会社の合併にて発生する税金とは?合併時に注意しておくべき税務上のポイントを解説

[取材/文責]花谷えな

中小企業が合併する際、合併の種類や状況によっては、多額の税金が発生する場合もあります。経営戦略として合併を考えている場合、なるべく税金を抑えて再スタートを切りたいものです。この記事では、合併時に発生する税金など、税務・会計上の留意点を解説します。また合併が節税につながるケースや繰越決算金の引き継ぎなど、税務上での合併のメリットも合わせて紹介します。

会社合併の概要

合併とは複数の企業を1つの会社に統合させることです。メリットとして、売上高の増加やコストの削減などの効果が期待できるでしょう。

また合併には、税金の発生する合併と税金の発生しない合併の2種類があり、税金の発生しない合併を適合合併、税金の発生する合併を非適合合併といいます。

この2つは大きな相違点は、「法人税法の要件」に適合するか適合しないかという違いです。法人税法の要件に適合することで、税金の発生しない適合合併を目指すのが一般的です。それぞれ別の財務処理が行われるため、注意しましょう。

税金の発生しない「適格合併」

適格合併とは、法人税法上の適格要件を満たしている合併のことです。合併の際に、法人税や所得税が発生しない適格合併に必要な税務処理を解説します。

合併される側の会社では賃借対照表の反対仕訳を行い、合計金額をゼロにします。その後に合併し存続する会社で、賃借対照表の引き継ぎを行います。ここで、それぞれの仕訳を見てみましょう。

合併する側の税務処理

合併する側の会社では、合併される側の賃借対照表を引き継ぐ処理が必要です。

借方 貸方
諸資産 簿価引継 諸負債 簿価引継
資本金 簿価引継
利益積立金額 差額

 

合併される側の税務処理

合併される側の会社では、賃借対照表の反対仕訳を行います。結果的に借方・貸方の金額を相殺してゼロにします。

借方 貸方
諸負債 簿価 諸資産 簿価
資本金 簿価
利益積立金額 簿価

 

合併される側の株主の税務処理

合併される側の会社の株主は、株式の簿価を合併し存続する会社の取得原価に付け替えます。非適格合併の際に発生するみなし配当や源泉徴収は、適格合併の場合は発生しません。

借方 貸方
合併法人株式 簿価取替 被合併法人株式 簿価

 

税金の発生する「非適格合併」

非適格合併は、法人税法上の適格要件を満たない合併のことです。合併により、合併し存続した会社は吸収された会社の資産と負債を受け入れます。その代わりに支払う合併対価は、最終的に吸収された被合併会社の株主に分配されます。

合併する側の税務処理

非適格合併の場合、合併する側の税務処理は下記のとおりです。

  1. 合併される側の会社の資産と負債を時価ですべて受け入れる
  2. 対価支払の仕訳をする(現金・預金、株式)
借方 貸方
諸資産 時価 諸負債 時価計上
資産調整勘定 賃借差額 租税債務 確定税額
資本金 時価

 

合併される側の税務処理

非適格合併にて合併される側では、下記の2段階の税務処理を行います。

  1. 資産負債を売却し、譲渡損益を認識する
  2. 合併対価を株主に分配する

まずは資産負債を合併する側に売却し、合併対価を受け取ります。合併対価の額と賃借対照表の純資産額の差額が譲渡利益となり、譲渡益に対して課税が生じます。この場合の譲渡利益は、単純な計算では求められません。循環計算と呼ばれる特殊な計算を用いる必要があり、課税額が次第に大きくなる恐れもあるため注意が必要です。最後に合併対価を株主に分配します。

合併される側の株主の税務処理

合併される側の会社に限らず、株主にも税金が課せられます。合併対価のうち利益積立金額の部分をみなし配当、資本金などの額から合併された側の株式の帳簿価額との差額を譲渡損益と認識します。みなし配当と譲渡損益はそれぞれ次のような計算式から求められます。

みなし配当=合併対価-合併された側の資本金などの額×株主の株式保有割合
譲渡損益=合併対価-みなし配当-合併された側の会社の帳簿価額

 

会社の合併時に節税するポイントとは?

