仕事中のケガ!労働者なら労災だけどフリーランスはどうなる?

[取材/文責]矢萩あき
覺正税務・法律事務所代表 覺正豊和(税理士)

会社に勤めている労働者であれば仕事中のケガは労災として取り扱われ、病院で治療を受けた際の支払いや仕事を休む場合の補償など、手厚くカバーされます。個人事業主として一人で仕事をしているフリーランスが仕事中にケガした場合は、どのようになるのでしょうか?労災と比較して解説します。

フリーランスの仕事中のケガはどう扱われる?

病院にかかったら全額自己負担は間違い!国民健康保険を使ってOK

労働者の仕事中のケガは労災保険による給付を受けることができます。病院で治療を受けた場合でも全額について労災保険から支払いが行われるので、労働者の負担はありません。労災以外のケガや病気で健康保険を使って病院にかかると、窓口で自己負担金を支払う必要があります。3割の自己負担金があるかないかが、労災かどうかの大きな違いとなります。

労災保険と健康保険はどちらかしか使うことはできず、労災保険は健康保険より優先して適用されるので、労災保険が適用となるケガで病院にかかった場合の支払いでは、健康保険を使うことはできません。「労働者の仕事中のケガには健康保険が使えない」ことになりますが、フリーランスは自身の加入する国民健康保険を使うことができます。フリーランスは仕事中にケガをしても労災ではないからで、国民健康保険を使ってで治療を受けることができます。

働けなくて収入ゼロ!労働者には休業補償があるけれどフリーランスは?

労働者が仕事中にケガをして仕事ができずに休まなければならない期間は、労災保険から休業給付を受けることができます。労災保険の休業給付は休業中の収入を補償する制度です。休んでいても給料の8割程度の金額が支給される仕組みで、労働者は生活の心配をすることなく安心してケガの治療に専念できます。

フリーランスには労災保険のような保険制度はないので、休業して収入を得ることができないことについて補償を受けることはできません。仕事中にやむを得ずにケガをしたとしても、無収入になってしまいます。

基本をおさらい!労災の意味と役割

労災の対象となるのは労働者で、フリーランスは含まれない

仕事中のケガは労災として扱われ、労災保険によって必要な補償を受けることができます。労災保険は労働者災害補償保険の略で、労働者が働くことによって引き起こされるケガや病気、障害、死亡について補償を行う保険制度です。パートやアルバイトといった雇用形態、短時間や短期間といった労働時間や勤務期間の長さなどに関係なく、雇用されるすべての労働者が労災保険の対象となります。

労災保険の加入手続きや保険料支払いは事業者が行いますが、対象となるのは労働者のみに限られます。

事業主は労働者ではないので労災保険による補償を受けることはできず、また一人で働くフリーランスも労災保険に加入したり補償を受けたりすることはできません。

覺正税務・法律事務所代表 覺正豊和(税理士)

一人で働いていても労災を受けることができる特別加入とは?

労災の対象とならない事業主やフリーランスであっても、労災保険の給付を受けることができるようになる制度が特別加入です。中小企業事業主や一人親方、海外赴任者を対象にした制度で、所定の条件を満たすことによって労災保険の給付の支給対象になることができます。

一人親方として労災保険に特別加入することができるのは

  • 個人タクシーや個人貨物運送など、自動車を利用しての運送業
  • 大工や左官、とび職人など、土木業や建築業、解体業など
  • 漁師など、水産物採捕業
  • 林業
  • 配置薬業
  • リサイクル業
  • 船員

の仕事に従事している人です。

労働者が仕事中のケガで受けることができる給付とは?

病院にかかる費用は労災の療養給付の対象になる

労働者が仕事中のケガについて病院で治療を受けた場合の支払いは、全額が労災保険の療養補償給付の対象になります。ケガをした労働者は自己負担をすることなく、治療を受けることができます。健康保険を使った場合は自己負担金として治療費の3割を支払わなければなりませんが、労災でのケガの場合は支払う必要はありません。

治療を受けた病院が労災保険指定医療機関である場合は、必要書類を医療機関に提出することでそのまま自己負担金なしで治療を受けることができます。「療養補償給付たる療養の給付請求書」を提出することで、病院はケガの治療にかかった費用全額を労災保険に直接請求します。

労災保険指定医療機関でない病院でケガの治療を受けた場合は病院の窓口でいったん支払いをし、あとで労災保険から還付される方法で療養給付を受けます。管轄する労働基準法に「療養給付たる療養給付の請求書」を提出すると、支払った治療費の全額の支払いを受けることができます。

覺正税務・法律事務所代表 覺正豊和(税理士)

働けない期間は休業補償を受けることができる

仕事中のケガで働けない期間について、労災保険から休業給付を受けることができます。休業給付の金額労働者が通常支払われる賃金をもとに算定される給付基礎日額の60%です。さらに給付基礎日額の20%の特別支給金が上乗せされて支給されるため、合計で給付基礎日額の80%が仕事中のケガで労災保険から受け取ることができます。

ただし休業給付が支給されるのは仕事を休んでから4日目からになります。3日間は待機期間となり、休業給付を受けることはできません。待機期間の3日間は労災保険ではなく、会社から補償を受けることになります。

フリーランスが仕事中にケガしたときの対応方法

病院への支払いは国民健康保険でOK

病気やケガのとき、一人で働いているフリーランスも会社に勤めている労働者と同じように自己負担金3割で治療を受けることができます。労働者は健康保険に加入しているのに対して、フリーランスは国民健康保険に加入しています。健康保険は労働者とその家族、国民健康保険は個人事業主やフリーランスを対象にした公的医療保険です。公的医療保険には他に共済保険、船員保険、退職者医療保険、後期高齢者医療保険などがあります。

一人で働くフリーランスが加入する国民健康保険は、仕事中のケガでも他の病気やケガのときと変わらずに使うことができます。労働者が仕事中のケガに健康保険を使うことができないのに対して、フリーランスは仕事中のケガも国民健康保険を使って治療を受けることになります。

労働者が加入する健康保険は、仕事中のケガに対しては使うことができません。仕事中のケガは労災保険から給付を受けることができ、労災保険の給付は健康保険の給付よりも優先されるからです。

労働者の仕事中のケガは労災として取り扱われて健康保険が使えないことから「仕事中のケガは保険証は使えない」と勘違いされがちですが、フリーランスが仕事中にケガした場合は国民健康保険を使って治療を受けることができます。

覺正税務・法律事務所代表 覺正豊和(税理士)

働けないと無収入になるので要注意!

フリーランスは仕事中のケガが原因で働くことができない場合でも、労災保険の休業給付のような補償を受けることはできません。仕事ができない期間は無収入になってしまうことになるので、注意が必要です。仕事中のケガに対応できるように、きちんとした備えをしておくことが大切です。

フリーランスが仕事中にケガをして働けなくなった場合の対策としては、民間保険会社が取り扱う就業不能保険などへの加入があります。

記事監修者 覺正税理士からのワンポイントアドバイス

一人で働いているフリーランスには労働者の労災のような保険制度はなく、仕事中にケガをしても手厚いカバーを受けることはできません。医療費には国民健康保険が使えるものの、働けなく無収入になってしまったときに対しては備えをしておく必要があります。

複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。

覺正税務・法律事務所代表 覺正豊和(税理士)

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