意外と知らない!?給与・賞与を使った節税について簡単解説
従業員に対する給与の定期昇給や、業績が好調であったため臨時ボーナスを支給するなど、給与等の支払いが前期より増加するケースがあります。このようなケースで、給与等を引き上げた場合に当期の税金を安くする方法があるのをご存じでしょうか?この記事では給与等の支給額に関する税額控除について解説します。
まずは知りたい人件費と法人税額の関係
人件費の増加が税額に及ぼす影響
従業員に対する給与や賞与は「費用」として収益から引くことができます。
法人税は、会計上の利益に法人税法上の加算・減算を行った「所得」を求め、所得に対して税率を乗じて計算します。人件費の支払いは利益を減少させることになりますので、結果的には節税につながります。法人税等の実効税率は所得の金額に応じて増加しますが、概ね所得の1/3程度と考えて差し支えありません。
例えば人件費が1,000万円であった場合、1,000万円×1/3=約330万円の節税となります。人件費を多く支払えば支払うほど、法人税額も安くなるということです。
人件費が増加した場合に受けることができる税額控除
法人税額を計算するにあたり、ある一定の要件を満たす支出をした場合、支払うべき税額から一定割合を控除できる優遇制度があります。これを「税額控除」と呼びます。税額控除には様々な種類がありますが、この記事で紹介するのは従業員に対する給与や賞与(以下給与等)の支給額が前期よりも増加した場合に利用できる税額控除です。
前述のとおり、人件費そのものが節税効果を持ちますが、税額控除の要件さえ満たせば法人税をさらに控除(安く)することが可能です。「給与等の引き上げを行った場合の税額控除」は、平成25年度税制改正で創設された「所得拡大促進税制」をより使いやすく改正し、「賃上げ及び投資の促進に係る税制」として平成30年度に創設されました。簡単にいうと、企業が従業員の給与を持続的に引き上げていくのを税制面でバックアップしようというのが創設の趣旨です。
税額控除を適用した場合の節税効果
制度の概要を簡単に説明すると以下のような流れになります。
- 当期の給与等支給額が前期の給与等支給額より増加した場合に
- 給与等支給額のうち前期首から当期末まで継続して在職している従業員の給与だけを前期・当期それぞれ集計し
- 2の給与等が増加した金額の15%に相当する税額を控除できる(法人税額の20%が上限)
例示の場合に当てはめると以下のようになります。
例)前期の給与等支給額を1,000万円(全額継続して在職している従業員に対するもの)、当期の給与等支給額を2,000万円(全額継続して在職している従業員に対するもの)、法人税額が500万円である場合
- 当期分2,000万円 > 前期分1,000万円
- 当期分2,000万円 - 前期分1,000万円 = 1,000万円
- 1,000万円×15% = 150万円
∴ 100万円を上限とした税額控除が可能。
確実に税額控除を受けるためにおさえておきたい給与等の考え方
前期の人件費を集計する
「給与等の引き上げを行った場合の税額控除」を確実に受けるために、最初にしておきたいのが前期の給与等支給額がいくらだったのかを正確に把握することです。 税額控除を受けるための前提が「当期の支給額(雇用者給与等支給額)が前期の支給額(比較雇用者給与等支給額)を1円でも上回ること」ですので、前期の支給額より多く支給しなければならないためです。 決算直前の節税対策として、決算賞与を支給する場合がありますが、前期との比較を意識するのとしないのとでは節税効果が大きく違ってきます。
「継続雇用者給与等支給額」と「比較継続雇用者給与等支給額」の違い
もう一点注意しなければならないのが、税額控除可能額の計算は「継続雇用者」に支払った給与等が対象となるということです。「継続雇用者」とは(1)24ヶ月連続して在職している(2)雇用保険の被保険者のいずれかを指します。
したがって次のような従業員に対する給与等は計算から除外しなければなりません。
- 雇用保険の被保険者でない従業員
- 前期首から当期末までに入社、退職した従業員
- 当該期間に休職期間がある従業員
- 役員の親族にあたる従業員
「継続雇用者」に対し当期に支払った給与等のことを「継続雇用者給与等支給額」、前期に支払った給与等のことを「比較継続雇用者給与等支給額」と呼び、当期と前期の支給額の差額を基準として税額控除可能額を計算することになります。
「給与等の引き上げを行った場合の税額控除」の計算方法
「税額控除」とは法人税額からの直接控除
1.給与等支給額の比較
前期と当期の給与等支給額が増加しているか比較するところから始めましょう。
前期の給与は既に決算が終わっていますので決算報告書から拾うことができます。
2.継続雇用者給与等の比較
次に、継続雇用者に対する給与の増加額を計算します。
(A)/当期の継続雇用者給与等支給額≧3%
3%以上増加した場合に増加額の15%が税額控除可能額となります。
上記1.で単純な支給総額を比較して総額要件を満たすかを判定し2.でさらに継続雇用者の適用要件を判定しつつ、税額控除可能額を算定します。
税額控除には上限がある
上記2.で税額控除可能額を計算しますが、全額が控除できるわけではなく「税額の20%を上限として」というもう一つの要件があります。税額控除を適用する前に法人税額を一旦計算し、法人税額の20%と税額控除可能額を比較していずれか少ない金額が適用されます。簡単に言えば最高で税額の20%分を節税できることになります。
なお、税額控除は法人税額を節税できる制度となるため、都道府県民税や住民税は節税になりません。なぜなら、都道府県民税や市町村民税については、税額控除前の法人税額を課税標準として計算するためです。
所得金額が800万円までの部分
所得金額が800万円を超えた部分
所得金額が800万円であれば
800万円×15%×20%×1.044=250,560円となります。
給与等の支払いが増加すれば税額控除可能額は増加しますが、法人税額は減少します。むやみに給与等支給額を増やしても税額の20%上限で頭打ちになり意味がありませんので、税額控除可能額と法人税額がクロスする適切な給与等増加額のポイントを意識しながら検討する必要があります。
まとめ
利益の計算は把握していても、法人税の計算は税理士に全て任せている経営者の方も多いでしょう。特に税額控除のような特別な計算を要するものについては、経営者の判断だけで決算前の事前対策をとるのはなかなか難しいことです。しかし、適用を受けた場合の税制面での恩恵は大きなものですので、税理士と綿密に打ち合わせしながら決算準備を進めていきましょう。
また、給与等支給額を増やすことは従業員の士気向上にもつながります。この記事で紹介した節税で得られるメリットとあわせて考え、利用を検討するとよいでしょう。
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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