個人事業主が押さえておきたい国民年金の保険料免除制度
個人事業主として起業して間もない時期や病気などで思うように働けないときは収入が減少し、国民年金の保険料が経営を圧迫することもあります。一方で、保険料を未納のままにすると将来、年金を受給できなくなる可能性もあるので注意が必要です。今回は経済的に厳しいときに役立つ国民年金の保険料免除制度をご紹介します。
第1号被保険者だけが対象!国民年金の保険料免除制度
国民年金の第1号被保険者とは
国民年金は一定の要件を満たす人に法律で加入を義務づけるもので、加入者は毎年度、保険料(2018年度は16,340円)を納めなければなりません。本人の意思にかかわらず、強制的に加入者となる強制被保険者は次の3つに分けられます。
・第1号被保険者:20~60歳未満の自営業者や無職、学生などで第2号・第3号被保険者に該当しない人
・第2号被保険者:厚生年金や共済年金の加入者で老齢基礎年金等の受給権がない人
・第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者で20~60歳未満の人
日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 被保険者のしおり」
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/seido-shikumi.files/LN13.pdf
日本年金機構「国民年金保険料」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
保険料の「未納」と「免除」の違い
保険料の免除というと、納付していないという点で未納と同じように感じることでしょう。ところが、未納と免除では老齢基礎年金の受給額などの点で明確な違いがあります。
・受給資格期間の算入
老齢基礎年金の受給権を得るためには、「10年以上」の受給資格期間が必要となります。受給資格期間には国民年金保険料を納めた期間のほかに、免除期間を算入することはできますが未納期間は算入できません。
・老齢基礎年金などの年金への影響
保険料免除では、受給資格の要件を満たせば減額されるものの老齢基礎年金を受給できます。しかし、未納期間が長いと老齢基礎年金を受給できない、たとえ受給できても年金額が非常に少ないといった深刻な事態が起こりうるのです。同様に、未納のままでは不慮の事態が起きても障害基礎年金や遺族基礎年金を受給できない場合があります。
日本年金機構「保険料を納めることが、経済的に難しいとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html
厚生労働省「国民年金 免除・猶予制度」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000084307.pdf
「法定免除」と「申請免除」
国民年金の被保険者のうち、保険料を全額、自分で納めるのは第1号被保険者だけです。そのため、経済的な理由などで保険料納付が難しいときの救済として、国民年金には第1号被保険者向けの保険料免除制度が設けられています。
免除制度には法律上当然、免除となる「法定免除」があり、障害年金(1級または2級)の受給権者や生活保護法の生活扶助などを受けている人が対象となります。一方、「申請免除」は本人の申請によってはじめて保険料が免除になる制度です。申請免除は前年所得が一定の基準以下のとき、あるいは天災や失業などのために保険料納付が著しく困難な場合に保険料の全額、もしくは一部免除が認められます。
日本年金機構「保険料を納めることが、経済的に難しいとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html
日本年金機構「国民年金保険料」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
所得に応じて免除の程度が変わる保険料免除制度
所得基準がもっとも厳しい「全額免除」
全額免除における所得の基準や老齢基礎年金への影響などを見ていきましょう。
・所得の基準
本人と配偶者、世帯主の前年所得がそれぞれ次の式で求めた金額の範囲内にあることが必要です。
単身者であれば、所得基準は「57万円以下」が目安となります。なお、「収入」ではなく、収入から必要経費を引いた「所得」を用いる点に注意してください。
・老齢基礎年金の年金額への反映
国民年金の第1号被保険者に支給される老齢基礎年金には国からの補助があり、2009年4月以降は国庫負担として支給される割合が2分の1(2009年3月以前は3分の1)にアップしました。国庫負担分は免除期間についても反映されるので、全額免除の期間は保険料全額を納めたときに受給できる老齢基礎年金の2分の1に相当する年金を受け取ることができます。
免除の場合は老齢基礎年金の年金額が増えるのに対し、未納期間は国庫負担分が反映されないので年金額は増えません。
・手続き方法
保険料免除(一部免除も含む)を受けたいときは、申請書に国民年金手帳などの必要書類を添えて市区町村役場の年金担当窓口か、最寄りの年金事務所に提出してください。なお、免除申請は年度ごとに必要となり、免除申請でいう「1年度」とは「7月~翌年6月」までの12ヵ月を指します。
「一部免除」は所得別に3段階
一部免除には所得に応じて4分の3免除、半額免除、4分の1免除の3つがあります。一部免除の場合も、前年所得が計算式で求めた金額以下であることが必要です。
所得基準の計算式や老齢基礎年金に反映される割合、免除期間に納める月額保険料(2018年度)について紹介します。
・4分の3免除
所得基準は「78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」で計算します。他の一部免除にも共通する「扶養親族等控除額」と「社会保険料控除額等」は、確定申告で申告した金額のことです。
また、4分の3免除の期間についても老齢基礎年金に国庫負担分が反映され、8分の5(2009年3月以前は6分の3 )に相当する年金が支給されます。4分の3免除を受けている期間に納めるべき月額保険料は4,090円です。
