事業とプライベートは分けて考える!「必要経費」の否認額計算
確定申告、特に事業を営む方が申告をする際に悩む項目の一つに「必要経費」があります。
必要経費は多ければ多いほど税金は少なくなりますが、根拠もなく過大に計上することはできません。今回は事業とプライベートが混在するような「必要経費」を合理的に按分し必要経費とする方法について解説します。
確定申告で事業主を悩ませる「必要経費」
事業で認められる「必要経費」とは何か?
まずは事業所得の計算式を簡潔に解説しましょう。
上記のように「必要経費」は収入金額から控除することで所得を減らします。つまり、必要経費が多ければ多いほど所得税は安くなるわけです。
納税は安いに越したことはありませんが、だからといって何でも「必要経費」にするわけにはいきません。計上するためには正当な根拠が必要となります。具体的には「事業に付随して発生する経費」であることが大前提であり、例えば家庭の食費や消耗品、家族旅行や事業外の交遊費などプライベートな支出は必要経費にできません。
個人事業主で起こりうる「事業とプライベートの混在」
「できる限り必要経費として落としたい…」というのが事業主の本音ではありますが、経費の中には事業とプライベートが混在し、明確に区分することが困難なものが数多くあります。
例えば自家用車で営業に回っている場合、営業の帰りに夕食の買い物をしにスーパーへ寄る、といったように、事業で使っている時間とプライベートで使っている時間はどうしても混在しがちです。自宅の一部を事務所としているような場合にも多くの問題があります。例えば電気や水道のメーターを自宅用と事務所用に分けているというケースはごく稀であって、一般的には自宅兼事務所として1つのメーターを使用していることが多いでしょう。
また固定資産税は自宅兼事務所を1つの資産として捉えて課税されますし、家賃も1つの物件で自宅分と事務所分で契約が別になることはまずあり得ません。どうしても事業とプライベートが混在する部分が発生してしまうのです。
しかし、プライベートが混在しているからといって支出した全額を必要経費としないのは大きな損失です。事業用が占める割合の多寡はありますが、事業部分というのは間違いなく存在しますので、合理的な理由さえあれば一部又は全額を必要経費にできます。
所得計算における「否認」という考え方
支払った全額を「必要経費」としてはいけない
上記のような支出は、事業とプライベートが混在していますので当然支払った全額を「必要経費」とすることはできません。
もし仮に全額を必要経費とした場合、税務調査でプライベート部分の「必要経費」が除外され追加で所得税を支払わなければなりません。その他にも過少申告加算税(5%~15%)や意図的に行った場合には重加算税(35%~40%)が課され、さらに納期限が遅れたことに対する延滞税まで加算されます。
プライベート部分まで必要経費とした結果、本来払う必要のない税金まで上乗せされたのでは節税どころではありません。事業に対応する部分を明確に区分することが大切です。
支払金額の一部を「必要経費」としない「否認」
では実際に事業とプライベートが混在する場合の必要経費の経理処理について仕訳を例示しながら解説していきます。
例)電気料金 20,000円を現金で支払った
- (1) 支払い時
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 水道光熱費 20,000 現金 20,000 電気料金にプライベート分10,000円が混在していますが、支払い時には一旦全額を必要経費として処理します。
- (2) 確定申告時(青色申告55万円控除の場合)
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 事業主貸 10,000 水道光熱費 10,000 支払い時に必要経費として計上した水道光熱費のうち、プライベート分10,000円をマイナスして資産の勘定科目である「事業主貸」勘定へ振り替えます。結果として必要経費として計上されるのは事業にかかる20,000円-10,000円=10,000円だけとなります。
必要経費の一部(又は全部)をマイナスすることを税法では「否認」と呼び、自分でプライベート部分を算定し必要経費からマイナスしたうえで所得税を計算することを「自己否認」と呼びます。
公私混同するような必要経費でも、合理的な按分方法を用いてマイナスさえしていれば、税務調査において否認されるリスクは軽減されます。
「否認額計算」のケース別事例
必要経費の内容に応じた否認額の計算方法
例えば「電球」のように個数でカウントできるものは、「1個を自宅で使い、1個を事務所で使った」というように明確に区分できます。しかし、前例の電気料金や水道料金、家賃、固定資産税などは、事業とプライベートを一体として見て課されるケースがほとんどです。
自己否認額の計算における「合理的な按分方法」についていくつか例示してみます。
(1)電気料金、水道料金などの公共料金
自宅兼事務所で検針メーターが1つしかないような場合には、自宅部分の料金を自己否認しなければなりません。電気料金であれば家にある家電製品全ての消費電力をいちいち調べるわけにもいきませんので、按分割合はある程度概算にならざるを得ません。
事務所にいる時間と自宅で過ごす時間の割合などを目安に按分するのが妥当ですが、最近ではカタログに時間当たりの消費電力が表記されていることも多いので、事業で使用する家電製品の1時間当たり消費電力を合計し、事業時間を乗じて事業分の料金を求めるのも一つの方法です。
事業規模や事業内容にもよりますが、公共料金は日常生活で使用することを主たる目的としていますので、プライベート部分の割合が大きくなるのが一般的です。したがって、自己否認の計算の際にはプライベートの割合を多めに取った方がよいでしょう。
(2)地代家賃、固定資産税
自宅兼事務所の賃借料や固定資産税などは建物全体に対して課される経費です。したがって「延べ床面積の割合で按分」するのが最も妥当な按分方法でしょう。
例えば事業用部分の延べ床面積が100平方メートル、自宅部分の延べ床面積が200平方メートルであれば、事業と事業外の割合を「100:200」にすればよいわけです。
30万円の家賃であれば事業用が10万円(地代家賃)、自家用が20万円(事業主貸)となります。
(3)車にかかる経費
自家用車を事業にも使用している場合、ガソリン代や車検代、自動車保険、減価償却費などの経費のうちプライベート部分を自己否認しなければなりません。
車の必要経費を按分する基準として挙げられるのが「走行距離」です。ガソリン代は勿論のこと、使用と共に車は劣化していきますので走行距離に応じて経費を按分するのが最も妥当な方法でしょう。
1月1日から12月31日までの総走行距離のうち事業用としての走行距離が占める割合で必要経費を按分計上します。按分計算の際必要になりますので、営業日報等に毎日の走行距離を忘れずに記録しておきましょう。
「否認」した必要経費は事業主貸勘定へ
「自己否認」により必要経費からマイナスする金額ですが、同じ青色申告でも55万円控除(e-TAXで電子申告した場合は65万円)と10万円控除では勘定科目処理が異なります。
青色申告の55万円控除(e-TAXで電子申告した場合は65万円)は貸借対照表の作成が必須となっています。必要経費からマイナスした金額は「事業主貸」という勘定科目に振り替えます。「事業主貸」は貸借対照表の資産の部の勘定科目(実際には元入金のマイナス)ですので所得の計算上全く影響を及ぼしません。
青色申告の10万円控除の場合、貸借対照表は作成しませんので至ってシンプルです。経費から自己否認額をマイナスするだけで処理は完了します。
まとめ
上記で解説した必要経費はあくまで代表的なもので、その他にも日常生活の中のちょっとした支出が事業用に該当するということが多々あります。売上げに紐づけされているものであれば必要経費として認められますので、今一度レシート等を確認し公私が混在しているものはしっかり按分して経費計上するようにしましょう。
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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