個人事業主は在庫に注意!在庫の数で税金が変わる

[取材/文責]長谷川よう

日々の仕事の中で売上や経費、キャッシュのことを気にしている個人事業主は多いでしょう。また、毎月の利益等も把握したいはずです。しかし、個人事業主にとって売上や経費、キャッシュと同じように、重要なのが在庫です。在庫の数で税金の金額まで変わります。ここでは、在庫と税金の関係について解説します。

なぜ個人事業主にとって在庫の数を把握することは重要か?

まず、在庫とはどのようなものかを確認しましょう。実は在庫には「商品」と「消耗品」の2種類があります。在庫となる「商品」は販売用に仕入れて売れ残っている商品のほかに、製造して販売できる状態の製品や、製造途中の半製品や仕掛品、材料なども含まれます。

 

在庫となる「消耗品」は販売用ではなく自社が使うもので、購入したが使いきれていないものです。文房具やテープ、段ボール、ガソリンなどが該当します。原則、月末や年末などにどちらも在庫の数を把握しておく(棚卸する)必要があります。ただし、毎年だいたい同じぐらいの数が残る消耗品については、棚卸を省略しても良いこととなっています。

期末の在庫は、利益や税金に影響する

売上や仕入、経費だけでなく、期末の在庫も利益や税金に影響します。どのように影響するのかを見ていきましょう。

 

例えば、1万円の商品を現金で10個仕入れ、そのうち5個を1つあたり1万5,000円で現金で販売したとします。販売した5個は1つあたり5,000円の利益が出ています。全体の利益は5,000円×5個=2万5,000円です。

 

ではこの取引を帳簿に記入したらどうなるでしょうか。

 

仕入時の仕訳
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
仕入高 100,000円 現金 100,000円 商品仕入れ
売上時の仕訳
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
現金 75,000円 売上高 75,000円 商品売上

 

仕入時と売上時は上記の仕訳になります。しかし、このままだと本来は2万5,000円の利益が出ているのにもかかわらず、売上高7万5,000円、仕入高10万円で逆に2万5,000円の損失がでている状態になります。そこで、この差を調整するのが棚卸の処理です。仕入高10万円の中には在庫分(5個×1万円=5万円)が含まれているため、その在庫分の金額を仕入高からマイナスします。

 

仕入高10万円-期末在庫5万円=売上原価5万円

売上高7万5,000円-売上原価5万円=利益2万5,000円

 

これで本来の利益と帳面上の利益が一致します。

 

※2年目以降は、前年度末の棚卸金額を仕入高にプラスし、そこから期末の在庫分をマイナスすることで売上原価を求めます。

 

このように期末の在庫がいくら残っているのかで、売上原価が変わり、利益も変わります。それがひいては税金の額にも影響を与えます。逆にいうと、期末の在庫の数を操作することで、融資のために利益を大きくしたり、税金を安くするために利益を小さくしたりするような操作が可能です。ただし、融資は、利益よりもキャッシュフローや事業計画が重要視されますし、類似業種に比べて利益率等がおかしければ、税務調査の対象になる可能性があるため、意味がありません。

在庫の金額はどうやって評価する?

個人事業主は原則、最終仕入原価法で評価する

事業を営んでいると、同じ商品を年に何度も購入することが多くあります。毎回、商品単価が同じであれば問題ありませんが、商品単価が購入のたびに異なる場合は、在庫商品の単価をどう計算するかで在庫の金額が異なります。

 

そこで、所得税では棚卸商品の原則の評価方法を定めています。それが「最終仕入原価法」です。最終仕入原価法とは、最も期末に近い仕入れ時の商品単価を使って、棚卸の計算をする方法です。具体例を挙げて確認しましょう。

 

4月10日  商品仕入 10個×1,000円=10,000円
10月10日  商品仕入 10個×1,100円=11,000円
12月10日  商品売上 12個×2,000円=24,000円

 

この場合、合計20個仕入れて、12個売り上げたので、年末の在庫数は8個です。最終仕入原価法は、最も期末に近い仕入れ時の商品単価を使って棚卸の計算をするため、10月10日の単価1,100円を使って棚卸の計算をします。

 

棚卸の金額は、8個×1,100円=8,800円です。

では、最終仕入原価法を使って、利益を求めてみましょう。

 

売上原価=仕入高(10,000円+11,000円)-期末在庫8,800円=12,200円

利益=売上24,000円-売上原価12,200円=11,800円

在庫の評価で、低価法を使えば税金が安くなる

棚卸商品の原則の評価方法は、最終仕入原価法でした。ただし、あらかじめ税務署に申請書を出すことで、別の評価方法を採用することが可能です。その際、いちばん節税になるのが「低価法」です。低価法とは、仕入単価と年末の時価のどちらか低い価格を使って、棚卸の計算をする方法です。

 

例えば、「最終仕入原価法」の例示で、年末の時価が900円だったとします。この場合は仕入単価よりも年末の時価が低いため、900円を使って計算します。棚卸の金額は、8個×900円=7,200円です。

 

低価法を使って、利益を求めてみましょう。

 

売上原価=仕入高(10,000円+11,000円)-期末在庫7,200円=13,800円

利益=売上24,000円-売上原価13,800円=10,200円

 

低価法を使ったほうが、最終仕入原価法による計算よりも利益が低いことがわかります。そのため、税金も安くなります。
※低価法は、青色申告のみ認められます。

確定申告では、棚卸表の保存が必要

青色申告の場合、棚卸表は7年保存が必要

利益や税金を計算するためには、商品の棚卸金額を求めることが重要です。それとともに、棚卸商品の明細が記載された棚卸表を作成し、青色申告では7年間、白色申告でも5年間保存する必要があります。実は、確定申告では棚卸表の他にも、売掛帳や買掛帳などの帳簿書類を保存する義務があります。青色申告、白色申告別の保存が必要な帳簿書類は以下のとおりです。

青色申告
保存が必要なもの 保存期間
帳簿 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など 7年
書類 決算関係書類 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など 7年
現金預金取引等関係書類 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など 7年(※)
その他の書類 取引に関して作成し、又は受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) 5年

※前々年分所得が300万円以下の方は、5年

白色申告
保存が必要なもの 保存期間
帳簿 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) 7年
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) 5年
書類 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 5年
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_2.htm

 

これらの書類を確定申告と一緒に税務署に提出する必要はありませんが、決められた保存期間の間、保存しておき、税務調査などで求められたときは、提示する必要があります。

棚卸表の作り方、その作成手順を紹介

保存書類の1つ、棚卸表の作成について見ていきましょう。一般的に棚卸表には以下のことを記載します。

 

①種別

商品や製品、半製品などの種別を記載します。

②品名

商品名等を記載します。

③数量・単価

数量は年末の棚卸数量を、単価は最終仕入原価法などで計算した単価を記載します。

④金額

③の数量×単価で計算した金額を記載します。

 

上記4つの項目が記載されていれば、様式はどのようなものでも構いません。

一般的には、以下のようなものです。

 

 

棚 卸 表(平成29年12月31日現在)
種別 品名 数量 単価 金額 備考
商品 商品A 8 1,100 8,800
 ″ 商品B 100 1,000 100,000
 ″ 商品C 200 400 80,000
 ″ 商品D 50 800 40,000
 …  …  …

まとめ

年末の在庫は、利益だけでなく税金にも影響を与える大事なものです。そのため、どのようなものを在庫として把握しなければならないのか、また、その評価方法や棚卸表の保存など、棚卸には多くの規定があります。この記事では、一般的な棚卸の評価から棚卸表まで解説しています。棚卸で分からないことがあったら、ぜひ参考にしてください。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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