引当金とは?種類や計算方法、計上するメリットを解説
引当金とは、今後出費が発生する可能性があるものに備え、お金を積立しておくことができる、会社の制度です。経理実務において登場することが多いため、経理担当者は引当金の種類や含まれる費用、計上方法など、詳細を把握しておく必要があります。 この記事では、引当金の種類や計上できる費用、計上すると節税になるのかなどのメリットについても解説します。
引当金とは
引当金とは、会社が将来支出すると予測できる出費に備えて、あらかじめ準備する経費処理のことです。会社の決算書を作成する場合、確定している負債については正しく計上する必要があります。しかし、支払いが不確定の場合でも条件を満たせば「引当金」として、将来の支出について準備すべき費用を計上できます。
また、引当金の扱いは、会計上と税務上では異なります。会計上では引当金の計上を求められますが、税務上は基本的には損金として認められません。例外として、資本金1億円以下の中小企業は「貸倒引当金」の一部を損金算入できます。
引当金として認められる要件
引当金として認められる要件として、「企業会計原則」では以下のような事項が示されています。
- 将来の特定の費用又または損失の場合
- 発生が当期以前の事象に起因の場合
- 発生の可能性が高い場合
- 金額を合理的に見積もることができる場合
上記の4つの条件をすべて満たす場合、引当金として計上可能です。例えば、10年後に会社の設備修繕が予定されている場合、その設備を修繕する原因は今期の使用も含まれます。この場合、今期にも修繕費を引当金として計上可能です。しかし、発生の可能性の低い偶発事象にかかる費用または損失の場合は計上できないとされているため注意が必要です。
引当金の種類
引当金は性質に合わせて以下の2種類に分けられます。
- 評価性引当金
- 負債性引当金
引当金は将来発生すると予測できる損失や費用に備えるために、あらかじめ計上するものを指します。損失に備える引当金を評価性引当金、費用に備える引当金を負債性引当金と区別できます。
- 評価性引当金とは
評価性引当金とは、将来の損失に備えるために資産から控除される引当金のことです。その特徴として、賃借対照表では左側の資産の運用形態を示す部分にマイナス表示されることがポイントとなります。具体的には貸倒引当金や投資損失引当金などが該当します。
負債性引当金とは、将来の支出・費用に備えるために計上する引当金のことです。引当金の多くが負債性引当金に該当します。負債性引当金の中でも債務性があるものとないものとして、具体的には以下のように分けられます。
債務性があるもの | 賞与引当金・退職給付引当金・製品保証引当金・返品調整引当金・売上割戻引当金 |
---|---|
債務性がないもの | 修繕引当金・債務保証損失引当金・損害補償損失引当金 |
引当金を計上する目的とメリット
引当金を計上する主な目的は以下の2点です。
- 正確な損益計算を行うため
- 投資家や金融機関などが正しく会社の経営状態を判断するため
決算書に引当金を記載しなかった場合、建物の修繕費や従業員の退職金などの大きな金額の支出が突然発生すると、会社の利益は大きく減ったように見えます。しかし、あらかじめ引当金を計上することにより、費用が標準化され、会社の利益の大きな変動を防げます。また、正確な決算によって、投資家や金融機関などは正しい経営判断ができるでしょう。
一方で、基本的に引当金は税金計算上の経費にはならないため、税金を減らす効果はほとんどありません。しかし、例外として中小企業や個人事業主の場合は、貸倒引当金を損金算入できます。ただし、節税効果は初年度に限られます。
税金計算上の経費にならない場合でも、引当金は計上しなくてもよいわけではありません。不確定の支出の場合でも、発生する可能性が高い将来の費用は引当金として決算書に記載し、会社全体や取引先が把握できるようにしましょう。
引当金に該当する費用
評価性引当金に該当する費用
評価性引当金は、売掛金や貸付金などの金銭債権に対して、回収不能の見積額を計上するものです。例えば、評価性引当金に該当する「貸倒引当金」とは、将来の金銭債権の貸倒れに備えて、回収不能の見積額を費用計上するための勘定科目のことをいいます。
負債性引当金に該当する費用
負債性引当金に該当する費用は以下の通りです。
引当金の名称 | 対象の費用 |
