どこまで特定支出に含める?特定支出控除について解説

[取材/文責]山田隆裕

給与所得者の特定支出控除をご存知でしょうか。通勤費や転居費、資格取得費など職務に直接必要になる特定支出と呼ばれる費用について、ある一定の金額を超える部分を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができるという制度です。今回はこの制度の概要と、控除を受けるための流れを解説していきます。

特定支出控除について解説

特定支出控除とは

給与所得者が「特定支出」を行った場合に、その年の特定支出の金額の合計が、給与所得控除額の2分の1相当額を超えるとき、その超過分の金額を特定支出控除として給与所得控除後の所得金額から差し引くことができます。特定支出は業務上必要な支出をカバーできるので、サラリーマンの必要経費と呼ばれることもあります。

どのような支出が含まれるのか

特定支出として扱われる支出は、勤務必要経費、帰宅旅費、資格取得費、研修費、転居費、通勤費です。いずれも、その支出の妥当性や職務上の必要性を給与等の支払者が証明しなくてはなりません。

●勤務必要経費

次に掲げる3種類の支出を指しますが、それら支出の額の合計が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。

(1) 図書費

書籍や定期刊行物、その他の図書で、職務に関連する専門性の高いものを購入するための費用のことです。

(2) 衣服費

制服、事務服、作業服など、勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用のことです。多くのサラリーマンの方にとってはスーツ購入費が該当します。

(3) 交際費等

交際費、接待費、その他の費用で、得意先や仕入先などの職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答、その他これらに類する行為のための支出のことです。

●帰宅旅費

単身赴任などの場合に、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出のことです。

●資格取得費

職務に直接必要な資格を取得するための支出のことです。平成25年分以降は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象になりました。結果的に資格を取得できなかった場合も、資格取得を目的とした支出は特定支出とすることができます。

●研修費

職務に直接必要な技術や知識の習得を目的として研修を受けるための支出のことです。

●転居費

転任を理由とする転居のために通常必要であると認められる支出のことです。

●通勤費

通勤のために通常必要であると認められる支出のことです。

控除を受けるための流れ

特定支出控除を受けるためには、確定申告書、修正申告書または更正請求書に、その適用を受ける旨と特定支出の合計額を記載し、源泉徴収票に加えて、特定支出に関する明細書および給与等の支払者の証明書、支出金額の証明書を添付する必要があります。

それでは控除を受けるための流れをより詳細に見ていきましょう。

確定申告

確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得の金額とそれに対する所得税及び復興特別所得税の額を計算して書類を作成し、税務署へ申告します。特定支出控除の申請は、確定申告書の第二表の「特例適用条文等」欄に「所法57の2」と特定支出の合計額を記入します。

特定支出に関する明細書

特定支出に関する明細書は、提出書類のフォーマットが国税庁ウェブサイトで頒布されていますので、それをダウンロードします。そのフォーマットに従ってそれぞれの特定支出の内容を記入します。また、それぞれの特定支出の支出金額や、補填される金額のうちの非課税部分等、それらの差引金額を記入します。

給与の支払い者の証明書

給与の支払い者の証明書は、給与所得者が受けたいそれぞれの特定支出に関する証明の依頼書を作成し、それを給与の支払者に対して提出することで交付される証明書です。特定支出に関する証明書に関しても、各種フォーマットを国税庁ウェブサイトからダウンロードすることができ、特定支出の種類ごとのフォーマットに従って必要事項を記入します。給与等の支払い者は記載事項が妥当であるか、適正に記載されているかを確認した上で所定の事項を記入して、証明書を依頼した給与所得者に対して給与支払い者の証明書を交付します。

支出金額の証明書

個々の特定支出につき、これを領収した者の領収を証明する書類や、その他の特定支出の事実および支出した金額を証明する書類が必要となります。これは主に領収書がその役割を果たしますが、銀行振込の際に受ける払込受付書などの支出の事実および支出した金額を証明できるものであれば問題ありません。この支払金額の証明書は確定申告書に添付するか、確定申告の際に提示しなくてはいけません。

控除額の計算方法

特定支出控除は、特定支出の合計額がその年中の給与所得控除額の2分の1を超える場合、その超えた分の金額を給与収入から控除することができます。以前は収入金額に応じて基準となる額が異なりましたが、平成28年分からは一律で給与所得控除額の2分の1が特定支出控除額の適用基準となりました。

以下、2つの具体的な例を基に、特定支出控除額がどのように計算されるのか見てみましょう。

(1) 給与収入400万円、給与所得控除額134万円、特定支出額50万円の場合

特定支出控除額の算出は、

50万円(特定支出額)-134万円(給与所得控除額)×2分の1=-17万円

となります。

特定支出控除額がマイナスになったので、特定支出控除は発生しません。

(2) 給与収入400万円、給与所得控除額134万円、特定支出額150万円の場合

特定支出控除額の算出は、

150万円(特定支出額)-134万円(給与所得控除額)×2分の1=83万円

となります。

特定支出控除額がプラスになったので、その金額分の83万円が特定支出控除として給与所得の所得金額から控除されます。

☆ヒント
特定支出控除は、身近な支出に関して控除が可能となる給与所得者にとってはありがたい制度です。しかし、上記のように必要な証明書や手続も多く、手間がかかってしまうという面があります。また、特定支出の細かい内訳や適用範囲は、専門的な知識を持たなければ正確に判断することが難しいです。私たちビスカスは、特定支出控除に関する知識・経験が豊富な税理士を数多く紹介していますので、ご利用を検討されてはいかがでしょうか。

まとめ

職務を遂行する上で直接必要となる特定支出は、給与所得控除額の2分の1相当額を超えた金額分を控除することができます。その控除には確定申告書や様々な証明書、領収書を用意する必要があります。日ごろから領収書をこまめに管理し、早めに書類の準備をしましょう。

慶應大学卒。現、同大学院所属。
大学4年時に公認会計士試験に突破。
自分の知識の定着も兼ねて、会計・財務などに関する知識を解説していきます。

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