福利厚生をするなら社宅と住宅手当のどちらが良い?経費面や税金面を解説

[取材/文責]長谷川よう

住宅関係における従業員の福利厚生として代表的なものに、社宅と住宅手当があります。
社宅と住宅手当にはそれぞれの特徴があり、自社にあったものを選ぶ必要があります。もちろん経費、税金の両面も考慮する必要があります。

ここでは、社宅と住宅手当のどちらを採用すればよいかさまざまな面から解説します。

社宅における経費と税金の関係とは

はじめに、社宅における経費と税金の関係について見ていきましょう。

社宅に関する支出は経費になる

社宅は会社が物件を借り上げ、従業員に住んでもらうものです。一般的には、家賃の一部を従業員に負担してもらい、残りを会社が負担します。
しかし、社宅には家賃以外にも管理費や修繕などの維持費など、多くの支出が伴います。ここで気になるのが、社宅に関する支出は経費になるのかです。社宅に関する支出は、事業に関係する支出のため、経費になります。

では、具体的な仕訳を見ていきましょう。

・社宅の家賃支払時

社宅の家賃10万円を普通預金から支払った。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
地代家賃 100,000円 普通預金 100,000円 社宅家賃

・従業員から負担分を徴収した場合

従業員に給料30万円を支払った。社会保険料4万円、源泉所得税・住民税合計1万円、社宅負担分5万円を差し引き、20万円を普通預金から支払った。
※社会保険料や源泉徴収税額は、説明用にキリの良い数字にしています。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
給料手当 300,000円 普通預金 200,000円 ○月分給与
預り金 40,000円 社会保険料
預り金 10,000円 源泉所得税など
雑収入 50,000円 社宅 従業員負担分

社宅の従業員負担分の会計処理で問題になるのが、消費税です。実は、社宅の消費税区分は非課税です。従業員から受け取った社宅家賃の負担分は消費税の計算上、非課税売上で計上する必要があります。

そこで、経費計上時には、支払額の全額を「地代家賃」(非課税)などの経費科目で、費用計上し、従業員から負担分を受け取った際は「雑収入」などの収入項目(非課税売上)で計上します。

従業員の負担割合に注意する

社宅制度を導入した場合、社宅の費用は経費になります。社宅では、会計処理に注意する必要がありますが、税金面でも注意が必要なことがあります。それが従業員の負担割合です。

実は、従業員の負担割合が低い場合は、給与として課税されます。具体的には、従業員から賃貸料相当額の50%以上の負担分を受け取っていれば、給与課税はされません。しかし、従業員負担額が、賃貸料相当額の50%未満の場合は、給与課税がされます。

給与課税がされると、従業員は所得税や住民税、社会保険料の負担が増え、会社は社会保険料の負担が増加します。そのため、福利厚生で社宅を導入する場合は、賃貸料相当額に注意する必要があります。

賃貸料相当額は、次の計算式で求めます。

  • 社宅建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
  • 12円×社宅建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル)
  • 社宅敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
  •  

    上記の1から3の合計金額が、賃貸料相当額になります。社宅を借りる際には、固定資産税の課税標準額や、建物の総床面積がわかる書類を借主に確認させてもらう必要があります。

    次に、給与課税になるかどうかの判断について見てみましょう。

    ・従業員0%負担(例:上記の計算式で計算した賃貸料相当額10万円、自己負担分0円のケース)

    従業員に無償で社宅を提供した場合は、賃貸料相当額の10万円が給与として課税されます。

    ・従業員50%未満負担(例:賃貸料相当額10万円、自己負担分4万円のケース)

    この場合は、賃貸料相当額10万円-自己負担分4万円=6万円が給与として課税されます。

    ・従業員50%以上負担(例:賃貸料相当額10万円、自己負担分6万円のケース)

    この場合は、賃貸料相当額10万円の50%以上の金額を従業員が負担しているため、給与課税はされません。
    ※今回の例は、従業員が社宅を利用している場合です。役員が社宅を利用している場合は、賃貸料相当額の計算方法が異なるので注意してください。

    住宅手当における経費と税金の関係とは

    住宅関係で、社宅とともに福利厚生に用いられるのが、住宅手当です。住宅手当は、住宅を所有している従業員に一定金額の手当を支給するものです。では、住宅手当の経費と税金の関係は、どのようになるでしょうか。

    住宅手当は、残業手当などと同じように、あくまで手当です。そのため原則、給料と同じ考え方をします。住宅手当は、給料の一部として経費に計上します。

    例)従業員に給料28万円と住宅手当2万円を支払った。社会保険料4万円、源泉所得税・住民税合計1万円を差し引き、25万円を普通預金から支払った。
    ※社会保険料や源泉徴収税額は、説明用にキリの良い数字にしています。

    借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
    給料手当 280,000円 普通預金 250,000円 ○月分給与
    給料手当 20,000円 預り金 40,000円 住宅手当/社会保険料
    預り金 10,000円 源泉所得税など

    税金面でも、給与の一部として給与課税がされます。そのため、従業員は所得税や住民税、社会保険料の負担が増え、会社は社会保険料の負担が増加します。

    社宅と住宅手当のどちらが良い?

    福利厚生として社宅と住宅手当には、一長一短があります。ここからは、社宅と住宅手当のどちらを選んだほうが良いのか見ていきましょう。

    節税を考えるなら社宅にする

    まずは、社宅を導入したほうが良いケースを見ていきましょう。
    従業員にとって、住宅手当は給料の一部です。そのため、所得税や住民税、社会保険料の負担が増えます。また、社会保険料は会社と従業員で折半して負担するため、会社も社会保険料の負担が増えます。

    一方、社宅の場合は、社宅家賃の従業員負担割合さえ注意しておけば、給与課税はされません。そのため、税金や社会保険料の負担を考えるなら、社宅のほうが良いでしょう。

    ただし、社宅の管理に手間がかかったり、管理費が必要になったりするなどの問題もあります。また、社宅に入っていない人との不公平感の緩和なども考える必要があります。社宅を導入する場合は、これらの問題にも注意しましょう。

    管理しやすさを選ぶなら住宅手当にする

    管理面を考えるのであれば、社宅よりも住宅手当を選択します。

    福利厚生で社宅を導入する場合は、社宅の管理が必要です。管理人を置いたり、管理会社に管理を依頼したりすると労力や費用がかかります。

    一方、住宅手当は、手当の支給のみです。そのため、社宅に比べてかなり管理しやすくなります。また、給与の支給額が増えるため、福利厚生をしていることを従業員に明確にアピールできるメリットもあります。

    ただし、住宅手当は必ず給与課税になります。そのため、従業員の税金面での負担が大きくなります。また、借家の社員が多い場合は、社宅のほうが費用が少なく済むケースもあります。福利厚生として住宅手当を導入する場合は、費用面での比較もしたほうが良いでしょう。

    まとめ

    住宅関係における、従業員の福利厚生として代表的なものが社宅と住宅手当です。社宅も住宅手当も、どちらも事業に関係する支出として経費にできます。

    ただし、税金面においては違いがあります。住宅手当の場合は、給料と同じ扱いになるので、給与課税がされます。したがって、従業員は所得税や住民税、社会保険料の負担が増え、会社は社会保険料の負担が増加します。

    社宅の場合は、従業員負担割合に注意すれば、給与課税がされません。しかし、住宅手当よりも管理にかかる手間や費用が多くかかります。

    このように、社宅と住宅手当には、それぞれの特徴があります。それぞれの特徴をよく検討し、自社にあったものを選びましょう。

    会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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