利益調整は違法行為なのか?経営者の方が注意すべき点について解説
会社の恣意的な判断により、期間損益を意図的に増減させる行為を「利益調整」と呼びます。企業会計原則や税法等で認められる範囲内で行う「利益調整」も、やり過ぎると違法行為になる可能性があります。今回は、「利益調整」をするにあたって経営者の方が注意すべき点を中心に解説していきます。
会社が行う利益調整とは何か?
利益調整とは「利益を意図的に増減させる」こと
「利益調整」とは、月次の会計処理や決算処理を行った結果として予想される損益に対して、会社が恣意性をもって調整を加える行為です。通常、会社の期間損益は企業会計原則や会社法、金融商品取引法といった会計のルールに従って計算され、納税額は法人税法や消費税法といった税法のルールに従って計算されます。これらの客観的なルールに基づき算出された損益(黒字、赤字)に対して、会社が恣意を加えて増減させる行為が「利益調整」です。
具体的な例を挙げてみましょう。
通常の決算を行い黒字決算になることが確定した後、収益を先送りしたり費用の追加計上を行うことで納税額を抑えようとする行為は「利益調整」にあたります。また、赤字決算の会社が黒字を出すために債務免除益を計上したり、費用の繰り延べを行うことも同様に「利益調整」にあたります。
「利益調整」に該当するかの判断基準としては、期間損益の計算上、損益を増減させようという会社の意図が働いているかどうかがポイントとなります。
利益調整の具体的な手法
利益調整は「黒字を少なく(又は赤字を大きく)する調整」と「赤字を少なく(又は黒字を大きく)する調整」の2パターンがあります。
1.黒字を少なく(又は赤字を大きく)する調整
黒字を少なくするには「収益を繰り延べる」「費用を追加計上する」のいずれかの調整が必要になります。例としては次のようなものがあります。
- 建設業者が工事進行基準から工事完成基準に切り替えて完成工事高を繰り延べる
- 任意償却の繰延資産を全額償却する
2.赤字を少なく(又は黒字を大きく)する調整
赤字を少なくするには「収益を追加計上する」「費用を繰り延べる」のいずれかの調整が必要になります。例としては次のようなものがあります。
- 役員借入金について債務免除をうける
- 減価償却費を圧縮し少なく計上する
会社はなぜ利益調整をするのか?
決算書の利益が第三者に及ぼす影響
会社は得意先や仕入先といった取引先は勿論のこと、出資してくれる株主や金融機関など利害関係者との繋がりがあります。利害関係者にとっては、取引相手の財務内容は健全に取引するうえで重要な判断基準となりますので、毎年決算期に作成する決算書の提出を求めることがあります。会社としては、特に赤字決算であることが第三者に知られてしまうと、今後の取引に支障がでる可能性も考えられます。健全であることをアピールするために、黒字決算に見せる利益調整を行うケースがあるのです。
過度の調整は違法行為になることも
会社は法人税や消費税といった税法のほか、会社法や金融商品取引法など様々な法令を遵守しなければなりません。法令で定められた範囲内の利益調整であれば何の問題もありませんが、表面上の利益額を求めるあまり、過度の利益調整をしてしまうケースがあります。棚卸資産を例に挙げると、黒字企業が利益を少なくするために棚卸資産を計上しなければ明らかに脱税行為になります。逆に赤字企業が利益を大きくするために架空の棚卸資産を計上すれば、粉飾決算となり金融商品取引法違反となる場合があります。法令で許される範囲を超えた利益調整は違法行為になることを覚えておきましょう。
違法行為にならない利益調整の注意点について解説
会計と税法では利益に対する見解が異なる
利益調整の注意点を解説する前に、会計と税法では利益(所得)に対する見解が異なることを理解しておく必要があります。減価償却費を例に挙げると、決算書上は税法で定める償却限度額を超えた減価償却費を計上した場合、償却限度額と決算書上の減価償却費の差額は償却超過額として別表4で加算することになります。しかし、この調整はあくまで確定申告書のなかで行うものであり決算書には反映されません。つまり、決算書の利益と税法上の利益が異なるわけです。この仕組みを使って「決算書上だけ利益を少なく見せる」ことも可能です。
