フリーランスは労働基準法の適用外!労働者との違いや注意点、対策を解説

[取材/文責]矢萩あき

働き方の多様化によって、より自分に合ったワークスタイルが選べるようになってきています。雇われるよりも起業してフリーランスになる働き方も人気ですが、注意しなければならないポイントもあります。フリーランスが労働者と違う点を知り、自分の身を守るために必要な考え方などを説明します。

労働者とフリーランスの違い

労働者は労働時間が決まっていて賃金も確実に受け取れる

基本的に労働者は、会社の所定就業時間に合わせて働きます。終業時間になれば仕事を終わらせることができ、残業をする場合はその分の残業代が受け取れます。休日出勤をした場合も同じように休日手当があり、残業代や休日手当といった時間外労働に対して支払われる賃金は割増されます。また残業や休日出勤をさせる場合は、労使間で36協定を結んでおく必要があり、締結した36協定を超えない範囲でしか時間外労働をさせることができません。働き方改革関連法の施行により残業時間に上限が設けられるなど、さらに労働者の長時間労働は厳しく制限されつつあります。
 
労働者は賃金も、労働の対価として確実に受け取れます。賃金の支払方法について労働基準法はとくに厳格に規定していて、使用者はこの定めに基づいて労働者に賃金を支払わなければならないからです。労働基準法第24条において賃金の支払いは通貨で、全額を、労働者に直接、毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければならないとされていて、これは「賃金支払いの5原則」と呼ばれています。

フリーランスは労働時間も報酬受取も不安定

労働者が労働基準法で保護されているのに対し、フリーランスには守ってくれる法律はありません。労働時間の制限はなく、長時間・休憩なしの拘束や作業といった労働を強制される危険があります。確実に報酬が支払われる仕組みにもなっておらず、理由なく成果物の受取を拒否されたり報酬支払いを遅延されたりするトラブルも多く発生しています。

労働者を保護する労働基準法とは?

労働基準法の意味と目的

労働基準法は1947年に制定された法律です。終戦後の民主化の一環として、労働者保護を目的として制定されました。長く続いた封建制度のなごりから当時は使用者が上の立場、労働者が下の立場に置かれ、圧倒的な力の格差による支配関係にありました。そこで、力を持つ使用者から弱者としての労働者を守るために制定された法律が労働基準法です。

労働基準法の具体的な内容

労働基準法は労働時間について1日について8時間、1週について40時間と定めています。休憩時間は労働時間が6時間を超えて8時間以下の場合は少なくても45分、8時間を超える場合は1時間を与えなければなりません。「8時30分始業、1時間の休憩を挟んで5時30分終業」や「土・日休みの週休2日制」を採用している会社が多いのは、この労働基準法の定めによるものです。
 

賃金についても労働基準法の定めより悪条件にならない方法で、労働者に支払う必要があります。遅延や全部、または一部分について自社製品による現物払いは、労働基準法違反です。前払分の返済として行う天引きであっても労働者の了承を得ずに勝手に行うことは、全額払いの原則に抵触するとして認められていません。

フリーランスと労働基準法

フリーランスは労働基準法の適用外

労働基準法は労働者のみを対象にした法律で、フリーランスには適用されません。労働基準法第9条は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定めていて、雇用契約を締結した使用者によって指揮監督を受けながら仕事をする人が労働基準法上の労働者とされています。
 

フリーランスは雇用契約を結んだり指示、監督をされ仕事をしたりしないので、労働基準法上の労働者には該当しません。したがって労働基準法は適用されず、保護を受けることはできません。

労働基準法の代わりになる法律は?

フリーランスには労働基準法のような、身分や権利を守ってくれる法律はありません。公正で自由な競争を促進するための独占禁止法(正式名称は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)や、下請け事業者保護のための下請法(正式名称は下請代金支払遅延等防止法)がフリーランスにとって労働基準法の代わりになる法律です。

 

独占禁止法は報酬や納期といった条件を一律にするなどして、フリーランスの自由な事業活動の機会を奪うことを防ぎます。下請法は独占禁止法を補完する法律で、成果物の受け取り拒否禁止や60日以内の報酬支払いなどを定めています。

フリーランスに必要な働き方ポイント

労働者との違いを自覚しよう!

フリーランスは自由な働き方ができる反面、弱い立場に置かれやすいというデメリットがあります。労働基準法の保護を受けることができる労働者とは違い、身分や権利の保護が十分にされていません。発注者との力関係で、不利益を被る危険に常にさらされています。
 

フリーランスとして働いていくためには、このような労働者との違いを理解しておくことが必要です。労働時間や報酬の受取について不安定であることを意識していれば、トラブルを回避したり、対応策を準備して大問題への発展を防いだりすることができます。

変化に敏感になろう!

2017年1月26日、フリーランスという働き方を支援する団体として「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」が設立されました。フリーランスによるフリーランスのための非営利団体で、フリーランスという働き方が認められ、活躍できる社会にしていくことを目的にしています。同年4月20日に一般社団法人となり、フリーランスの実態を明らかにするフリーランス白書作成や政策への提言、キャリアアップのためのセミナー・勉強会の開催などの活動を行っています。

 

フリーランス協会の会員向けサービスの1つにベネフィットプランがあり、法律事務所への初回相談無料サービスなどを行っています。独占禁止法への抵触が疑われるようなトラブルには、このようなサービスの利用で対抗するのも1つの方法です。

 

法整備をはじめとする、国としてフリーランスを保護しようとする動きも出てきています。公正取引委員会は2017年8月から2018年2月にかけて「人材と競争政策に関する検討会」を開き、報告書をまとめました。その報告書をもとに2019年9月に公表された「人材分野における公正取引委員会の取組」は、フリーランスが不当に不利な条件で取引する行為は独占禁止法上問題となり得るとしています。著しく低い報酬での取引要請や成果物の受領拒否、成果物の権利などの一方的な取り扱いがフリーランスに不当に不利益を与える「発注者の優越的地位の濫用」に該当するとし、的確な対処に取り組むとしています。

まとめ

労働者は労働者保護を目的に制定された労働基準法によって、不利益を被らないように守られています。労働基準法のような法律はフリーランスにはないため、不当な扱いを受けやすくなっています。きちんと自覚を持ち、必要な情報収集などを怠らないようにしましょう。

複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。

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