外国株式の配当金は非課税?法人の海外進出にかかる税金とは

[取材/文責]阿部正仁

法人が海外進出をすれば、国内の税金だけなく、必然的に外国の税金ともかかわります。外国で獲得した所得を国内の企業に還流させた時に、現地法人を設立して外国株式の配当金を受け取った場合と支店を設置した場合では税金の取り扱いが異なります。そこで、海外進出時の税金について、子会社形態と支店設置に分けて解説します。

外国株式の配当金の税金とは

外国株式の配当金は原則、課税される

保有する株式に対する配当金は法人の収益となり、損益計算書の当期純利益にプラスされます。そのため、原則として法人税の課税対象になります。たとえば、取引銀行から出資配当金を受け取った場合、会計処理は次の通りになります。

借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 摘要
現金預金 〇〇円 受取利息配当金 〇〇円 出資配当金

非課税対象の株式配当金

そもそも株式配当金の財源は会社の内部留保で、事業活動で獲得した利益から法人税を差し引いた残額が蓄積された金額です。言い換えれば、株式配当をする前にすでに法人税が課税されています。そのため、株式配当金に対する二重課税を防止するために次の項目を非課税対象にしています。

(1)受取配当等の益金不算入

国内企業の株式に対する剰余金の配当などが受取配当等の益金不算入の対象になります。たとえば、全額出資している子会社から配当金を受け取った場合、親会社の法人税は非課税になります。

(2)外国子会社から受ける配当等の益金不算入

海外進出などの目的に設立した外国子会社から配当金を受け取った場合、親会社の法人税は非課税になります。すでに設立した国で法人所得税が課税されているからです。

子会社形態にした場合~外国子会社配当金の益金不算入~

外国子会社配当金の益金不算入の制度は、国内企業が子会社を設立して、海外市場で獲得した利益を国内還流できるようにするため、平成21年度税制改正により創設されました。外国株式の配当金を国内の法人税で非課税にすることにより、外国子会社は国外の法人税を負担するだけで済む仕組みとなっています。

外国子会社の配当金の95%が非課税

外国子会社の配当金のうち、配当等にかかる費用相当額を5%控除した95%相当額が非課税の対象になります。たとえば、ある外国子会社から100万円の株式配当を受けた場合、国内の法人税の非課税対象は配当等の95%相当額の95万円になります。また、一連の経理処理はいったん配当金100万円を受取利息配当金という勘定科目を用いて損益計算書の利益に計上し、法人税を計算する際に、所得金額から同額100万円を控除します。

非課税対象となる外国子会社

外国子会社とは、「発行済株式の総数」または「出資総額」の25%(租税条約により異なる割合が定められている場合は、その割合)以上を保有し、保有期間が6ヵ月以上の外国法人のことを指します。たとえば、ある国に100%出資で現地法人を設立した場合、保有割合25%以上の状態が、配当等の支払義務が確定する日以前より6ヵ月以上継続すれば外国子会社になります。

非課税対象から除かれる外国子会社の配当金

前述の通り、外国子会社配当金の益金不算入は国内と外国の二重課税を防止するための制度です。そのため、外国子会社が国内の法人に配当した金額のうち、損金算入されて外国の法人税が課税されなかった配当金は国内の法人税の非課税対象から除かれます。この制度は二重非課税にしないというが目的で平成27年度税制改正により創設されました。

支店形態にした場合~外国税額控除~

子会社形態と違って支店形態の場合、設置した支店は国内の企業に属します。そのため、決算書など業績の計算は本店と合算します。

国外所得も日本で課税される

国内の法人税は税法上、「その本店又は主たる事務所の所在地とする」と定められているため、支店で獲得した国外所得も課税対象になります。たとえば、本店の国内所得が1,000万円、国外所得が500万円の場合、支店形態と子会社形態を比較した場合、国内の法人税の課税対象は次の通りになります。

 

  • 支店形態:国内所得1,000万円+国外所得500万円=課税対象1,500万円
  • 子会社形態:国内所得1,000万円=課税対象1,000万円(国外所得は外国法人税の課税対象)

外国法人税が外国税額控除の対象になる

支店で獲得した国外所得を法人税の課税対象にした場合、外国の法人税と二重課税になってしまうため、外国法人税に相当する税額を国内の法人税から控除することが認められています。この制度のことを外国税額控除といいます。

 

国内の法人税から控除できる外国法人税は次の算式で求めます。

外国法人税×国外所得÷すべての所得(国内所得+国外所得)

 

前述の国内所得1,000万円、国外所得500万円を例にすると、外国法人税が150万円の場合、外国税額控除は次の通りになります。

外国法人税150万円×国外所得500万円÷すべての所得1,500万円=外国税額控除50万円

 

ただし、外国税額控除の計算に用いる国外所得はすべての所得の90%が限度になっています。たとえば、国内所得は0円で、国外所得500万円・外国法人税150万円の場合、外国税額控除は次の通りになります。

外国法人税150万円×450万円(※)÷すべての所得500万円=135万円
※すべての所得×90%=450万円<②国外所得500万円→450万円

 

言い換えれば、国外所得のうち最低10%は国内の法人税が課税され、90%が非課税対象になる仕組みになっています。

子会社形態と支店形態の違い

子会社形態にした場合の特徴

子会社形態にした場合、国内の企業とは別人格であるため、グループ企業間の内部取引であっても外部取引と認識されます。そのため、外国子会社との取引は国内の企業の所得金額に影響します。たとえば、現地法人に支払った手数料は、国内の企業の経費に計上し、所得金額からマイナスされます。

 

しかし、現地法人に支払う手数料を操作するなどにより、外国子会社を利用した税金逃れを防止する制度にひっかかると、国内の法人税が余分に課税されてしまいます。代表的な制度を2つ紹介します。

(1)移転価格税制

国内の企業が海外の関連企業と、通常の取引価格と異なる価格で取引した場合には、通常の取引価格により所得金額を計算し、法人税を課税する制度です。この通常の取引価格を独立企業間価格といいます。たとえば、現地法人に支払う手数料の独立企業間価格が500万円に対し、支払額が600万円とします。独立企業間価格500万円で取引したとみなすため、「支払額600万円-独立企業間価格500万円=100万円」が法人税の課税対象になります。

(2)外国子会社合算税制

外国子会社がペーパーカンパニーだったり、無形資産の使用許諾など実質的活動のない事業から得られる所得だったりする場合、国内所得とみなし、外国子会社の所得を国内の法人税が課税されます。

支店形態にした場合の特徴

支店形態にした場合、国外所得も国内の法人税が課税されるため、本支店間の内部取引は所得金額に影響しません。たとえば、独立採算制を意図して、本店が支店に手数料を支払っても、法人税の課税対象は同額です。そのため、子会社形態のように移転価格税制や外国子会社合算税制などでひっかかるリスクがありません。

まとめ

今回は国外所得を国内企業に還流させる場合を例に説明してきました。海外進出をする際に子会社形態または支店形態の有利不利は自社の事情や外国の法人所得税率などさまざまな要素があります。海外進出に興味を持った場合は事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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