個人事業主はソフトウェアをどのように利用すると節税につながる?

[取材/文責]岡和恵

パソコンを業務に利用するということは、すなわちソフトウェアを使って業務をすることです。今や、ソフトウェアはクラウドサービスを通じて使う機会が増えましたが、業務によっては従来のソフトウェア購入型もあります。これらソフトウェアについて、利用できる制度やあるべき会計処理について解説します。

近年のソフトウェアの傾向

ソフトウェアの購入・構築から利用へ

パソコンが普及し、企業において一人一台と言われ始めた1990年代前半は、パソコン(ハードウェア)を購入して、ソフトウェアを選んでCD等からインストールして利用するのが主流でした。当時からGUI技術の発達によって、個人事業主は業務にあった使いやすいソフトウェアを選択してきました。その後、ソフトウェアが業務に深く浸透するのと比例してその利用方法も多岐にわたってきました。
 
インターネットが広く利用されるようになり、特に2008~2009年にはクラウドの技術が急速に普及しました。
クラウドとは従来からインターネットを図にするときに「雲=cloud」のような絵を描いていたことに由来するといわれています。そして、クラウドコンピューティングとは、ユーザーがインフラやソフトウェアを所有しなくてもインターネットを経由して、必要なサービスを必要な分だけ利用する考え方をいい、今やクラウドサービスによって各種のソフトウェアが利用できるようになりました。

クラウドサービス発達の背景とは?

クラウドサービスでは、ユーザーが必要なものは最低限の接続環境とパソコンや携帯端末などのクライアントだけです。実際に処理のほとんどを実行するコンピュータ(サーバなど)はサービス提供者のデータセンター内にあって、サーバの管理、運用はサービス提供者が実施するという形態が多くみられます。
したがって、クラウドサービスとは単にソフトウェアの提供だけでなく、「ソフトウェア」、「サーバ等のハードウェア」、「管理・運用・保守」などのサービスを含んでいます。
 
クラウドサービスが発達した理由として、次の3つが考えられます。
まず、「回線速度の発達」です。ダイヤルアップ接続から、ADSL、光回線へと回線の技術が発達し、料金も利用しやすくなってきたことです。
次に、近年の大災害を教訓として、サービス提供者のデータセンターを災害対策、BCP強化を目的としてクラウドサービスを利用するようになったことです。
さらに、導入や運用の容易さ、従量制の課金体系など、利用規模に応じたサービスが各種設けられていることです。
 
クラウドサービスの導入により、サーバを事務所内に設置していたときと比べて場所の確保だけでなく、人件費、光熱費、運用コストなどを削減することができます。特に個人事業主がサーバまで持つ大変さに比べると、クラウドサービスの利用は業務効率化のひとつと言えるでしょう。
以上のことから、今後、個人事業主のソフトウェア利用としては、クラウドサービスが主流になっていくのではないでしょうか?

会計上や税務上のソフトウェアとは?

ソフトウェアの定義とは?

税務上、ソフトウェアを定義しているものはなく、会計におけるソフトウェアの範囲については日本公認会計士協会の実務指針によります。
それによりますと、ソフトウェアの範囲として、「コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム、システム仕様書、フローチャート等の関連文書」と定められています。また、情報の「中身」という意味で使われるコンテンツについては、ソフトウェアとは不可分でない限りは別個のものとして取り扱うとされています。
 
会計では、クラウドサービス以外のソフトウェアにおいては、原則として取得価額20万円以上であれば無形固定資産(ソフトウェア勘定)として計上します。
税務上において認められる耐用年数は一般に購入したソフトウェアの場合は5年となります。また、5年以内にソフトウェアが不要になった場合には、「今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるとき」に限り、未償却残額を損失として計上することができます。

ソフトウェアを自作したときの会計処理は?

クラウドサービスでは扱っていない特別なソフトウェアについては、委託先から購入か、自作になります。
ソフトウェアを自社で自作した場合、資産計上の考え方が会計と税務で違っているので注意が必要です。
 
会計においては、自作したソフトウェアが「将来の収益獲得又は費用削減が確実なもの」であれば資産計上しますが、利益の獲得や費用削減が「不明」であれば費用と考えます。
これに対し、税法では利益の獲得や費用削減が不明なものであっても資産計上するという考え方に立っています。
 
したがって、小規模な事業者は将来の利益獲得の裏付けや費用削減の合理的な説明ができなければ、会計上は費用となりますが、申告書ではその費用が否認されて、課税対象となってきます。
したがって、ソフトウェアを自作する場合は、計画段階において収益化できるかどうかの見極めが重要となってきます。

個人事業主が利用できるソフトウェアに関する制度は?

中小企業投資促進税制

ここで個人事業主に適用可能なソフトウェアに関する税制を2つ紹介します。これらは、中小企業や個人事業主が積極的な設備投資によって、生産性革命の実現を図る観点から設けられた制度でもあります。
中小企業投資促進税制とは、一定の設備を取得または制作した場合には、特別償却30%または税額控除7%が適用できるというものです。
一定の設備の中にはソフトウェア(70万円以上)も含まれており、特別償却とは通常の減価償却とは別に経費追加ができる制度であるため、節税につながります。
なお、税額控除とは、計算された税額を限度として控除額がすべて税額から差し引かれることで、1回だけ税金が安くなる方法です。

中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、認定を受けた経営力向上計画に基づく設備投資については、即時償却及び税額控除10%が適用できるというものです。
この制度は、自社の経営力を向上させるために実施する計画を立てて認定された事業者は、計画実行のための支援措置として、税制措置、金融支援、法的支援を受けられます。
税制措置には、対象設備となる資産にソフトウェア(70万円以上)が含まれており、即時償却とは取得価額の全額が経費として認められることであり、節税に大いに貢献します。

ソフトウェアを購入した場合の一般的な会計処理は?

クラウドサービスは大半が月額や年額等での支払となるため、会計処理については、サービス期間に応じた費用処理で問題ないと思います。しかしながら、ソフトウェアを購入した場合の会計処理は、原則として取得金額によって決まっており次のようになります。なお、取得価額には消費税は含まれません。

取得価額 経理処理 勘定科目
10万円未満 費用処理 備品費など
10万円以上20万円未満 3年均等償却
又は少額減価償却資産の特例
一括償却費
又は備品費など
20万円以上30万円未満 資産計上
又は少額減価償却資産の特例
一括償却費
又は備品費など
30万円以上 資産計上 (無形固定資産)
ソフトウェア

ここに少額減価償却資産の特例とありますが、中小企業者や個人事業主が取得価額30万円までの減価償却資産を取得した場合には、その全額を経費として認められる特例となります。年間の限度額が300万円となっており、ソフトウェア、ハードウェア、その他備品等に利用できる特例です。

まとめ

クラウドサービスは、ソフトウェアを超えた総合的なサービスとも言えますが、人工知能(AI)やスマートスピーカーのようなIoT(Internet of Things)と呼ばれる機器との連携が進み、今後も形を変えていくと思われます。
 
ソフトウェアの始まりは、その用途を限定して必要な機能だけをソフトウェアに期待していましたが、今後は数ある選択肢の中から、何をするためにどのサービスを選ぶかの見極めがますます重要になっていくでしょう。

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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