個人事業主で外注費の支払いがあるときの税金と注意点について
個人に仕事を依頼した対価として、外注費を支払っている個人事業主も少なくないでしょう。実は個人に支払いを行う場合は、外注費を支払って終わりではなく税金の徴収をしなければならない場合があるなど、注意するべきことが多くあります。今回は個人事業主が外注費を支払った場合の税金や注意点を解説します。
外注費と給与の違いとは
外注費と給与の違いは何?
個人の仕事の対価としての支払いには、外注費と給与の2つがあります。その支払いが給与になるか外注費になるかで支払側が行う処理が異なります。そのため、どちらに該当するかを判断する必要があります。まずは、外注費と給与の違いについて見ていきましょう。
①外注費
外注費とは、請負契約もしくはそれに準ずる契約に基づいて行われた業務に対する対価のことです。ポイントは雇用契約ではなく請負契約であることです。
②給与
給与とは、雇用契約もしくはそれに準ずる契約に基づいて行われた業務に対する対価のことです。ポイントは請負契約ではなく雇用契約であることです。
上記の説明を見ると、雇用契約と請負契約の部分を除いて同じです。実務上も、その支払いがどちらに該当するかを判断することは簡単ではありません。
外注費と給与の判断基準
外注費と給与は、それが雇用契約によるものか、請負契約によるものかで決まります。しかし、それは書面上の判断ではなく、実際どうなのかで判断されます。
国税庁では次の5つを判断基準の目安として公表しています。
①他人が代替して業務を遂行することまたは、役務を提供することができるかどうか
その仕事を他の業者等が代わりにできるものである場合は外注費になります。その仕事を他人が代わりにできない場合は、仕事の発注者と受注者には雇用者と従業員と同じような結びつきの強さがあると考え給与と判断されます。
②報酬の支払者から時間的な拘束をうけるかどうか
時間的な拘束とは作業時間を指定されたり、労働時間により報酬が決まったりすることをいいます。外注費の場合は請負契約のため、その業務に対して報酬が支払われます。一方、時給や日給など労働時間により報酬が決まる場合は給与となります。
③事業者の指揮監督命令を受けるかどうか
原則、請負契約の場合、仕事をするうえの業務の進行や手順については、請負側で自由に決めることができます。そのため、事業者の指揮監督命令を受ける場合(業務の性質上、当然に存在する指揮監督は除きます)は雇用契約とみなされ、給与と判断されます。
④引き渡しが済んでいない完成品が不可抗力などで、滅失した場合に報酬を請求できるかどうか
請負契約の場合は、仕事が完了し完成品や成果物を引き渡した時点で報酬が支払われます。そのため、引き渡しが済んでいない完成品が滅失した場合に報酬を請求できない場合は、外注費になります。逆に報酬を請求できる場合は、労働時間により報酬が決まると考え、給与になります。
⑤自分で材料または用具等を用意するかどうか
請負契約の場合は通常、自分で仕事の材料や用具等を用意します。また、雇用契約にある従業員は会社の材料や用具等を使います。
まとめると以下のようになります。
判断基準 | 外注費 | 給与 |
---|---|---|
契約 | 請負契約 | 雇用契約 |
他人の代替 | できる | できない |
時間的な拘束 | 受けない | 受ける |
報酬 | 契約に基づき仕事の完了による報酬 | 時給や日給、月給など
労働時間による報酬 |
指揮監督命令 | 受けない
(業務の性質上当然に存在する |
受ける |
不可抗力のための 完成品等の滅失 による報酬の請求 |
できない | できる |
材料又は用具等の用意 | 自分で行う | 会社が行う |
請求の必要 | あり | なし |
上記の目安をもとに、外注費か給与かを総合的に判断します。また、これ以外にも、仕事を請け負う側が金額を計算して請求しているかなど別の判断基準もあるため、形式的に当てはめて判断するのではなく実情で判断します。
個人事業主の支払いが外注費である場合の税金
支払いが外注費である場合の影響点
では、支払いが外注費である場合の影響点を見ていきましょう。
①社会保険料
外注費が給与と違う点は、雇用契約がないことです。そのため、雇用契約がある場合に必要な手続きは不要です。代表的なものは、社会保険料です。
個人事業主の場合は、5人以上の従業員がいる場合に社会保険料に加入する必要があります。社会保険料は半分を事業主が負担する必要があるため、外注費の場合は経費の削減になります。
②消費税
国に納める消費税は、売上先より預かった消費税から、仕入れ先等に支払った消費税を差し引いて計算します。外注費は消費税の経費(仕入税額控除)になるため消費税の節税となります。
支払いが外注費でも、源泉徴収が必要な場合がある
支払いが外注費の場合は雇用契約がある場合に必要な手続きは不要なため、基本的に所得税の源泉徴収は必要ありません。ただし、個人への支払いの場合は、相手の業種等によっては所得税を徴収する必要があります。
源泉徴収される仕事は、ライター(原稿料)や講演料、コンパニオン、モデル、外交員などです。これらの仕事を外注する場合は、報酬金額から源泉税を差し引いた金額を相手に支払います。源泉徴収した外注費がある場合、1年間の支払金額によってはマイナンバーが記載された支払調書を税務署に提出する必要があるため注意が必要です。
※支払調書を税務署に提出する必要がない場合は、マイナンバーを管理する必要はありません。
個人事業主の支払いが給与の場合の税金
支払いが給与の場合の影響点
次に、支払いが給与である場合の影響点を見ていきましょう。支払いが給与である場合の影響点も社会保険料と消費税です。
①社会保険
支払側と請負側が雇用契約にある場合は、社会保険料の対象となる可能性があります。5人以上の従業員がいる個人事業の場合は、社会保険に加入する義務があります。社会保険料の半分を負担する金銭面の負担だけでなく、社会保険の各種手続きを毎年行う必要があり、そのための労力や時間もかかります。
②消費税
給与は消費税の経費になりません。そのため、外注費に比べると消費税の節税効果はありません。
消費税に関して注意が必要なのが、給与なのに外注費と処理してしまった場合です。
外注費で処理した場合は消費税の経費となっているため、消費税の納税額が過少となっています。税務調査で指摘を受けた場合は、国に過少納付となっている消費税を複数年まとめて支払う必要があるだけでなく、本来給与で処理していれば、支払う必要のなかった延滞税や加算税も支払う必要があります。また、資金繰りにも大きく影響する可能性もあります。
支払いが給与なら、源泉徴収が必要
支払先と雇用関係にあれば、相手は事業所得として確定申告をする必要がありません。そのため、支払いが給与の場合は、毎月の支払から所得税を源泉徴収する必要があります。また、年末には従業員と同じように年末調整を行います。
給与の場合、年末に発行するのは支払調書ではなく、源泉徴収票になります。また、マイナンバーの管理なども行う必要があるため外注費の場合よりも労力がかかります。
まとめ
個人に支払う報酬には、外注費と給与の2つがあります。その支払いがどちらになるかで、税金や手続きなどが大きく異なります。そのため、支払いが外注費と給与のどちらになるかを自分で判断する可能性があります。この判断を間違えると、受ける影響は大きなものになります。まずはこの記事を参考にしていただき、個々の状況で不明な場合は、必ず税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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