決算書から分かる倒産の兆候!会社の成長性を数字から読み取ろう

[取材/文責]奥谷佳子

会社は、赤字を出し続けて債務超過となれば倒産します。一方、黒字であっても倒産する可能性はあります。会社が倒産するのは資金繰りに行き詰まるからであり、会社の規模とも関係ありません。しかし、会社版の通知表といわれる決算書には、必ず倒産の兆候が表れています。今回は具体的な数字を見て解説していきます。

そもそも決算書とは何か?

決算書とは何か?を説明する際、よく会社版の「通知表」と表現されますが、一定の期間(一年間)のもうけや財産をまとめることを「決算」といい、まとめた結果を伝えるモノ(書類)が決算書なのです。

 

上記、一定期間の一年間を「事業年度」といい、初日を期首、最終日を期末といいます。これは学校の始業式と終業式のようなイメージです。

 

決算書は、会社が一年間何をして、どれだけの成果をあげて、今どんな様子なのか?を知ることができます。そのため、会社の経営者にとって決算書の内容は最も必要な情報なのは言うまでもありません。

 

また、経営者だけでなく、出資者や債権者、会社と利害関係をもつ銀行や取引先も、この決算書から取引に必要な情報を読み解きます。例えば銀行でしたら、会社がもうけて貸したお金が利息を付けて返してくれればもうかりますが、会社が倒産してしまえば、お金を回収することができなくなり大損をするからです。もっと言うならば、会社で働く従業員も、自社や取引先の決算書は読めた方がいいでしょう。何故なら、業績不振で突然給与が支払われなくなったり、倒産したりする可能性があるからです。

 

ちなみに、決算書は「決算書」という一つの資料ではありません。いくつもの書類を総称して「決算書」(財務諸表)といいます。なかでも、見るべき資料は下記の財務3表と呼ばれるものです。

 

  • 損益計算書(P/L)
  • 貸借対照表(B/S)
  • キャッシュフロー計算書(C/S)

決算書から見える会社のホントの姿

前述した財務3表から会社の何が分かるのか?もう少し詳しくみていきましょう。

 

  • 損益計算書
    損益計算書からは「会社のもうけ」が分かります。売上から利益までの道筋…どの費用が利益を減らしているのか?を知ることができます。損益計算書から見えてくる数字により、どこに改善の余地があるのか?が見えてくるのです。
  • 貸借対照表
    貸借対照表からは「会社の中身」が分かります。損益計算書で分かるのは、いわば目に見える表面上のもうけですが、貸借対照表はそのもうけを生み出す力があるのか?経営の悪化の心配はないか?を知ることができます。
  • キャッシュフロー計算書
    キャッシュフロー計算書からは「実際の現金の出入り」が分かります。そもそも会社の売上というのは、ほとんどが掛売であり、売上は発生主義(※1)に基づいています。発生主義にはタイムラグがあるため、キャッシュフロー計算書からはこのズレがどこに生じているのかが確認できます。これにより、本来の事業からどれだけのお金を得られたか?将来のためにどれだけお金を使っているか?会社がどれだけお金を借りたか?またはどれだけ返済したか?などを知ることができます。

 

※1発生主義
収益や費用をその事象が発生した時点で認識するという考え方です。

倒産する会社と成長する会社

倒産する会社の決算書とは?

経営者含め、決算書を読む人が一番気になるところは「会社に利益が出ているのか?この先倒産する心配はないか?」につきます。

 

そもそも倒産とはどういうことなのでしょうか?赤字を出したからといって、すぐに会社が倒産するわけではありません。しかし、赤字を出し続けると、自己資本である純資産が減っていき、やがてマイナスとなります。マイナスになった状態のことを債務超過(※2)といいますが、実際には多くの会社がその前に破綻します。

 

※2債務超過
会社の資産をすべて売っても負債を返済しきれないこと

破綻する兆候は決算書に必ず潜んでいますので、前述した財務3表から、どのような決算書が倒産する危険があるのかを数字で見ていきましょう。

 

事例1.
以下は2010年1月に会社更生法の適用を申請した日本航空(JAL)の貸借対照表です。

 

(単位:億)

  07年度 08年度 09年度
流動資産合計
現預金
:
固定資産合計
有形固定資産
:
資産合計
8,103
3,550
 
13,105
10,371
 
21,228
4,870
1,637
 
12,626
10,310
 
17,507
4,609
1,544
 
12,199
10,099
 
16,813
流動負債合計
短期有利子負債
 
固定資産合計
長期有利子負債
 
純資産合計
株主資本
6,612
1,614
 
9,905
7,536
 
4,711
4,473
6,499
1,833
 
9,040
6,182
 
1,968
3,840
7,490
3,610
 
7,761
5,600
 
1,562
1,997

 

上記の貸借対照表のなかで注目したいのが流動資産、特に現預金の減少です。

 

07年度から09年度にかけて僅か2年間で2,000億円もの手持ち資金がなくなっています。長期・短期有利子負債の合計額がほぼ横ばいであるにもかかわらず現預金が減少するということは、経営が苦しいことを如実に表しています。

