「負債」と「債務」はどう違う?会計用語をやさしく解説!
国語辞典では、負債とは「ほかから借りているお金」と出てきます。そして、債務とは「借りている金銭や物品などを返さなければいけない法律上の義務」とあります。これらは明らかに違います。しかし、一般の会話で負債と債務を使い分けていないケースも多々あります。ここでは、会計上の「負債と債務」の違いを説明します。
負債と債務-どう違うのか?-
同じように使う2つの用語
負債と債務、仕事上の会話の中では同じように使用している場合も多いでしょう。多重負債、多重債務など、お金を払わなければならない状態を、債務を負っているとも、負債を抱えているともいいます。
このように、同じ意味で使われることも多い債務と負債ですが、会計上では負債は債務よりも範囲が広く、債務以外に、期間損益計算の観点から負債として表示されるものもあります。
「負債」は会計用語としては、会社が第三者に対して負う経済的負担を指します。一方、「債務」とは法律用語で、対義語は「債権」です。債務とは相手に一定の行動をしなければならないという義務をさします。
ここでは社会全体で使用されている「負債や債務」ではなく、会計上の「負債と債務」について、代表的な例をもとに解説します。
貸借対照表に表示される負債とは?
結論からいいますと、会計実務をこなす上では、負債の方が債務より範囲が広い考え方です。
下図は簡単な貸借対照表ですが、負債(黄)と債務(赤)に違いがあることがわかります。貸借対照表上では、「負債」はタイトルや合計部分に表示されていますが、「債務」はその前に債務の内容を説明する用語がついています。会計上、負債は貸借対照表の貸方に表示され、支払期限の長さによって流動負債と固定負債に分けられます。期限については、資産同様、ワン・イヤー・ルールに従います。
実は、負債の部に表示される科目はどれも債務ではなく、「会計上の負債」と呼ばれるものがあります。会計上の負債とは、借入金のようなものだけではなく、前受収益などのような経過勘定や未払費用なども含まれます。企業会計原則とは、企業が従うべきわが国の会計基準の一つであり、会計のよりどころですが「負債」の考え方について直接記載しているものではありません。
企業会計原則の貸借対照表原則、四、負債において「支払手形、買掛金その他流動負債に属する債務は、取引先との通常の商取引上の債務とその他の債務とに区別して表示しなければならない。」とし、支払手形や買掛金は債務であることを明示しています。さらに、「引当金のうち、退職給与引当金、特別修繕引当金のように、通常一年をこえて使用される見込のものは、固定負債に属するものとする。」とし、これらの引当金についても負債に属するとしています。
このように、企業会計原則における貸借対照表の表示内容から、負債の方が債務より範囲が広いことがうかがえます。
1つの考え方として、上記の貸借対照表の負債の部から勘定科目を書きだしてみますと、次のとおりに分類できます。
- 確定債務:支払手形、買掛金、リース債務、長期借入金
- 条件付債務:退職給付引当金
- 経過勘定:前受収益
- その他:資産除去債務
確定債務とは、支払期日、支払先、支払額がすべて確定しているものであり、それらのどれかが確定していないと条件付債務となります。経過勘定とは、期間損益計算をするために負債の部に計上された勘定科目といえます。
また、資産除去債務については条件付債務とも言えますが、ここではその他に分類して説明します。
具体的な債務から見るその性格とは?