会社合併によって節税する方法は、主に適格合併の要件を満たすことが挙げられます。その他にも、損益通算を行うことや、消費税負担面などで節税対策ができます。以下では、それぞれについて解説します。

適格合併の要件を満たす

前述したとおり、会社の合併で節税するためには「適合合併」の基準を満たすのが一般的です。適格合併の要件は主に以下の3つが挙げられます。

同一グループ内の合併

「完全支配関係」にある100%持ち株のグループ会社、もしくは「支配関係」にある50%以上の持ち株のグループ会社を吸収合併する方法です。最もわかりやすく複雑でない合併方法です。

共同事業を行う形での合併

「共同事業再編」の要件を満たす合併方法です。事業の共同化を目的としているため、事業所や職員の異動は原則として行わずに同じ場所で同じ人が業務を続けられる状態で合併します。株式以外の資産が交付されないようにする必要があります。

繰越欠損金を引き継ぐ

適合合併の要件を満たしている場合は、被合併企業の繰越欠損金を引き継ぐことも可能です。ただし、特定資本関係のない企業では繰越欠損金を引き継ぐことのできない事例もありますので、詳しくは顧問税理士への確認が必要です。

損益通算を行う

適合合併の場合、被合併会社の資産は、譲渡による損益を認識せずに、簿価で合併会社に譲渡されます。法人格が同じになることで、被合併会社が繰り越した損失を引き継げるようになるため、過去の損益通算もできます。

消費税負担面を考慮する

合併は消費税の対象ではなく、消費税対象外取引としての課税対象でもありません。ただし、事業譲渡については譲渡する資産ごとに課税区分を決定する必要があり、営業権については課税対象となります。

また、合併により課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合や、資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の場合は、納税義務の免除対象ではなくなるため、消費税の納税が必要になる点も注意しておきましょう。

 

会社合併で節税する際の注意点

合併の場合、そもそも合併が適格合併であるかが重要です。非適合合併であれば、税金が発生するため、合併は適合合併を目指した方が、税金上は有利です。その他にも、合併にて発生する税金では2点注意しておきたい点があります。

  1. 小規模事業者向けの優遇税制が適用外になる場合
  2. 特定資産譲渡などの損失や相続税が株価に与える影響

小規模事業者向けの優遇税制が適用外になる場合も

たとえば、所得800万以下の中小企業の場合は優遇税制で税率15%でしたが、合併により所得が800万円を超える場合には、税率は23.2%まで上がります。

また、欠損金の繰越なども優遇税制が適用外になる可能性があるので合併前に確認しておく必要があります。

特定資産譲渡などの損失や相続税が株価に与える影響

適合合併の場合、被合併会社の資産は、被合併会社の簿額で合併会社に引き継がれます被合併会社から譲渡された資産の含み損は、合併会社の収益で相殺される租税回避について考えなければいけません。

また、合併会社の含み損を被合併会社の含み益で相殺するケースも同様です。このような租税回避の防止の観点から、適格合併をした場合に含み損があった場合でも、その損失は損失額に含まれないという規定があります。

☆ヒント
様々な理由から、会社を合併した方が得策だと判断される場合もあります。その際に、合併の仕方や手続きを誤ってしまうと、合併時に多額の税金が課せられ、合併が原因で会社が倒産の危機に陥る可能性もあります。合併を考えている方は、必ず顧問税理士に相談するようにしましょう。

まとめ

経営戦略のもとで会社の合併を考えている企業にとって、適合合併に準拠しなければ課税の対象となるため、合併が原因で経営を圧迫する可能性もあります。合併を考えている方は、顧問税理士に相談のうえ対応した方がよいでしょう。

会社員として勤務した後、フリーランスに転身。転身時に勉強した税金や節税方法についての知識が豊富。
読み手の立場に寄り添った、分かりやすい記事を執筆します。

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