資格取得のための費用は経費にならない?経費にできるケースとできないケースについて解説

[取材/文責]福井俊保

資格を取得してキャリアアップを目指す従業員に対して、支援したいと考えている企業もあるはずです。しかしその費用は経費になるのでしょうか。実は経費になる場合と経費にならない場合があります。

そこでこの記事では、資格取得のための費用が経費になるのかどうかと、経費にする際の注意点について解説します。

資格取得のための費用は経費にできる?

資格取得のための費用は経費にできる場合とできない場合があります。ここではどのような場合に経費にできて、どのような場合には経費にできないのかについて説明します。

資格取得のための費用が経費にできるケース

どのような場合に経費にできるかというと、業務に関係する場合です。従業員が業務を行う際に必要だと認められる資格について、経費として適切な額の範囲内であれば、経費になります。

国税庁のホームページによれば、次のいずれかの要件を満たしており、適切な額の範囲内であれば、給与として課税しなくても良いとしています。

1.会社などの仕事に直接必要な技術や知識を役員や使用人に習得させるための費用であること。
2.会社などの仕事に直接必要な免許や資格を役員や使用人に取得させるための研修会や講習会などの出席費用であること。
3.会社などの仕事に直接必要な分野の講義を役員や使用人に大学などで受けさせるための費用であること。
引用:職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき,国税庁

資格取得のための費用が経費にできないケース

会社の業務で役に立つ資格であっても、個人に帰属する資格は経費にできません。たとえば国家資格や独立開業に必要な資格がそれにあたります。たとえば人事部門の業務に必要なため、社労士の資格を取得することとします。

社労士の資格があれば業務に役立ちますが、独立開業もでき、個人に属する資格のため、経費としては認められません。また大学の学費もNGです。総合大学で社員を学ばせる学費は、必ずしも業務に必要な知識だけを学ぶわけではありません。

しかしMBAならどうでしょうか。MBAは経営について専門的に学ぶ大学院であり、経営能力を向上するために役立ちます。そのためMBAであれば経費になります。

このように経費として認められるかどうかはケースバイケースになるので、専門家と相談して行う必要があるでしょう。

資格取得のための費用が経費として認められなかった事例

資格取得のための費用が経費として認められなかった事例について見てみましょう。1つ目は接骨院を営む事業者が、柔道整復師の資格を取得するための専門学校に通った時の学費です。

たしかにすでに接骨院を開業しており、柔道整復師の資格は間接的に業務に役立ちます。しかしその資格によって新しい地位を得られるため、経費としては認められませんでした。

また別の事例ですが、新しい地位を得るための宅地建物取引士の取得費も経費にできませんでした。つまり資格を取ることで得られる地位がある場合は経費にはならず、家事費となります。他にも日常的に使用しない歯科医師の英会話講習費も経費として認められません。

アメリカの学会等に出席して新しい技術を学ぶために、英語は必須だと主張しましたが、日常の業務で必要ではないと判断されたためです。また外国人の患者もごく少数だったことも経費として認められなかった理由となりました。

このように日常の業務に役立つことであっても、それが新しい地位を取得することにつながったり、継続的に学習する必要のないものであれば、経費として認められるのは難しいと言えるでしょう。

資格取得費用を経費にする場合の仕訳・勘定科目は?

資格取得費用を経費として計上する場合、仕訳や勘定科目はどれにすればよいでしょうか。ここでは仕訳と勘定科目について説明します。

資格取得費用の勘定科目は?

資格取得費用の勘定科目としては以下のものが考えられます。

● 研修費
● 福利厚生費
● 新聞図書費
● 旅費交通費

 

研修費は資格取得にかかったセミナー代など、福利厚生費は資格取得のために必要な費用、新聞図書費は資格取得のために必要な書籍代など、旅費交通費は試験会場までの交通費を計上します。

もちろんこのように細かく分けなくても、研修費や福利厚生費の中に新聞図書費や旅費交通費を含めても構いません。たしかに資格取得にテキストは必要ですから、福利厚生費に入っていても問題はないでしょう。

対応する人によって勘定科目が変わってしまうことを防ぐために、企業としてどの勘定科目を使うか事前に決まっているはずですので、確認してみましょう。

資格取得費用の仕訳は?

資格取得費用の仕訳はどのように記載すればよいでしょうか。たとえば現金で支払った場合は、以下のように記載します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
研修費 200,000円 現金 200,000円

 

また来期分の研修費、10万円分を前払費用に振り替えた場合は以下のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
前払費用 100,000円 研修費 100,000円

資格取得のための費用を経費にする際の注意点

資格取得のための費用を経費にする際の注意点としては、以下の3点があります。

経費になる条件にあっているか確認する

資格取得が経費になるかどうかの基準は確認しておく必要があります。前述したように、業務に必要な資格は経費になりますが、個人に帰属するものや業務に直接関係しないものは経費になりません。

宅建の資格のように、新しい地位の取得になるものも経費にはならないので、注意が必要です。

資格取得費用が給与になってしまう場合もある

業務に関係の無い資格を取得するための費用を会社が負担した場合、原則は給与となります。また資格を取得した際にお祝い金を出す会社もありますが、それも給与です。

会社は給与とすることで経費にできますが、従業員にとっては税金面で負担増となります。そのため従業員からクレームを受ける可能性もあります。前述したとおり、とくに国家資格などは個人に属する資格なので注意が必要です。専門家と相談して経費にできるかどうかは、事前に確認しておくべきでしょう。

資格取得費用の証拠を取っておく

資格取得費用を経費にするためには、資格取得のために学習した記録を残しておく必要があります。資格取得のためのテキストだけを購入して、学習していないとなると、経費にするのは難しくなります。

他にもセミナーや資格取得のための費用を証明できる領収書などは取っておかなければなりません。本当にセミナーに参加したのかどうかの証拠になるからです。また資格の合格証明書も保管しておきます。

資格取得のための講座に通ったことで、資格取得ができたと証明できれば、経費として認められるからです。交通費やテキスト代も同じです。領収書はしっかりと取っておきましょう。

まとめ

ここまで資格取得のための費用が経費になるかどうかについて解説してきました。資格取得のための費用が経費として計上できるためには、日常の業務で必要な資格でなければなりません。

また日常の業務に必要であっても、新しい地位の獲得につながったり、国家資格など、独立できる資格は経費として認められません。どこまでが経費なるかは専門家に相談したうえで、従業員に示せるようにしましょう。

渋谷区で一から立ち上げたプログラミング教室スモールトレインで代表として、小学生に対するプログラミングと中学受験の指導に従事。またフリーランスのライターとしても活躍。教育関係から副業までさまざまな分野の記事を執筆している。
著書に『AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育』(自由国民社)、共著で『#学校ってなんだろう』(学事出版)がある。

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