---|---|
賞与引当金 | 従業員に支給する賞与 |
売上割戻引当金 | 売上に応じて支払う売上割戻金 |
返品調整引当金 | 返品時に生じる返金 |
製品保証引当金 | 1年保証やリコールなどの無償修理や交換費用 |
特別修繕引当金 | 1年越えの有形固定資産の修繕費 |
修繕引当金 | 1年以内の有形固定資産の修繕費 |
損害補償損失引当金 | 将来発生する可能性が高い訴訟や事故などの補償費用 |
債務保証損失引当金 | 当期以前の債務保証により将来発生する可能性が高い費用 |
引当金の会計処理方法
評価性引当金の処理・計算方法
評価性引当金は賃借対照表の左側(資産の部)にマイナスとして記載します。具体的な評価性引当金の処理・計算方法については、経理において発生する可能性が高い処理である、貸倒引当金を例に解説します。
貸倒引当金の仕分方法には洗替法と差額補充法の2種類があります。洗替法では以下のように前期の貸倒引当金の全額を取り崩してから、新たに見積もった金額を計上します。
- 決算で貸倒引当金50,000円を計上
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 貸倒引当金繰入 50,000 貸倒引当金 50,000 - 決算で前期の貸倒引当金を取り崩して70,000円を新たに計上
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 貸倒引当金 50,000 貸倒引当金戻入 50,000 貸倒引当金繰入 70,000 貸倒引当金 70,000
一方、差額補充法は前期に計上している貸倒引当金と当期に発生した貸倒引当金の差額を計上する仕訳方法です。例えば、前期に50,000円の貸倒引当金を計上済みで、当期は70,000円の貸倒引当金を計上する場合は以下のとおりです。
- 前期と当期の貸倒引当金の差額は20,000円(70,000円-50,000円)
- 差額の20,000円を計上
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 貸倒引当金繰入 20,000 貸倒引当金 20,000 - 決算日:2021年3月
- 賞与支給日:2021年6月
- 賞与の査定期間:2020年12月~2021年5月(4か月)
- 支給する賞与の見積額:300万円
- 決算で賞与引当金を計上
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 賞与引当金繰入 200万 賞与引当金 200万 - 賞与として300万円を従業員に支払う
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 賞与 1,000,000 普通預金 3,000,000 賞与引当金 2,000,000 -
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洗替法と差額補充法のいずれで計上する場合であっても、貸倒引当金の額は同じです。税務上では原則とされている洗替法は中小企業が用いる方法で、差額補充法は一般的には上場企業が用いる方法です。
負債性引当金の処理・計算方法
負債性引当金は賃借対照表の右側(負債の部)に記載します。また、賞与引当金のように通常1年以内に使用されるものは流動負債として表示されます。退職給付引当金のように通常1年を超えてから使用されるものは固定負債に表示されます。基本的な処理の方法は、賞与引当金について知っておくと他の負債性引当金にも応用できるでしょう。賞与引当金の処理・計算方法について下記の会社を例に解説します。
決算日に計上する賞与引当金を求める計算式は以下のとおりです。
まとめ
引当金とは、会社に将来発生する可能性が高い費用や損失に備えて、あらかじめ計上するものです。貸倒引当金や賞与引当金、返品調整引当金など多くの種類があり、引当金の性質によって評価性引当金と負債性引当金にわけられます。引当金の計上により、予想できる大きな費用や損失が把握できるため、経理業務で正しく引当金を理解した上で計上できるようにしましょう。
会社員として勤務した後、フリーランスに転身。転身時に勉強した税金や節税方法についての知識が豊富。
読み手の立場に寄り添った、分かりやすい記事を執筆します。