債務の例1-支払手形、買掛金、借入金など確定債務の場合
ここで具体的な債務の例を見ていきます。
支払手形、買掛金、未払金、預り金などは、契約に基づき、注文した物品やサービスを実際に受けているものです。契約における書面は必ずしも必要とせず、口頭でも債務は成立します。
債務確定主義とは、取引において費用の発生が確定した時点で計上を行うという会計上のルールです。法人税法においては、恣意性の排除や課税の公平性の観点から、主として減価償却費以外の費用項目以外については債務確定主義を採用しています。
ここに挙げた支払手形、買掛金、借入金などは確定債務の代表的な例です。
債務の例2-資産除去債務の場合
環境債務とは、企業の活動によって環境に対して何らかの影響を及ぼしているか、あるいは将来及ぼしそうな費用をいいます。代表的な例は、資産除去債務です。
地球温暖化をはじめとする環境問題がクローズアップされる現在、企業が周辺環境に与える影響が重要視され、企業が将来において汚染物質や廃棄物を処理するために、現時点で想定できる将来の費用負担を予め見積もっておくのが「資産除去債務」です。
例えば、将来、建物を取り壊す際にアスベストを除去する費用が200万円かかるのであれば、現時点でその額に見合うだけの債務を計上するということです。企業会計原則とともに日本の会計基準となっているのは「企業会計基準」の中に「資産除去債務に関する会計基準」というものがあります。その中で、資産除去債務の定義として次のように述べています。
「有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」
法律や契約で資産を原状回復することとなっている債務について「法律上の義務」という非常に強い表現がされています。義務とは、その実施が強制され、最終的には裁判等で国家権力をもって強制執行できるという強い拘束力をもったものです。したがって、資産除去債務は第三者に対する将来果たすべき義務と言ってよいでしょう。
しかしながら、負債として計上する金額は将来の除去費用の「現在価値」であり、計上時期によって金額が変動します。将来の義務ではありますが、確定的な期日や支払先は確定していません。また、法人税は債務確定主義を採用しているため、資産除去債務は税務上認められません。
債務の例3-引当金の場合
企業会計原則注解18では、引当金が計上できる場合として4つの要件を挙げています。
- 将来の特定の費用又は損失
- その発生が当期以前の事象に起因し
- 発生の可能性が高く
- その金額を合理的に見積ることができる場合 において
当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとするとしています。
例えば、退職給付引当金は「債務」という用語が含まれていませんが、「企業会計基準」の「退職給付に関する会計基準」の定義には、次のような定義があります。
「退職給付債務」とは、退職給付のうち認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの
定義には「義務」という言葉は出てきませんが、退職給付引当金は退職給付債務の一部として会社内に引き当てるものであり、将来、従業員が退職する際に支払う義務がありますので債務の一例といえます。このような引当金を債務性引当金と呼びます。
法人税では、退職給付の発生についての費用を認めず、費用としての退職給付引当金繰入額は損金不算入とされます。退職者に支給して初めて損金とされます。外部への支払いがある企業年金掛金については損金算入が認められています。しかし、引当金のなかでも「貸倒引当金」のように資産の部にマイナス表示される引当金があります。
貸倒引当金は、債権のうち回収不能と見込まれる金額を当期の損失として計上した際に生じる引当金です。貸倒引当金は、貸借対照表の資産の部に計上される売掛金などから控除する形式で表示されます。負債の部に計上されない貸倒引当金は債務ではありません。
債務でない例-会計上の負債
会計においては、将来の支払義務のある債務以外に「会計上の負債」と呼ばれるものがあります。期間損益計算をするために生まれた、債務ではない「会計上の負債」は、具体的には未払費用、前受収益などの経過勘定や賞与引当金などです。
例えば、前受収益とは、受取利息のうち当期中にまだ期限が到来していないものや、受け取った手数料で当期中に役務を提供していないものなどです。先にお金を受け取っているため、支払義務はありませんが、受け取った代金に対応するサービスを提供しなければなりません。
負債の部に計上されるものの債務性のないものとしては、仮受金など金額が未確定の勘定科目もあります。
まとめ
損益計算書に一般管理費として計上されている費用であっても、その費用が未払金などの法的債務か未払費用なのかはわかりませんが、貸借対照表をみると負債項目の構成がわかります。会計処理をする際の勘定科目は慣例によってだいたい決まっている場合が多いですが、決算時の貸借対照表作成時などに負債と債務について考えてみるのもいいかもしれません。
▼参考URL
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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