私募債で節税できる?少人数私募債の仕組みとメリット・節税について解説
中小企業の資金調達といえば誰もが銀行借入を思い浮かべるでしょう。この記事では、もう一つの資金調達方法である「私募債」のうち、発行手続きが簡単で企業の長期戦略や信頼獲得の面から見てメリットがある社債である「少人数私募債」の仕組みや節税について解説します。
少人数私募債とは
近年、中小企業の選択する資金調達方法は多様化しつつあり、適切な方法を選ぶことで事業拡大を成功させる中小企業も増えています。その一つである少人数私募債について、まずは概要を確認しましょう。
株式会社の資金調達方法
新規事業や設備投資を行うにあたって自己資金では資金が不足する場合、外部から資金を調達する必要があります。その方法として、大きくは売掛債権などの資産を現金に換える方法、株式発行などにより資本を増やす方法、借入金などにより負債を増やす方法の三つが考えられます。
なかでも中小企業によく選ばれているのが、レバレッジ効果の期待できる、負債を増やす方法です。具体的には、借入金として銀行や公的機関の融資を受ける方法や社債を発行する方法があります。
社債とは
元本を償還日までの長い期間保有し続けやすいことから、長期間の資金調達に選ばれることが多いのが「社債」です。社債とは、投資家から資金を調達するために企業が発行する債券をいいます。
- 社債の種類
社債は、投資家の集め方によって、公募債、プロ私募債、少人数私募債の三つに分けられます。
公募債の場合、不特定多数の投資家を対象に投資家を募ります。有価証券届出書や有価証券報告書の提出により情報開示を行う必要があるため、名の知れた企業が、大規模に資金調達を行う際に選ぶというケースが多いです。
プロ私募債の場合、銀行や証券会社などの適格機関投資家のみを対象として販売します。公募債におけるような届出書の提出などの手続きが不要なのが特徴です。
少人数私募債の場合、親族や会社関係者に限定して投資家を募ります。プロ私募債と同じく届出書の提出などの手続きが不要ですが、社債取得を勧誘する人数は50名未満、発行金額は1億円未満、という制限があります。 - 銀行借入との違い
社債には、銀行借入と比較して資金調達のハードルが低いという特徴があります。銀行借入を行うためには銀行による審査を受ける必要がありますが、社債の場合はその必要がありません。そのため、銀行借入ができなかった企業でも社債発行を検討することができます。
中小企業が利用しやすい少人数私募債
社債のなかで中小企業が特に利用しやすいのが「少人数私募債」です。
- 少人数私募債とは
先に述べたように、少人数私募債は親族や会社関係者を投資家とするタイプの社債です。社債というと知名度の高い大手企業が大規模に行うというイメージがあるかもしれませんが、手間がかからず手軽に発行できる社債として中小企業に選ばれているのが少人数私募債です。 - 少人数私募債のメリット
中小企業にとって、少人数私募債には手間・コストを抑えられるというメリットがあります。少人数私募債の場合、公募債の発行において求められるような有価証券届出書や有価証券報告書の提出が不要です。また、少人数私募債の場合は無担保でも発行でき、社債所有者を50名未満とし無担保で発行する少人数私募債の場合は社債管理者の設置義務がないため、社債管理者に支払うコストも削減することができるのです。さらに、長期目線の資金調達に向いているのも中小企業にとっては魅力です。社債と共通していえることですが、少人数私募債の場合は元本を利払いと同時に定期的に返済するか償還日に一括で返済するかといった、返済のプランを比較的自由に決められます。そのため長期的な資金運用の計画を立てやすいと考えられるのです。
少人数私募債の発行方法
発行条件
少人数私募債を発行する場合、プロ私募債や公募債に該当しないように次の条件を満たす必要があります。
- 社債の取得勧誘を行う相手、および実際に取得した人数が、6か月の通算で50名未満である
事前準備
少人数私募債の発行のためには、まず事業計画を立てて資金調達の金額や期間を決定しましょう。そのうえで、取締役会や株主総会にて社債発行の決議を行います。さらに、事業計画に基づいて取得勧誘の相手に提示する募集要項を作成します。募集総額や一口の金額、利率と利息の支払方法・期間、償還金額・期限・方法、譲渡方法・制限、解約(中途換金)の方法などが募集要項への記載事項です。これらの準備が完了したら、社債の取得勧誘と引受人の決定を行います。
少人数私募債で資金調達するときのポイント
少人数私募債は簡素な手続きで発行できる分、社債所有者との信頼関係の構築が重要になります。そのためには以下を意識することが重要です。
- 事業計画や経営・財務の状況などの情報の開示を積極的に行う
- 利率などの条件を、社債引受人が納得できるように設定する
- 利息の支払いや償還など、社債の管理を自社で万全に行う
- 元本の償還に向け、予算管理を万全に行う(万が一期日に償還できないことが分かった場合は、社債所有者に早急に連絡をする)
少人数私募債で節税できる?
中小企業が利用しやすい少人数私募債は、かつては節税に活用できる社債として注目されていました。ここでは実際にどのように活用されたのか、また現在も活用の余地はあるのかみていきましょう。
以前は節税できた
所得税には、累進課税により税率の定められる「総合課税」が適用されており、給与所得にかかる税率(所得税)は最大で45%に上ります。しかし、利子所得に「源泉分離課税」が適用される場合、合計の所得が高額になる人であっても、利子所得にかかる税率(所得税)を一律15%に抑えることができます。そこで、役員のような高額所得者が少人数私募債の形で企業に資金を貸し付け、給与の代わりに利息を受け取ることで節税するということが行われていました。少人数私募債を発行した企業にとっても、給与に代えて利息を支払うことで支払利息を損金として法人税の課税対象から控除することができるため、法人税の一部を削減することができるというメリットがあったのです。
現在は節税することが難しくなっている
このように、以前は少人数私募債に源泉分離課税が適用されることを利用した節税が行われていましたが、2013年に税制改正が行われたことにより、現在は節税することが難しくなっています。具体的には、2013年度の税制改正により、同族会社の役員などが受け取る社債利息には源泉分離課税ではなく総合課税が適用されるようになりました。その結果、役員などの高額所得者が利子所得を得た場合、給与所得と合わせて累進課税による高い税率が課されることになったのです。
なお同族会社とは、株主のうちの3人以下、またはその人の親族などの関係者が、半分超の出資をしているか発行済株式の半数超を有する会社を指します。また、親会社株式を子会社が有しているなどの議決権のない株式が存在する場合、株主のうちの3人以下、またはその人の親族などの関係者が議決権の総数のうち半数超を有する会社も同族会社に該当します。
このような同族会社の経営に強い影響力を持つ人については、少人数私募債による節税効果が実質的になくなりました。社債所有者が同族会社の役員などに該当しなければ節税余地は未だ残されているとはいうものの、以前に比べ条件がかなり厳しくなったといえるでしょう。
まとめ
この記事では、少人数私募債の仕組みと節税効果について説明してきました。上手く活用することで、少人数私募債は、中小企業の長期的な成長に力を添えてくれるものとなるでしょう。資金調達の目的や使い道を明確にしたうえで、状況に合った資金調達の方法を選択しましょう。
慶應大学法学部卒。
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