2020年度の国の税収が過去最高にコロナ禍なのになぜ?国民にメリットは?

[取材/文責]マネーイズム編集部

2020年度に私たちが納めた国税(所得税、法人税、消費税など)の金額は約61兆円で、過去最高に達したことが、財務省の集計で分かりました。昨年暮れ時点での政府の見積もりを大きく上回ったのですが、素朴な疑問は、「新型コロナで景気が悪いのに、税収が増えたのはどうして?」ということ。今後の国民生活への影響も含めて解説します。

20兆円越えの消費税が、初の「首位」に

6月5日に財務省が発表した2020年度の国の税収は、60兆8,216億円(前年度比4.1%増)となり、これまでの最高だった18年度(60兆3,564億円)を上回りました。政府は、新型コロナ感染拡大の影響を織り込んで、昨年12月時点で、昨年度税収の見込みを当初予算から約8兆円減額し、55兆1,250億円と発表していたのですが、想定ほどは落ち込まなかったことになります。

 

税目ごとに見ると、まず国税の「基幹3税」の税収は、次の通りでした。

 

  • 所得税 19兆1,898億円(前年度比0.1%増)
    うち・源泉分 15兆9,976億円(0.4%増)
      ・申告分 3兆1,922億円(1.3%減)
    • 法人税 11兆2,346億円(4.1%増)
    • 消費税 20兆9,714億円(14.3%増)

     

    このほか、相続税2兆3,145億円(0.6%増)、揮発油税2兆582億円(9.8%減)、酒税1兆1,336億円(9.1%減)などとなっています。

     

    では、直近の国の「目算」が狂うほど税収が大きくなった原因は、どこにあるのでしょうか? 上の数字を見ると、特に法人税、消費税の伸び率の高いことがわかります。報道によれば、コロナ禍に見舞われたものの「巣ごもり需要」は旺盛で、消費の落ち込みが限定的だったことや、一足先に景気が回復したアメリカや中国向けに、製造業を中心とした輸出が伸びたことで、法人税収が想定を超えて増加したということです。

     

    消費税は、19年10月の税率引き上げの効果が通年で表れたことなどから、1989年4月の導入以来、税収が初めて20兆円を超えるとともに、所得税を抜いて税目別のトップに躍り出ました。税収の1/3超を消費税が占める結果になっています。

    素直には喜べない?

    収入が増えて「国の財布」が暖かくなること自体が好ましいのは、逆の状況(税収がどんどん減って、財政がやせ細る)を想像すればわかります。しかし、新型コロナによる影響が長期化し、家計が厳しくなっている多くの国民から見ると、少なからぬギャップを感じるのも事実です。

     

    ネットニュースには、「コメント欄」がありますが、こうした記事に関しては、経済評論家やシンクタンクの研究員といった専門家が意見を寄せるので、事実の「深読み」に役立ちます。この件に関するそうした人たちのコメント(要約)を、いくつか紹介してみましょう。

     

    • 税収が過去最高になったのは、日本の景気が良くなっているからではない。景気の波の影響を受けにくい消費税の増税効果が表れたことが、最大の原因だ。今後、景気が回復しても、税収はそれほど増えない可能性が高い。
    • コロナ禍で日本の所得(GDP)は22兆円も減少した。それで国の税収が過去最高と言われても素直には喜べない。法人税収の増加は「巣ごもり消費」の恩恵を受けた一部企業の好業績を反映しているが、もともと赤字で税金を納められていない中小企業の業績は反映できていない。
    • 個人消費は、行動制限の影響で外食・宿泊・娯楽などの消費が激減し、「巣ごもり消費」が増えた。しかし、その中身は在宅ワークに合わせたIT機器の購入や住宅改修など、いわば必要経費の面もある。そこに高税率が課されて消費税収が増加しても、国民としてはまったく喜べない。
    • GDPが大きく減ったのに税収が増えているということは、コロナショックで経済が厳しかったにもかかわらず、税負担がかなり重かったことを意味する。経済の正常化を最優先して自然に「プライマリーバランス」(後述します)を改善するのは良いことだが、経済の正常化の足を引っ張るような増税によりそれを目指すのは、本末転倒だ。

     

    あくまでも「参考意見」ではありますが、マスメディアの表向きの報道にはない分析には、興味深いものがあります。

    どう使われるのかが問題

    ところで、国の収入(「歳入」)は、税収だけではありません。2020年の当初予算では、歳入総額102兆6,580億円のうち、「租税・印紙収入」は約62%(63兆5,130億円)でした。残りは何かというと、約32%(32兆5,562億円)は「公債金」すなわち国債を発行して得るお金=国の借金なのです(「その他の収入」が約4%)。

     

    税収が増加したことで、昨年度の新規国債発行額は、約4兆円抑えることができました。ただし、借金の総額(国債残高)は毎年増え続け、1000兆円を超える規模になっています。仮に家計にたとえると、毎年1,000万円近くの出費がある一家の年収は、ずっと600万円程度。足りない分は、仕方なく借金でまかなうのですが、その残高があれよあれよという間に1億円を超えてしまった――。それが、日本の国家財政の現実です。

     

    一方、そんな借金までして何に使っているのか(「歳出」)を見ると、同じく20年度当初予算で、社会保障約35%、公共事業約7%、文教費約5%、防衛費約5%。地方交付税など約15%のほか「国債費」(国債の償却、利子の支払い)約23%などとなっています。つまり、収入の1/4近くを借金返済に充てなければならないという、なんとも苦しい状況になっているわけです。

     

    政府は、家計と企業を含めた国民経済の1つの主体に過ぎません。この数字だけを見て「日本は危ない」と言うのは早計でしょう。とはいえ、国債残高の対GDP比では、「世界一の借金大国」のレッテルを張られているのも現実で、改善の必要があるのは言うまでもありません。

     

    歳入総額から国債などの発行(借金)による収入を差し引いた金額と、歳出総額から国債費などを差し引いた金額のバランスを「プライマリーバランス」(PB=基礎的財政収支)と言います。これがプラマイゼロならば、国債の発行に頼らずに(税収により)、国民生活に必要な支出がまかなえていることになります。

     

    日本のPBは、説明してきたように赤字が常態化しています。政府は過去に何度も「PB黒字化」の目標を掲げてきましたが、“逃げ水”のように未達に終わりました。安倍内閣時代に唱えられた「2025年までに黒字化」という目標も、2020年11月に公表された経済財政白書では、記述自体が消えてしまいました。コロナ禍による財政支出もあって、達成困難ということなのでしょう。

     

    こうして現状を踏まえて、今回の税収上振れ分については、財政健全化に向け国債の償還財源に多くを割く必要があると主張される一方、補正予算で、コロナ対策のほかデジタル化、脱炭素化、防災対策などに積極的に振り向けるべきだという意見もあります。いずれにしても、私たちが納めた税金ですから、その「行方」をしっかり見届けたいものです。

    まとめ

    2020年度の税収は、法人税や消費税の高い伸びなどもあって、過去最高のおよそ61兆円に達しました。コロナ禍中での税収増には、「巣ごもり消費」や輸出増などが影響しましたが、手放しでは喜べない現実もあるようです。

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