あらためて知っておきたい個人事業主が見落としがちな「経費」とは?

[取材/文責]マネーイズム編集部

新型コロナの感染拡大で、経済環境が厳しさを増しています。「1人」で頑張らなくてはならない個人事業主にとって、売上を確保するのと同時に、いかに出費を抑えていくのかが、ますます重要になっています。コストそのものの削減も大事ですが、節税に結びつく「経費の計上」に漏れはありませんか? あらためて、「見落としがちな経費」をまとめてみました。

そもそも「経費」とは

最初に、「経費(必要経費)」について、おさらいしておきましょう。税法上、「所得を得るために必要な経費」のことを、そう呼びます。同じ光熱費でも、生活のためではなく、仕事のために使ったのならば、経費として認められます。

 

所得税は、事業収入(売上高)からこれら経費などを差し引いた「課税所得」に税率を掛けて算出されます。つまり、「経費が多いほど課税所得が下がる」=「支払う税金が少なくてすむ」ことになるわけです。

 

ただし、法律の条文に「これとこれは経費になる」と明文化されているわけではなく、納税者が判断のうえ、申告しなくてはなりません。その結果、「この出費が経費で落とせるのかどうか迷う」状況が生まれます。時として「経費になるなんて知らなかった」、逆に「誤って経費計上してしまった」といった事態も起こるわけです。

何が経費になるの?

一般的に経費として認められる項目には、次のようなものがあります。

 

  • 「地代家賃」、「水道光熱費」 事業のために必要な事務所の賃貸料や、それを運営するために不可欠な水道料、電気代など
  • 「給料賃金」 従業員に支払う人件費
  • 「外注工費」 事業のために外注先に委託して発生した費用
  • 「通信費」 事務所で使う電話代、回線使用料、切手代、事業用の携帯電話料金など
  • 「広告宣伝費」 商品やサービスの広告宣伝のための費用
  • 「接待交際費」 取引先などへの接待費用
  • 「福利厚生費」 従業員の勤労意欲の向上などを目的として活動した費用
  • 「租税公課」 事業税、業務用の部分の固定資産税など

 

では、「各論」です。次のような支出は、経費にできると思いますか?

 

  • ①取引先に関連する結婚式に招かれ、祝儀を渡した
  • ②事業の繁栄を祈って神社に祈祷料を支払った
  • ③ライターが、取材の下調べのために映画のDVDを購入した
  • ④猫カフェで飼っている猫の餌代は?
  • ⑤旅行でお土産を買い、従業員全員に配った
  • ⑥仕事着のクリーニング代
  • ⑦歯科医院の待合室に置くために、雑誌を定期購読している
  • ⑧事務所への来客用に、ドリップコーヒーを買った
  • ⑨自宅でサロン経営をしている人が、玄関や廊下に客用のインテリアを置いた

 

いかがでしょうか? けっこう微妙に感じられる出費もありますが、正解は、「基本的にすべて経費で落とせる」です。レアケースではありますが、事業用のお金を盗まれた場合にも、それが私的なものではないことが証明できれば、経費になるのです。

 

判断基準は、最初に述べた「所得を得るために」使われたお金なのかどうか、という1点に尽きます。逆に言えば、「事業をしていなければ、なかった出費」ということになるでしょう。そういう視点から、もう一度、身の回りの支出に目を向けてみることをお勧めします。

「自宅兼事務所」の引っ越し代は、経費にできるのか?

一方、個人事業主の場合、事業の内容や項目によっては、生活と仕事が混然一体となっていることも珍しくはありません。けっこう多いのが、自宅で仕事をしているケースです。自宅兼事務所の家賃は、経費にできるのでしょうか?

 

この場合には、「家事按分」という考え方に従って、経費計上することになります。ひとことで言えば、「事業として使っている部分のみ、経費として認められる」のです。例えば、15万円の家賃の住居の半分を仕事で使っているのならば、その50%=7万5000円を経費で落とすことができます。

 

とはいえ、この家事按分の比率は、単純に仕事に使う「スペース」で決められる場合と、そうはいかないケースがあります。1つの部屋を事務所にして、ほとんどそこで仕事をしているような業態ならば、前者でいいでしょう。しかし、1日の大半を外で飛び回っていて、家でする仕事はその準備くらい、といった場合には、「自宅にいる時間」が按分比率の主要な要素になるでしょう。

なお、この家事按分は、家賃だけでなく、自宅兼事務所の水道光熱費、電話などの通信費、自動車のガソリン代などにも適用されます。

 

また、引っ越しの費用も、この比率に従って経費計上することができることを、覚えておいてください。この場合の案分比率は、引っ越し後の自宅の比率で計算します。引っ越しの前後でそれを変える場合には、注意する必要があるでしょう。

 

ちなみに、引っ越しに関連するものでは、業者に支払う料金だけでなく、次のようなものも同じように経費になります。

 

  • 不動産屋の仲介手数料:勘定科目(※)=支払手数料
  • 大家に支払う礼金:地代家賃、ただし20万円以上は長期前払費用(なお、敷金は経費にはなりません)
  • 管理費:地代家賃
  • 鍵の交換代:消耗費

 

※勘定科目 簿記における計算のための区分単位。

領収書は必ずもらい、取っておく

当然のことながら、経費にするためには、その出金を証明しなくてはなりません。記録として認められるのは、領収書、レシート、クレジットカードの明細書、預金通帳の振込履歴、出金伝票などです。しっかり保管しておきましょう。

 

細かなことですが、個人と仕事用の買い物を一度にした場合、わざわざ分けてレシートを発行してもらう必要はありません。仕事に関連する項目に、印を付けておけばOKなのです。

 

くり返しになりますが、経費で落とせるのは、「事業に使った費用」です。でも、ごらんのように、その線引きは簡単ではありません。みすみす払わなくてもいい税金を納めるはめになることもあれば、逆に経費に認められない出費を計上して、税務署からお咎めを受ける可能性もあります。

 

ある程度事業規模が大きくなり、取引先の数も増えてきたら、税務や会計業務を税理士などに依頼することも考えましょう。もちろん、そのぶんのコストが発生するわけですが、得られる節税効果もばかにはなりません。その部分をプロに任せることで、自分は本業に専念できる、というメリットも期待できます。

まとめ

事業に関連する出費は、所得税申告の際、経費にできます。忘れずに計上するようにしましょう。必要に応じて、税理士の知恵やスキルを活用するのも、事業を円滑に遂行させる鍵です。

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