・半額免除
118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
老齢基礎年金の年金額: 8分の6(2009年3月以前は6分の4)
免除期間の月額保険料: 8,170円
・4分の1免除
158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
老齢基礎年金の年金額: 8分の7(2009年3月以前は6分の5)
免除期間の月額保険料:12,260円
一部免除で気をつけたいのは、免除されていない残りの保険料をきちんと納めることです。免除されていない保険料、4分の3免除でいえば4,090円(2018年度)を納めずにいると一部免除が無効となり、未納とみなされてしまう可能性があります。すると、「年金が受け取れない」といった事態も起こりうるので忘れずに保険料を納めましょう。
日本年金機構「保険料を納めることが、経済的に難しいとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html
日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 被保険者のしおり」
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/seido-shikumi.files/LN13.pdf
厚生労働省:国民年金「免除・猶予制度」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000084307.pdf
さまざまな事情に合わせて申請できる免除制度
【対象拡大】50歳未満なら利用できる「納付猶予制度」
納付猶予制度は、2016年6月以前の期間は「20歳~30歳未満」が対象となりますが、2016年7月以降は「20歳~50歳未満」まで拡がりました(学生を除く)。
・所得の基準
本人と配偶者の前年所得が一定の額以内(所得基準は全額免除と同じ)であることが必要です。
・老齢基礎年金への反映
猶予期間は年金の受給資格期間には算入されますが、老齢基礎年金の年金額には反映されません。
日本年金機構「保険料を納めることが、経済的に難しいとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html
厚生労働省:国民年金「免除・猶予制度」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000084307.pdf
【2019年4月施行予定】産前産後期間中の免除制度
厚生年金ではすでに産前産後休業中の保険料が免除されていますが、国民年金についても産前産後期間の保険料が免除されることになりました(施行日:2019年4月1日)。
・対象者
国民年金の第1号被保険者で、施行日前の2019年2月1日以降に出産した方が免除対象となります。
・免除される期間
免除の対象となる産前産後期間とは、出産予定日(または出産日)が属する月の「前月から4ヵ月間」です。双子などの多胎出産の場合は、出産予定日(または出産日)が属する月の「3ヵ月前から6ヵ月間」となります。
・手続き方法
申請は原則、出産予定日の6ヵ月前からです。
日本年金機構「平成31年4月から国民年金保険料の産前産後期間の免除制度が始まります」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20180810.html
資金に余裕がでたときにおすすめしたい「追納」と「前納」
免除された保険料を後から納める追納制度
保険料が免除されると支出を抑えられますが、老齢基礎年金は保険料を全額納付した場合に比べて減額されるため将来のことを考えると不安になるでしょう。
そこで、資金に余裕が生まれ、「年金の受給額をできるだけ増やしたい」という方におすすめしたいのが追納(ついのう)制度です。免除や猶予された保険料は、追納制度により10年以内であれば遡って納付することができます。ただし、追納する時期が遅くなると加算額が発生することもあるので、できるだけ早めに納めましょう。
まとめるほどお得になる保険料の前納制度
資金にさらに余裕がでてきて、まとまった額を納めることが可能となったら保険料を前払いする前納制度を利用すると良いでしょう。前納制度により、一定期間の保険料をまとめて納めると保険料が割引となります。
前納の期間は、1ヵ月分や1年分、2年分などから自分の都合に合わせて選べるのが魅力です。割引額は「年利4%」の複利現価法で計算され、最長の2年分を口座振替で納めると割引なしに比べ15,000円ほど安くなります。
日本年金機構「国民年金保険料」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
日本年金機構「国民年金前納割引制度(口座振替 前納)」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-04.html
日本年金機構「国民年金前納割引制度(口座振替 早割)」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-05.html
日本年金機構「国民年金前納割引制度(現金払い 前納)」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-01.html
日本年金機構「国民年金保険料の「2年前納」制度」
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-03.html
まとめ
個人事業主として働く中で、国民年金の保険料を納めるのが大変と感じたときは保険料免除制度を検討するとよいでしょう。申請の際は免除制度の要件を満たしているかを確認し、制度のメリット、デメリットなどを理解したうえで手続きをすることが大切です。また、資金にゆとりができたら追納して将来の年金額を増やし、さらに、余裕があれば前納制度を利用して保険料を安く抑えましょう。
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