法人の内部留保には税金がかかる?特定同族会社の留保金課税とは

[取材/文責]長谷川よう

ネットや新聞などで、法人に内部留保が多くあるというニュースを見たことがあるかと思います。実は法人にとって、この内部留保には注意が必要です。なぜなら、一定の法人では内部留保に税金がかかることがあるからです。ここでは、内部留保とは何か、また、どのような場合に税金がかかるかなど詳しく解説します。

内部留保ってどんなもの?

法人における内部留保とは

最初に、法人における内部留保とはどのようなものかを見ていきましょう。

法人は毎年、売上や経費、損益を計算し、利益が出た場合は法人税を支払います。法人税の支払いをしたのちに残った利益は、株主の配当に回り、株主への配当をしても残った利益は会社に残ります。これを内部留保といいます。内部留保は、将来の損失に備えたり、会社の建物の大幅な改修工事に備えたりする目的で、残されることが多いです。

内部留保と現預金の関係

内部留保は、現金や預金として残っていると考えがちですが、実はそうではありません。

内部留保のことを知るためには、キャッシュと利益の関係について理解する必要があります。例えば、商品を仕入れたり、固定資産を購入したりした場合は、一度に大きな現預金の支払いを行います。しかし、仕入れた商品や購入した固定資産がすべて経費になるわけではありません。売れ残った商品は翌年度の経費になりますし、固定資産は数年にわたって少しずつ経費になります。そのため、利益と残ったキャッシュは一致しないことが多いです。

このように、内部留保の金額は手元にある現預金より少ないことが多いので、注意が必要です。

特定同族会社の内部留保には税金がかかる

なぜ、内部留保に税金がかかるのか

一定の法人では内部留保に税金がかかることがあります。見てきた通り、内部留保は、利益から法人税などを支払った後に残った利益のことです。では、すでに税金を支払った後の内部留保に、なぜさらに税金がかかるのでしょうか。

それは、株主に対する配当金と大きな関係があります。会社は利益が出ると、株主に対して配当金を支払います。配当を受けた株主にとって、配当金はもうけになるので、所得税がかかります。上場企業は株主が不特定多数の人であることが多く、必ず配当金を支払います。

しかし、株主が1つの親族だけの会社の場合はどうなるでしょうか。このようなケースでは、会社とその親族の生活は同等のような感覚でいるケースが多くなっています。そのため、配当金を受けて所得税がかかるぐらいなら、会社にそのお金をプールしておこうという考えになりがちです。これは租税回避の行為に当たり、税負担の観点で不平等となってしまいます。

そこで、株主が1つの親族だけの会社の場合など、一定の企業に対しては、配当金を出さないことへの牽制の意味をこめて、内部留保に税金を掛けるようにしています。これを留保金課税といいます。

同族会社と特定同族会社

では、一定の企業とはどのような企業でしょうか。それを理解するためには、同族会社と特定同族会社について理解する必要があります。

法人税法では、同族会社について「会社の株主等の3人以下、並びにこれらと特殊な関係にある個人及び法人の所有する株式が、その会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える会社」と定義しています。

特殊な関係にある個人や法人とは次のとおりです。

 

1.株主等の親族(配偶者、六親等以内の血族、三親等以内の姻族)

2.株主等と事実上の婚姻関係にある者(まだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係にある者 )

3.株主等の個人的な使用人

4.株主等から受ける金銭やその他の資産により生計を立てている者

5.株主等並びに株主等と特殊関係のある個人及び法人で他の会社を支配している場合の当該他(支配されている側)の会社。なお、「支配している」とは、発行済株式又は出資の50%超を所有している他の会社をいう。

 

同族会社は、社長一族の意見が通りやすい会社のことです。そのため、みなし役員(役員ではないが、役員とみなされる人)への賞与が経費に認められなかったり、経費の金額を否認して、法人税の金額を税務署長が決めたりするなど(実際にはほとんどありません)の制限がかけられています。

一方、特定同族会社とは、同族会社の中でも、さらに社長一族の意見が通りやすい会社のことです。

特定同族会社の厳密な定義は「同族会社のうち1株主グループの持株保有割合が50%超である会社」とされています。

 

同族会社と特定同族会社をわかりやすく言うと、株式の50%超を株主上位3つのグループで持っているのが同族会社、1つのグループだけで持っているのが特定同族会社です。

同族会社は、社長一族とその仲間でその会社の議決権のある株の50%以上を持っていて、特定同族会社は、社長一族のみでその会社の議決権のある株の50%以上を持っています。どちらも社長一族の意見が通りやすいですが、特定同族会社のほうは、社長一族のみの意見で会社の行動を決めることができます。

そこで、特定同族会社には、同族会社の制限のほかに、留保金課税の制限がかけられています。ただし、資本金1億円以下の同族会社は適用対象外です。

特定同族会社の留保金課税制度

留保金課税の計算方法

一定の特定同族会社には、内部留保に税金を課される留保金課税制度があります。

ここでは、留保金課税の計算方法を見ていきましょう。

留保金課税は、内部留保の金額から一定の控除額を差し引いた金額に税率をかけて計算します。計算式で表すと次のとおりです。

 

留保金課税額=(内部留保金-留保控除額)×税率

 

留保控除額は、次の3つのうち、最も大きい金額です。

①所得基準額

所得等の金額×40%

②定額基準額

年2,000万円×事業年度の月数/12

③利益積立金基準額

期末資本金額×25%-(期末利益積立金額-当期の利益のうち積み立てた物の額)

 

税率は次のように定められています。

内部留保金-留保控除額 税率
年3,000万円以下 10%
年3,000万円超1億円以下 15%
年1億円超 20%

※ここでは留保金課税の計算方法の概要を記載しましたが、実際は、内部留保金にさまざまなものを加算・減算して留保金額を求める必要があります。

そのため留保金課税の対象になりそうな法人は、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

留保金課税制度の対策とは

では、留保金課税の対象となる場合の対策にはどのようなものがあるか、確認しましょう。留保金課税制度の対策には次のようなものがあります。

①資本金を減らす

留保金課税は、資本金1億円以下の同族会社には適用対象外です。そのため、留保金課税制度に対するいちばんの対策は、資本金を1億円以下にすることです。資本金を1億円以下にすることで、中小企業のさまざまな特例を使えるようになるなど、節税にもつながります。

②内部留保金を減らす

留保金課税は、内部留保金について課税されます。そこで、内部留保金を減らすことを考えます。例えば、機械装置や備品などの設備投資や、事業拡大のための投資などに内部留保金を使うことで、留保金課税の税額を減らすだけでなく、会社の成長にもつながります。

まとめ

会社は、先行きの不安などにより、できるだけ利益を会社内部に留保しようと考えることも多いです。しかし、一定の特定同族会社の場合は、内部留保金に対して税金が課せられます。

利益を会社内部に留保することを考える場合は、まず自社が留保金課税の対象になるかを判断し、留保金課税の対象となるなら、より会社が成長できるように対策を立てましょう。

 

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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