個人事業主が給料・外注費を支払った場合の税金について徹底解説

[取材/文責]阿部正仁

ある程度規模が大きくなれば、個人事業主も人材を活用し、給料や外注費を支払うケースが出てきます。特に給料を支給する場合、従業員の税金の計算や納付などを雇い主が行うため、細かいルールが定められています。そこで、給料の支払いに伴う税金を中心に徹底解説します。

給料の支払いにかかる税金とは

支払対象者ごとに給料にかかる税金について説明します。

従業員に支払う給料にかかる税金

雇用契約を結んだ従業員からは、次の税金を給与から天引きして納付します。

(1)源泉所得税

後述する「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて源泉所得税を給与から天引きします。

(2)住民税

給与所得者の場合、住民税を給与から天引きする特別徴収が一般的です。

家族に支払う税金

家族への給料の支払いに伴い給与から天引きする税金は、従業員の場合と同じように源泉所得税と特別徴収の住民税です。

 

そもそも個人事業主の場合、家族への給料を必要経費に計上するためには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。

 

ただし、個人事業主の場合、従業員に支払う給料とは異なり、青色事業専従者給与を支給した家族には配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除との併用が認められません。

本人が受け取る給料

事業主が給料という名目で報酬を受け取っても、本人の給与所得にならず、必要経費にも計上できません。また、税法上給料ではないため、源泉所得税の対象外です。

給料は仕入税額控除が認められない

そもそも個人事業主は「課税売上にかかった売上税額-課税仕入れにかかった仕入税額控除=預かった消費税」を税務署に納付します。給料は課税仕入れの項目から除かれているため、仕入税額控除が認められません。

給料にかかる税金の取り扱い

給料にかかる税金の具体的な取扱いについて説明します。

源泉所得税の取り扱い

源泉所得税は「源泉徴収税額表」を用いて給与から天引きし、支給月の翌月10日までに毎月納付します。納付する際には「源泉所得税の所得税徴収高計算書(納付書)」に支給した給料の金額と源泉所得税を記入します。

 

源泉所得税は「源泉徴収税額表」の支給額(その月の社会保険料控除後の給与等の金額)と扶養親族等の人数に応じた金額になります。たとえば、月給30万円で扶養親族等が0人なら源泉所得税は8,420円になります。一方、月給40万円で扶養親族等が2人の場合、源泉所得税は10,040円です。

特別徴収住民税の取り扱い

そもそも住民税の納付方法は給与から天引きする「特別徴収」と自分で納付する「普通徴収」に大別できます。特別徴収を選択した給料の支給対象者に対して、各市区町村から通知された住民税を給与から天引きし、支給月の翌月10日までに毎月納付します。

年末調整が必須になる

年末調整とは給与所得者の所得税の計算を会社が代行する制度です。具体的には1月~12月までに給与から天引きした源泉所得税の合計額と年間所得税の差額を精算します。たとえば、源泉所得税の合計額が20万円、年間所得税18万円の場合、給与天引額が多すぎるため、差額の「源泉所得税の合計額20万円-年間所得税18万円=2万円」を給料の支給対象者に還付(返金)します。一方、源泉所得税の合計額18万円、年間所得税20万円の場合、給与天引額が少ないため、差額の「年間所得税20万円-源泉所得税の合計額18万円=2万円」を追加徴収(給与から天引き)しなければなりません。

 

住民税の計算も年末調整事務の一環として実施します。具体的には支給対象者ごとの給与支払報告書(住民税の計算資料)を各市区町村に提出し、担当部署で計算した住民税を会社に通知する仕組みになっています。

納期の特例を利用する方法もある

源泉所得税や特別徴収の住民税は毎月納付するのが原則ですが、給与等の支給対象者が常時10人未満の小規模事業者に対する特例制度が設けられています。それが「納期の特例」です。納期の特例とは、納付回数を毎月12回から年2回に減らすことができ、納期限は次のようになります。

 

  • 源泉所得税:1月分~6月分は7月10日、7月分~12月分は翌年1月20日
  • 住民税:6月分~11月分は12月10日、12月分~翌年5月分は翌年6月10日

 

納期の特例を受けるためには、事前に次の提出期限までに申請書を提出しなければなりません。

 

  • 源泉所得税:納期の特例を受けようとする月の前月末日(例 6月から納期の特例を受ける場合の提出期限は5月末日)
  • 住民税:さいたま市の場合は納期の特例を受けようとする月の20日(例 6月から納期の特例を受ける場合の提出期限は6月20日)

「給料→外注費」に切り替えるメリット・デメリット

業務委託契約など雇用契約が従業員以外の人や会社に仕事を外注するケースが見受けられます。そこで、税金面から「給料→外注費」に切り替えるメリット・デメリットを説明します。

外注費は仕入税額控除が認められる

外注費は仕入税額控除が認められます。そのため、支払額が同額なら給料を支払うよりも消費税を安くすることができます。たとえば、人件費を年間550万円支払ったとします。外注費にした場合、仕入税額控除は税抜価格500万円の10%相当額の50万円です。

年末調整の必要なし

デザイナーなど特定の業種以外の業種への外注費の支払いには源泉所得税を天引きする必要がありません。もちろん、特別徴収の住民税も関係ありません。

 

そもそも年末調整は給与所得者に限定された制度であるため、外注費の支払対象者は無関係です。そのため、給料を支払うよりも事務的手間が省けます。

家族への外注費は必要経費にならない可能性が高い

所得税法56条の「事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例」により、同じ家計の家族への外注費は必要経費として認められません。そのため、配偶者に対する支払額を必要経費に計上するためには、青色事業専従者給与として支給する必要があります。

税務調査で狙われやすい

「給料→外注費」に切り替えると仕入税額控除が認められます。年末調整も必要がないため、支払側は外注費として処理したがる傾向にあります。そのため、外注費は税務調査で争点になりやすい項目のひとつとなっています。

 

そもそも税務上、外注費としていても、請負契約などを結んだ外注先との仕事内容が雇用契約の従業員と変わりなければ給料と同じ取り扱いになります。

 

給料と外注費の区分は次の項目を総合的に判断した内容になります。

(1)ほかの人に入れ替わっても業務遂行ができる

  • 入れ替わったら業務遂行できない:外注費
  • 入れ替わっても業務遂行できる:給料

(2)発注者の指揮監督を受けるかどうか

  • 指揮監督を受けない:外注費
  • 指揮監督を受ける:給料

(3)仕事が完了していなくでも発注者に請求できるかどうか

  • 請求できない:外注費
  • 請求できる:給料

(4)発注者から仕事にかかる材料または用具などを提供されているかどうか

  • 提供されていない:外注費
  • 提供されている:給料

まとめ

給料と外注費を比較した場合、個人事業主にとっては外注費にしたほうが事務的手間や消費税の面で有利といえます。そのため、外注費は税務調査で狙われやすい傾向にあります。業務の一部を外注化する場合、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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