度比)は、「課税関係」が、申告所得税等772件(74.2%)、源泉所得税等49件(100%)、法人税等501件(89.9%)、相続税・贈与税135件(73.0%)、消費税等961件(86.3%)、その他5件(62.5%)の計2,423件(82.1%)。また「徴収関係」が136件(88.9%)でした。
では、審査の結果、そのうちどれくらいの処分が見直されたのでしょうか? 結論を言えば、審査請求した側にとって厳しい結果となっています。
2019年度に処理された5,154件(課税関係4,961件、徴収関係193件)のうち、申立が「許容」、すなわち納税者の訴えが認められたのは、「全部」は90件(構成比3.2%)、「一部」が285件(10.0%)で、合わせても13.2%でした。一方、「取下げ」が348件(12.2%)、「却下」が134件(4.7%)、「棄却」は1,989件(69.9%)に上りました。
過去10年間を見ても、「全部」「一部」を合わせた「許容」は、全体の7.4%~13.6%程度にとどまっています。これらの数字を見る限り、税務署などの処分に対して国税不服審判所に審査請求を行っても、主張が100%認められる可能性は極めて低いと言わざるをえません。大半の案件は、審理は行われるものの、税務当局の下した処分は覆らず、という結果になっているのです。
まとめ
政務所長や国税局長が行った処分について不服がある場合には、その処分の取り消しや変更を求めて国税不服審判所に審査請求することができます。ただし、納税者側の言い分が認められる可能性は低いのが現実。また、申立ての中身や方法に不備があると、“門前払い”になったりする可能性もあります。処分に納得できないときには、審判所への申立ての可否も含めて、税務調査などに詳しい税理士に相談するようにしましょう。