法令の範囲内で認められる利益調整とは
次に「利益調整」で行われる行為について、具体的な例示を挙げながら解説しましょう。利益調整には大きく分けて会計上の利益調整と取引上の利益調整の2つに分類されます。
1.会計上の利益調整
・棚卸資産の評価方法の変更
会社が所有する棚卸資産の評価方法には「個別法」「先入先出法」「移動平均法」「売価還元法」など、様々な評価方法があります。評価方法を選定しない場合、法人税法では「最終仕入原価法」が法定評価方法となりますが、所轄税務署に届出することにより任意の評価方法を選択することができます。設立1期目の会社であれば、確定申告書の提出期限までに届出をすれば評価方法を変更できますので、棚卸資産の評価額が一番少なくなる評価方法を選択し利益調整することが可能です。なお、設立2期目以降の法人でも評価方法の変更は可能ですが、事業年度が始まる日より前に届出を提出しなければなりませんので、決算時点での利益調整には使えませんので注意してください。
・減価償却費の過少計上
減価償却費とは、固定資産の取得費用を法律で定められた期間内(法定耐用年数)に経過期間に応じて費用化するものです。減価償却費は、固定資産の取得価額に法定耐用年数に応じた償却率を乗じて計算されますが、仮に赤字決算の会社であれば決算書上の赤字を少なく見せるために減価償却費を少なく計上するという方法です。決算書上の減価償却費と、税法に基づき計算された減価償却費(償却限度額)との差額は「償却不足額」となりますが、税法では償却限度額以下であれば償却額は任意とされています。
・貸倒引当金の計上
貸倒引当金とは、将来起こり得る売上債権等(売掛金、受取手形など)の貸倒リスクに備え、税法で定められた引当率の範囲内で将来の損失見込額を費用計上するものです。貸倒引当金の計上は任意ですから、もし仮に当期が黒字決算であれば引当金を計上し、赤字であれば引当金を計上しないという調整が可能です。
2.取引上の利益調整
・決算賞与の支給
月次決算の段階で決算時点の利益を予想し、従業員に対して決算日までに賞与を支給する方法です。黒字決算の会社で節税を目的として実施するケースがよく見受けられます。「事前確定届出給与に関する届出書」を提出していれば、役員に対して賞与を支給することも可能ですが、事前に届出が必要なことから決算直前の節税対策としては使えませんので注意してください。
・少額減価償却資産の取得
30万円未満の固定資産を取得し、全額を費用として計上する方法です。対象となるのは決算日までに取得しているものであり、また事業年度内で全額費用とできる金額は上限300万円までです。少額減価償却資産の制度を利用した利益調整も決算賞与と同様、黒字決算が見込まれるケースでよく見受けられます。また、赤字決算が見込まれるケースで少額減価償却資産を敢えて全額費用にせず、固定資産として計上し減価償却費のみを費用計上すれば、赤字額を縮小することが可能となります。
・遊休資産の売却
所有している固定資産のうち、稼働していない遊休資産を売却し損益を計上することで利益を調整する方法です。遊休資産の帳簿価額より高い売却額で売れば利益が出ますし、逆に低い売却額で売れば損失(費用)が出ます。資金繰りが厳しい赤字決算の会社であれば、遊休資産の売却益で赤字額を圧縮することができ、なおかつ運転資金も調達できますので有効な利益調整の1つであるといえます。
まとめ
利益調整を節税目的や取引先との関係維持の目的で行うことは、法令の認める範囲内であれば有効な手段の1つです。しかし、利益調整の反動は必ず翌期以降の負担となって返ってきます。過度の調整は将来的な重荷になることを覚えておきましょう。
▼参照サイト
[手続名]棚卸資産の評価方法の届出【国税庁】
[手続名]事前確定届出給与に関する届出【国税庁】
No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例【国税庁】
法人税法【e-Gov】
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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