法人が支店を設置した場合のメリットとデメリット、税金について解説

[取材/文責]長谷川よう

法人が事業を拡大していく過程において、本店だけでなく支店を設置することがあります。本店機能の一部を別の場所にも持たせることができるため、事業の拡大方法としては便利です。しかし、支店の設置にはメリットだけでなく、デメリットもあります。ここでは、法人が支店を設置した場合のメリットやデメリット、さらに税金についても解説します。

支店と営業所の違いとは

本店以外の場所にお店や事務所を出そうと考えるときに、設置するものとして支店と営業所の2つがあります。支店と営業所は似ていますが、その内容は大きく異なります。ここでは、その違いについて見ていきましょう。

①支店

支店とは、本店から離れて独自に営業活動を行うことができる組織のことです。つまり、本店以外に自分で考えて事業活動を行うことができる拠点が支店です。営業社員のほかに、総務や経理などの人材が常駐していることも多くあります。

 

支店は、本店と同じような機能や権限を持つことができるため、設置するためには取締役会の承認、または取締役の過半数の承認(取締役会の設置がない場合)が必要になります。さらに、法務局での登記も必要となります。本店の所在地で登記を行い、その後支店の所在地で登記します。

 

株式会社の支店の場合は、支店に支配人を置くことが可能です。支配人を置くことで、意思決定や責任の所在がはっきりし、事業を拡大しやすくなるメリットがあります。

②営業所

営業所とは、営業活動をしている拠点のことをいいます。営業所はあくまで営業を行う拠点のため、そこで意思決定などを行うことはありません。会社によって異なりますが、支店の下に営業所があるイメージです。

 

営業所では、本店と同じような機能や権限を持つことはできないため、法務局での登記は不要です、ここが支店との一番大きな違いです、登記をする必要がないため、比較的容易に営業所を設置することができます。

 

会社によって異なりますが、通常は、総務や経理などの人材が常駐していないことが多いようです。

法人が支店を設置することのメリットとデメリット

法人が支店を設置することのメリット

ここまで、支店と営業所の違いを見てきました。支店と営業所を比べると、登記などの必要がないため、営業所の方が設置が簡単です。しかし、多くの法人では支店を設置しています。それは、法人が支店を設置することに多くのメリットがあるからです。法人が支店を設置することのメリットは、主に次の3つがあります。

①権限を委任できる

法人が支店を設置する場合は、一定の範囲の権限を委任することができます。権限の範囲をどうするかは、法人によって任意に決めることが可能です。例えば、支店なら他社とビジネスにおける契約を結ぶことさえできます。スムーズに契約を結ぶことで、ビジネスチャンスを逃すことがないメリットがあります。

 

営業所の場合では、常に本社などの承認を得る必要があるため、1つの作業が進むスピードがどうしても遅くなってしまいます。

②融資を受けることができる

支店を設置した場合は、その支店単独の貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成することができます。営業所でも、営業所の成績を確認するため損益計算書のようなものを作成することもありますが、あくまで本社への報告資料という扱いになります。

 

支店は法務局に登記された権限を持つ組織であるため、そこで作成された財務諸表も外部に認められます。そのため、支店独自で金融機関から融資を受けることができ、設備投資など事業拡大にその資金を使うことができるメリットがあります。

 

営業所の場合は、金融機関から融資を受けることができず、本店の資金を使うことになるため、資金繰りが苦しくなることもでてきます。

③公共事業の入札ができる

支店を設置した場合のメリットとして、公共事業の入札ができることが挙げられます。公共事業の入札については、その地域の活性化を目的に、地元企業を優先するものも多くあります。支店がある場合は入札が可能な公共事業も多いため、安定した仕事が得られるメリットがあります。

法人が支店を設置することのデメリット

法人が支店を設置する場合、メリットがある一方でデメリットもあります。支店を設置することのデメリットの多くは支出を伴うものです。主なデメリットには次の3つがあります。

①登記費用がかかる

支店を設置するためには、登記が必要です。本店と支店の所在地が同じ法務局の管轄の場合は、本店の所在地の法務局で登記を行います。本店と支店の所在地が異なる法務局の管轄の場合は、本店の所在地と支店の所在地の両方の法務局で登記する必要があります。

 

本店の所在地の法務局で登記では6万円程度、支店の所在地の法務局で登記は9,000円程度の登録免許税や登記手数料が必要となります。司法書士などに登記を依頼する場合は、さらに、司法書士への報酬も発生するため、登記には合計で十数万円程度の費用がかかるデメリットがあります。

②社会保険や労働保険などの手続きが必要

社会保険や労働保険は、原則、事業所単位で手続きをする必要があります。支店も事業所とみなされるため、支店を設置した場合は、本店、支店それぞれで社会保険や労働保険の手続きをする必要がでてきます。

 

ただし、事業の種類が同じであったり、厚生労働大臣から一括適用事業所の承認を受けた場合など一定の条件を満たした場合は、本社で一括して手続きを行うことも可能です。

③税金関係

支店を設置した場合は、支店がない場合に比べて税金の計算が複雑になることがあります。

法人が支店を設置したらかかる税金とは

均等割と所得割に注意しよう

本社の所在地と異なる自治体に支店を設置した場合には、法人地方税の計算に注意を払う必要があります。

 

法人道府県民税や法人市町村民税には、その自治体に法人が存在することに対する、均等割という税金と、所得に応じて税額が決まる所得割(法人税割)の2つがあります。本社と支店が同じ都道府県や市町村にある場合には問題ありませんが、違う都道府県や市町村にある場合には、それぞれの自治体に均等割を支払う必要がでてきます。また、所得割(法人税割)についても、各自治体に分割して支払う必要があります。

 

本社の所在地と異なる自治体に支店を設置した場合の均等割や所得割(法人税割)は、従業員数などに応じて計算を行うため、毎月末日の本社、支店の従業員数の管理を徹底する必要があります。

償却資産税と源泉所得税にも注意

償却資産税と源泉所得税の概要と、支店がある場合とない場合の違いなどを記載する

 

支店を設置した場合、法人住民税以外に償却資産税と源泉所得税に注意する必要があります。

 

償却資産税とは、所有している固定資産などに課される税金のことです。本社で所有している資産は本社に、支店で所有している資産は支店に償却資産税が課されます。償却資産税はその所在地の市区町村に納付する税金です。そのため、本社、支店それぞれで所有している固定資産を管理する必要があります。

 

源泉所得税は、従業員の給料に対する税金です。法人が毎月の給料から天引きし、後日、税務署に納付します。給与の計算を本社で一括して計算している場合は、本社が手続きを行いますが、支店で行っている場合は、支店が支店で働く従業員の源泉所得税を毎月の給料から天引きし、後日、税務署に納付する必要があります。

【関連記事】:「本支店会計」とは何か?支店や営業所がある場合の経理処理について解説

まとめ

法人が支店を設置した場合には、支店に権限を委任できたり、その地域の公共事業に入札できたりするなど、法人の事業を成長するための多くのメリットがあります。しかし、登記費用がかかったり、税金などの手続きなどが複雑になるなどのデメリットもあります。

支店の設置を考えている場合には、そのメリット、デメリットをよく理解して決める必要があるでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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