PCR検査は、「医療費控除」の対象か?ED治療薬や禁煙治療は?その“境界線”を徹底解説
1年間に支払った医療費が10万円を超えた場合には、確定申告を行えば、所得税の「医療費控除」を受けることができます。納め過ぎた税金を返してもらえるわけですが、そもそも、この「医療費」が具体的にどういうものを指すのか、みなさんは正確に理解していらっしゃるでしょうか? 実は、病院での治療や処方薬以外にも、けっこう広く適用されるのです。今回は、「税制上の医療費」について解説します。
所得税の医療費控除とは?
最初に医療費控除について、簡単に説明しておきましょう。ひとことで言えば、本人や家族の1年間(1月1日~12月31日)の医療費の負担額が大きかったときには、最高200万円までその税負担を軽減する、という制度です。
計算のベースになるのは、実際に払った医療費の合計額から、生命保険契約で支給される入院費給付金や、健康保険支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などを引いた金額です。これが10万円を超えた場合(※)には、超えた金額が所得控除される(税率を掛ける所得から差し引かれる)のです。
例えば、保険などで補填された金額を除いた医療費が30万円だったとすると、30万円-10万円=20万円が控除の対象となり、仮に納税者の所得税率が20%ならば、20万円×20%=4万円が戻ってくることになります。
ただし、この医療費控除を受けるためには、サラリーマンでも確定申告を行う必要があります。覚えておきたいのは、このように納め過ぎた税金を返してもらう「還付申告」は、5年間可能だということ。例えば2022年の確定申告は、3月15日までですが、仮にここで21年分の申告を忘れても「期限切れ」にはなりません。
“医療費控除になる・ならない”を分けるもの
本題に話を進めましょう。例えば次のような出費は、控除の対象になるのでしょうか?
- 熱が出たので、市販の風邪薬を購入した
- ED治療薬を処方してもらった
- 腰の治療のためにマッサージを受けた
- 通院のためにバスを使っている
- 入院して食事の提供を受けた
答えは、「原則としてすべてYES」です。「ED薬まで医療費控除ができるの?」と感じられる方も多いのではないでしょうか。大きなポイントは、「その支出が治療に関わっているか否か」なのです。市販薬であっても、風邪薬、鎮痛薬、便秘薬といった治療薬ならばOK。禁煙治療やAGA(男性型脱毛症)治療も「治療」なので、医療費控除ができるのです。
また、診察を受けるための交通費や、入院の際の部屋代、食事代、コルセットなどの医療用器具などの購入代やそのレンタル料などは、「医師等による診療、治療、施術などを受けるために直接必要なもの」として、やはり控除の対象になります。これらのほか、「保健師、看護師など特に依頼した人による療養上の世話の対価」や「助産師による分べんの介助の対価」なども、控除が認められています。
一方、風邪薬などと同じようにドラッグストアで販売されているものでも、「会議に備えてビタミン剤を飲んでおこう」というような、治療ではなく「予防」「健康増進」が目的とみなされるケースは、医療費控除の対象とはなりません。マッサージも、明確な治療目的ではなく、「疲れを癒すため」といった施術には、適用されないのです。
国税庁は、このほか、医療費控除の対象とはならない例として、次のようなものを挙げています。
- 健康診断の費用
- 医師などに対する謝礼金など
- 家族や親類縁者に付添い料名義で支払われたもの
- 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金
詳しくは、国税庁「医療費控除の対象となる医療費」をご覧ください。
新型コロナ対策の出費は、控除できるのか?
では、以上を踏まえた応用問題です。昨年来、長期化する新型コロナウイルス感染症に対応するために、多くの出費を強いられた家庭は少なくないと思います。次のようなものは、医療費控除が認められるのでしょうか?
・感染症予防のためにマスクを購入した
もうおわかりだと思います。マスクや殺菌用アルコールなどは、感染予防が目的ですから、残念ながら医療費控除の対象にはなりません。
・自分が感染していないことを証明するために、PCR検査を受けた
PCR検査も、それ自体は治療が目的ではありませんから、自分の判断で検査を受けた場合には、基本的に医療費控除の適用外です。
ただし、感染が疑われるなどして、医師の判断により受けたPCR検査については、その費用が控除できます(ただし、公費負担を除く自己負担分に限ります)。また、自分の判断で検査を受けた結果、陽性であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査費用は医療費控除の対象になります。
・通院している病院で、感染拡大防止を目的にオンライン診療が始まった。自宅で診療が受けられるだけでなく、処方された医薬品も自宅で受け取れるのだが、その際の
- ①オンライン診療料
- ②オンラインシステム使用料
- ③処方された医薬品の購入費用
- ④処方された医薬品の配送料
の扱いは?
①と③は、治療に関わる費用ですから、医療費控除の対象になるのは明らかでしょう。②もオンライン診療に直接必要な費用に該当するため、控除額に含めることができます。他方、④については、治療に必要な医薬品の購入費用には該当しないため、控除の対象にはならないとされています。
ちなみに、注目されている新型コロナのワクチン接種については、全額が公費負担とされていて、自己負担は生じません。では、通常のインフルエンザワクチンなどを接種した際の費用は、医療費控除の対象になるのでしょうか? ワクチンが、感染症の蔓延を防ぐのに大きな効果を発揮するのは確かですが、それもあくまでも「予防」。控除の対象にはならないのです。
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まとめ
医療費控除の対象が、意外に広いことがおわかりいただけたでしょうか。治療に関わるものは忘れずに合算して、申告するようにしましょう。還付申告は、5年間行うことができます。
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