 

次にキャッシュフローの数字をみてみましょう。

(単位:億)

  07年度 08年度 09年度
営業CF合計
減価償却費
:
投資CF合計
固定資産純増減
有価証券純増減
:
財務CF合計
短期借入純増
長期借入
長期債務返済
株式発行
:
1,573
1,166
 
-262
-591
160
 
369
-27
828
-1,926
1,518
 
318
1,180
 
-1,057
-1,221
169
 
-1,668
0
467
-1,600
 
-472
868
 
-756
-865
123
 
1,128
729
1,470
-990
 
 
現金の増減額
現金の末期残高
1,644
3,540
-1,920
1,618
-95
1,523

 

キャッシュフロー計算書を通せば経営が苦しいことがさらに明確となります。表中の「営業CF合計」も貸借対照表の現預金と同様に2年間で2,000億円減少しています。営業CFは通常の営業活動によって増減したキャッシュを表していますから、マイナスになるということはすなわち通常の営業活動自体に問題があった、ということです。

 

事例2.
粉飾決算から読み取る破綻の兆候。以下は2009年11月に東証マザーズに上場したFOI(半導体メーカー)の損益計算書です。

 

(単位:億)

  07年度 08年度
 
売上高
 
営業利益
 
(営業利益率)
 
当期純利益
 
(当期純利益率)
 
95,0
 
18.1
 
19%
 
8,1
 
8%
 
118,6
 
24.7
 
21%
 
5,3
 
4%

 

売上高や営業利益が伸びていますので、損益計算書だけ見れば優良企業のように感じるかもしれません。粉飾決算とは会社の業績を良く見せるために行うものですから、当然目につきやすい売上や利益といった「花形」の数字を盛ろうとします。しかし、無理をすれば必ずどこかに歪みが生じるのが財務3表の特徴です。
貸借対照表をみてみましょう。

 

(単位:億)

08年度
流動資産              288,3
売掛金            229,0
固定資産       3,4
総資産                   91,8
流動負債             121,7
固定負債               32,1
純資産                 138,0
合計                     291,8

 

損益計算書で無理をした歪みが表れています。具体的には「流動資産」のなかの「売掛金」が注目すべきポイントです。売掛金は商品を売ったものの、まだ回収していない代金です。売掛金が総資産の80%、損益計算書に記載してある売上高の約2倍にものぼります。優良企業であれば、売上→売掛金→現預金というサイクルを経て流動資産のなかでも現預金が増加していくのが一般的です。

 

しかし、この企業では「売掛金」のところでサイクルが止まっています。もし仮に正常な売掛債権だったとしてもこれでは資金繰りが厳しくなるのは目に見えていますし、そもそも売掛金自体に真実性があるのかが疑問となります。

 

結果として、FOIでは売上高の水増しによる粉飾決算を行っていました。そのしわ寄せとして表れたのが異常な金額の売掛金だった、ということです。

会社の成長とはどういうこと?

では逆に、倒産せずに成長している会社とはどのような決算書なのでしょうか?

 

会社が成長する(大きくなる)というのは、資産が増えること(=貸借対照表が大きくなること)、利益が大きくなること(=損益計算書で売上と利益が大きくなること)の2つがあげられます。単純に売上さえ伸びればいいというわけではなく、売上と利益のバランス…つまり、利益と資産(資本)のバランスが大事なのです。

 

では、バランスが取れた数字であれば安心か?といったら、決してそうではありません。会社の成長は、数字より「成長の原因」が重要です。どうして伸びることができたのか?という、成長の背景を考えなければいけません。

会社の努力?コロナ禍の影響?成長の理由をさぐる

例えば、コロナ禍の現在は、時短営業や外出制限等で飲食店や旅行会社の売上が落ちる一方、マスクやアルコール消毒の需要が高まり売上を伸ばす小売業もあります。このように、売上や利益の増減の理由が会社の「外」にあることを外部要因といいます。

 

一方コロナ禍においても粗利ミックス(※)を利用して売上を伸ばしたり、無駄な経費を削減したりするなど、会社の「中」に原因があることを内部要因といいます。

 

※「粗利ミックス」は「マージンミックス」とも呼ばれ、利益率が高い商品と低い商品を抱き合わせで販売することにより企業全体における利益率の安定を図る販売方法のことです。

 

同じ利益アップでも外部要因によるものと内部要因によるものとでは大きく違います。自身の会社はどうなのか?コロナ禍の今こそ、会社の成長性は決算書の数字だけではなく、背景まで読み解く必要が重要です。

まとめ

昨今はコロナ禍において経営や事業内容等の変革が求められるようになり、経営者はもちろん、銀行や出資者、働く従業員も、会社はこの先大丈夫なのか?と心配がつきません。だからこそ、会社の現在の状態を知り、将来を予測できる決算書を読み解く力が今以上に必要となってきます。不明な点があれば、早めに専門家に相談してみましょう。

▼参考文献

  • 「会計超入門!知識ゼロでも2時間で決算書が読めるようになる! 改訂版」佐伯良隆 薯/高橋書店

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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