事業主が負担する保険料も免除!産前産後休業や育児休業期間中の社会保険料

産前産後休業や育児休業等で働いていない期間の社会保険料は、被保険者である労働者が納める分だけでなく、事業主の負担分も免除されます。ただし、産休や育休を取得することにより、自動的に免除となるわけではありません。人事労務担当者は免除制度のしくみをきちんと押さえ、的確に手続きを進めることが重要です。

保険料免除を受けるためには事業主からの申出が必要!

産前産後休業と育児休業期間中の保険料免除

健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は被保険者(労働者)と事業主が保険料を半分ずつ負担(折半)し、事業主が納付するしくみとなっています。しかし、産前産後休業中や育児休業等の期間は事業主が年金事務所や健康保険組合(保険組合がある場合)に申し出ることによって被保険者と事業主双方の保険料が免除となります。

免除となる保険料の目安

社会保険のうち介護保険は労働者が40歳になると加入義務が生じ、健康保険と同様、労働者と事業主が折半で保険料を負担します。ここでは労働者が「40歳未満」で介護保険料の負担がなく、多くの中小企業が加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険と厚生年金保険の保険料についてみていきましょう。なお、協会けんぽの健康保険は都道府県によって保険料が若干異なるので【東京都】を例に紹介します。

【ケース1】

標準報酬月額:200,000円(報酬月額:195,000~210,000円)、40歳未満

 

健康保険や厚生年金保険の月額保険料は労働者(被保険者)が労務の対象として受ける給与や手当などの「報酬月額」から求めた「標準報酬月額」と呼ばれる等級ごとに決まっています。

  • 健康保険   月額保険料(全額)19,800円、折半額: 9,900円
  • 厚生年金保険 月額保険料(全額)36,600円、折半額:18,300円

 

事業主が月々、負担する保険料(折半額)の合計は、28,200円です。そのため、仮に産前産後休業と育児休業で13ヶ月の保険料を免除されたとすれば、36万円超のコスト削減が期待できます。さらに、標準報酬月額の高い労働者であれば、以下のように保険料免除によるメリットは一層、大きくなります。

【ケース2】

標準報酬月額:260,000円(報酬月額:250,000~270,000円)、40歳未満

 

  • 健康保険   月額保険料(全額)25,740円、折半額:12,870円
  • 厚生年金保険 月額保険料(全額)47,580円、折半額:23,790円
  • 月額保険料の事業主負担分(折半額の合計)  36,660円

 

今回は月々の保険料額のみを紹介しましたが、免除を申し出ると賞与にかかる保険料も免除されます。

*出典元
協会けんぽ:平成30年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表【東京都】
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h30/ippan4gatu_2/h30413tokyo_02.pdf

保険料免除による年金額への影響

休業中の労働者にとって、保険料の免除は経済的な負担を軽減してくれるうれしい制度といえるでしょう。ところが、保険料を納めないと「将来、年金額が減ってしまうのではないか」「健康保険にも何か影響があるのだろうか」と心配する労働者は少なくありません。

 

年金額の計算においては保険料が免除となった期間も「保険料を納めた期間」として扱われ、健康保険についても通常通りの給付を受けられます。年金額への影響などについても正確に説明できるように準備し、出産や育児を理由に休業する労働者の不安感を少しでも軽くしましょう。

産前産後休業期間中における社会保険料の免除

保険料免除の対象

産前産後休業は正規社員に限らず、パートなどの非正規社員も取得できる休業制度です。産前産後休業期間中(原則、産前42日間、産後56日間)のうち、保険料の免除が受けられるのは妊娠や出産を理由として「労務に従事しなかった期間」です。妊娠中すべての期間が免除となるわけではなく、また、出産前の42日間であっても働いていた場合は免除の対象とはなりませんので注意してください。

保険料免除に必要な手続き

事業主は、産前産後休業期間中に「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構(事務センター、または年金事務所)に提出して申出を行います。自社に健康保険組合がある場合は、保険組合のルールに従って手続きをしてください。

 

なお、申出書を出産前に提出し、出産予定日と異なる日に出産した場合は、出産後に「産前産後休業取得者変更(終了)届」の提出が必要となります。

育児休業が3歳まで取得可能なら免除期間も延長可能

保険料免除の対象

育児・介護休業法により定められた「3歳未満の子」を養育するための育児休業等の期間については健康保険や介護保険料、厚生年金保険の保険料が免除されます。育児休業の期間は原則、子どもが1歳になるまでです。しかし、育児休業の制度に準じる措置として3歳になるまで育児休業が可能であれば、保険料も3歳まで免除となります。

保険料免除に必要な手続き

育児休業期間中の手続きも、基本的には産前産後休業の手続きと同様です。事業主が育児休業期間中に「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構(事務センター、または年金事務所)に提出してください。

 

ただし、育児休業を終了予定日より前に終了した場合は「育児休業等取得者終了届」の提出が必要です。

円滑な手続きのためには提出先にも注意

社会保険料に関する手続きは健康保険と厚生年金保険の二つを同時に行えるというメリットがあります。ところが、提出先を間違えるケースも少なくありません。

 

提出先は手続きの内容によって協会けんぽか、日本年金機構か、明確に区分されています。

出産に関連した手続きをみても、出産育児一時金や出産手当金の支給申請は協会けんぽなのに対し、産前産後休業や育児休業期間中の保険料免除は日本年金機構に届け出るといった違いです。円滑に手続きを進めるためには提出書類の不備だけでなく、提出先もきちんと確認しましょう。

まとめ

子育て支援に関する制度は時代とともに変化し、産前産後休業や育児休業の取得期間中は社会保険料が免除されることになりました。今後も法律の改正が行われる可能性もあるので人事労務担当者は常に新しい情報を入手し、より適切な対応を心がけましょう。

 

また、休業期間中の労働者にとっては出産手当金や育児休業給付金の支給があるとしても収入減は避けられません。労働者の経済的な不安感、並びに自社の費用負担を軽くするためには人事労務担当者が制度を熟知し、的確に手続きを進めることが重要です。

*参考URL

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner